文書問題を巡る兵庫県議会の百条委員会で、斎藤元彦知事への証人尋問が25日午後3時ごろから始まりました。斎藤知事への尋問はこれが最後となります。
証人尋問でも大きく取り上げられている公益通報の問題について、元大阪地検検事で弁護士の亀井正貴に聞きました。
【亀井正貴弁護士】「(斎藤知事は)公益通報に関する前回の供述内容と変えていないんです。せっかく戻ってきたのであれば、例えば自分の記憶については事実の問題なので変えなくていいと思うのですけど、公益通報に当たるかどうかという法解釈の問題については、冷静に考えた上で改めて答えを出した方がいいんじゃないかというふうに思います」
■「法律上保護される公益通報に当たらないと判断」と斎藤知事
25日の百条委員会、斎藤知事が出頭し最後の証人尋問が行われました。
この中で告発文書に書かれた7つの疑惑や、告発文への対応などが議題に上がりましたが、その中でも最も多く時間がとられたのは、元県民局長の告発は公益通報に当たるかどうかという問題です。
ポイントとして、
・告発文の取り扱いは適切だったか
・犯人探しは正当だったか
ということがあげられます。
告発文について、時系列で整理すると、
3月12日:元県民局長が告発文を報道機関などに送付
3月20日:斎藤知事が告発文を把握
3月21日:斎藤知事が調査を指示
3月25日:副知事らが元県民局長に聴取。公用PCを回収
4月4日:元県民局長が県の公益通報窓口に通報
5月7日: 斎藤知事が元県民局長を停職3カ月の処分とする
公益通報にあたるのかどうかについて、これまでの発言をまとめます。
・斎藤知事は、「法律上保護される公益通報(外部通報)には当たらないと判断していた」としています。
・片山前副知事は、「別の幹部が第三者による調査を進言したが、斎藤知事が『時間がかかる』と否定した」と説明しています。
■「私の所に届いていたらクシャッとした」と片山前副知事
25日は片山前副知事の証人尋問も行われ、その中で告発文に関して次のように説明しています。
・公用パソコンの内容も確認し不正な目的と十分認識していた
・不正な目的だったので当初から(公益通報に)含めなかった
・(情報が)最初に私の所に届いていたらクシャッとしとった
自分で解決したという含みがある表現がありました。
片山前副知事の発言内容について亀井弁護士は次のように指摘します。
【亀井正貴弁護士】「間違いだと思います。不正の目的というのは公序良俗に反するような違法性の高いような目的をいう。例えば私利私欲が混じっていたとしても、それは不正の目的とはいえないんです。総合的に判断するので、しかも不正の目的と認定するハードルは非常に高いんです。容易に不正の目的が認定されないので、例えばクーデターとか政府を転覆するわけではないので、あくまで兵庫県政の問題を指摘するものですから、不正な目的という認定は誤りだと思います」
また「私の所に届いていたらクシャッとしとった」という片山前副知事の発言がありました。
【亀井正貴弁護士】「結局、自分のところで全部握りつぶせるというような表現に読めます。そもそも公益通報の趣旨とかを理解していないのではないか。そういう局面にこれまで遭遇したこともないんじゃないかというふうに思います」
■「百条委員会でやるべきことは“人間関係”」と鈴木哲夫氏
3月12日に告発文が報道機関に配られましたが、その時点で公益通報に当たると亀井弁護士は考えています。
【亀井正貴弁護士】「公益通報は、その対象事実というのは、例えば犯罪に関わるようなことで、消費者の生命とか害するような事実だったら全部公益通報に当たるんです。これは形式的に当たる。ただ守られるべき公益通報かどうかはまた別なんです。内部通報と外部通報によって守られるべき、例えば懲戒にもされないし、何らかの賠償責任を受けないという守られるべきものはハードルが高くなります。前提として形式的に公益通報にはすぐ当たるんです」
公益通報者保護法では、告発者探しと不利益な取扱いは禁止されている中で、3月12日から公益通報だという認識があれば不利益な取り扱いはされないようになっていたはずだということになります。
【ジャーナリスト 鈴木哲夫さん】「実質的には3月12日が公益通報にあたるという解釈でいいと思うんです。もう一つ僕は百条委員会でやるべきことは、“人間関係”なんですよ」
「行政どこもそうなんですが、新しい政権ができたりすると、それまでの県庁の中の人事・人間関係というのがずっとあるわけ。力学が変わってくると、そこで“知事派”だとかそうじゃないとか、僕はやっぱりそういうものが背景にあると、最初から感じていた」
「この辺も出すことによって、もしかしたら簡単に解決するかも。『なんだ、そこの人間関係じゃないか』とかね。話が公益通報という制度論になっているから、行政の中の日常ありがちなドロドロした人間関係みたいな、対立構図みたいなところを明らかにしてほしいという気がするんです」
■「公益通報に当たりうるという考え方が欠落」斎藤知事に対して亀井弁護士指摘
斎藤知事の25日の証人尋問の中で、公益通報に関して次のような発言がありました。
・外部通報に「真実相当性がない」ということで、保護要件にあらない
・「公益通報」への処分ではなく、「誹謗中傷の文書作成」の処分で適切だったと思う
このような発言がありました。
【亀井正貴弁護士】「誹謗中傷なのかどうかは公益通報と全然別なんです。誹謗中傷が含まれていたとしても、公益通報は当然あり得るわけなんです。恐らく誹謗中傷は、例えば名誉毀損とか違法行為であり、場合によっては犯罪行為だから潰していいんだと意識が走っていたと思いますけれども、公益通報にも当たりうるということの考え方が欠落しているということです」
「外部通報に真実相当性がないということに関しては、言っていることはこのとおり。現実に真実相当性がないのかどうかというのは、例えば物的証拠、ラインやメールとかですね、そういうものによって事実を認められるものなのかどうかとか。あるいはかなりしっかりした証言が得られているかどうかということの判断で、これは中身を見てみないと一概に言い切れないと思います」
【関西テレビ 加藤さゆり報道デスク】「25日午前の百条委でも、外部の有識者を招いて公益通報制度そのものについての意見がありました。その中で、大企業でも公益通報窓口を持っていても、実際に利用されるケースは少なくて、特に最初の段階で不利益な扱いを受けるんじゃないかとか握りつぶされるんじゃないかと見えてしまうと、そもそも信頼関係が破綻してしまっている。そうすると形だけになってしまうとことが懸念されると言っていました。まさに今回の前副知事の発言に、公益通報制度を後退させてしまわないかなという懸念を持ちました」
兵庫県庁内のコンプライアンスやガバナンスについて、「意識は低かった」と亀井弁護士は述べました。
【亀井正貴弁護士】「そういう意識は低かったと思うんです。内部通報がなかなか機能しないから、外部通報に流れていくんです。内部通報しても潰されてしまうから」
「(鈴木哲夫さんの指摘にあったように)公務員の中ではドロドロした人間関係がありますから、特定されてしまう危険性が高い。自分が特定されてしまうと、さらに情報源に広まっていく可能性が高い。ということから内部通報は危ないと思って、外部に流した可能性もあると思います」
■公益通報した人を解雇・懲戒処分した事業者に刑事罰課す動き
公益通報を巡って国が法改正の動きを見せています。12月24日、消費者庁の有識者検討会が案を取りまとめました。
・公益通報した人を解雇・懲戒処分した事業者に対し刑事罰を課すことを求める(現行法では罰則はない)
・通報者探しについて禁止規定の策定へ(こちらは罰則なし)
解雇懲戒処分した事業者に刑事罰を科すことで、抑止になるのでしょうか。
【亀井正貴弁護士】「もともと2006年に公益通報制度は整理されたのですが、罰則は最初なかったんです。だから、私は企業の顧問とかやっていますけれども、私の頭の中では罰則がついてくると思っていなかったんです。例えば解雇を無効にして通報者を守るというような民事的な保護制度があったんですけれど、刑罰がくるとなると相当プレッシャーがかかると思います」
「基本的に消費者庁がやって、消費者の利益を守るためでもありますが、同時に労働問題でもあるんですね。労働者が通報したことに関して、事業者がそれを潰しにかかることを止めようとするんです。その意味では本来民事的に解決できたものが、もう規制できなくて、刑事罰に踏み込んだわけです。恐らく兵庫県の問題がアクセルを踏ませたんだと思いますけれども、これは私にとって驚きでした」
全国的にも公益通報した人が、解雇や懲戒処分をされるという事例は多いということです。
【亀井正貴弁護士】「事例は増えているんです。だから規制を強くしなければならないという機運というのは確かにあったんです。だけど単に解雇を無効にする、懲戒処分を無効にするにとどまらず、ペナルティを刑罰にまで広げるというのは、それだけ規制の必要性は高まったのだと思います」
【亀井正貴弁護士】「今回の兵庫県の対応は、この規制の流れからすると完全に反することになります」
民事で解決できるような方法として、第三者機関のような組織を作り、客観的に結論を出すことを義務付ける制度があったら、刑事罰までいく手前で解決することはできないものなのでしょうか。
【亀井正貴弁護士】「公益通報者を保護するという意味において、第三者機関の設置というのは有効です。でも民事的に懲戒を無効にするとか、解雇を無効にするというだけでは、裁判になるわけです。裁判になったら労働者も裁判に立ち向かわなければいけなくなって、かなり不利益をこうむるわけです」
「だから裁判にもさせず、刑事罰によって通報者潰しをさせないようにする必要性はあったということですね。第三者委員会の設置は、通報者を保護する一つの方法としてはもちろん重要だと思います」
(関西テレビ「newsランナー」 2024年12月25日放送)
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