豊かな自然で人気の福岡県糸島市。天然マダイの漁獲量日本一を誇るなど豊富な海産物も魅力の一つです。そんな糸島で捕れる新鮮な「地魚」をより多くの人に知ってもらうため、「地魚バンク」という仕組みを作り、さらに魚介に合うワイン造りにも乗り出した男性がいます。

人気直売所お客さんのお目当ては

日曜日の朝8時。福岡県糸島市にある人気の直売所「志摩の四季」には開店前から多くの人たちが列を作ります。

そのお目当ては、糸島で捕れた活きのいい魚です。漁獲量日本一を誇るマダイは2匹で750円。新鮮な魚が格安とあって、お客さんたちは開店と同時に旬の魚をゲットしていきます。

男性の常連客「これアジですね、こっちはブリ、やっぱり鮮度ですね!あとは漁師さんのこだわり。名前で買ったりするんですよ」

女性客「ここは種類が多くて新鮮だから、やっぱり漁師さん直だから安いしキレイでイイです」

新鮮な魚を厨房でさばいているのが「地魚バンク」の馬淵崇(まぶち・たかし)さんです。

旬の地魚で作る海鮮丼

地魚バンク代表 馬淵崇さん「サワラです。すごい脂がのってるんで海鮮丼屋では炙りにしてどんぶりにのせますね」

馬淵さんは、直売所「志摩の四季」の中にある海鮮丼のお店を経営しています。

糸島で水揚げされ、直売所に並べられた鮮魚の中から馬淵さんたちが選び、すぐにさばいて丼ネタにしていきます。

ヒラマサとマダイ、サワラなど、どれも直売所で購入できる糸島の地魚です。

糸島海鮮丼(大)1580円

常連客「実は昨日も来たんですよ。アジとかタイとか、カンパチとかコスパ最強ですね。この値段でこのクオリティはないです」

常連客「定期的にここに食べにくるんですよ。お魚買いに来たついでにここで食べる。それとアラ汁がおいしいですよね」

ワンコインで充実の「朝ごはん」

海鮮丼屋のまかない朝ごはん 500円

直売所がオープンする午前8時半からは「まかない朝ごはん」を提供しています。

好評のアラ汁や、刺身の切れ端を「漬け」にしたものなどで500円のワンコイン、糸島の地魚を余すところなく活用しています。

馬淵崇さん「本当に糸島の魚しか使ってないんですよ。ウチだから(漁師さんが)助けてくれます。『お前んとこ商売できんやろ今日こんだけ時化(しけ)が続いとったら。オレがちょっと漁に出ちゃあけん』みたいな感じで。そういう魚なんでよりおいしく出そうと思うし、地元の生産者の人に喜んでほしいっていうのがあって」

農業コンサルから「地魚」の世界に

料理の経験はまったくありませんでしたが、直売所に出入りするうちに海鮮丼のお店をオープンさせることになったのです。

馬淵崇さん「最初は(漁師が)怖くて。でも僕は(魚の事を)知らなかったんで、今も知らないことがいっぱいあるんで、知らないことを聞くっていうふうにしていました。素直に『この魚おいしかったです』っていうのを伝えていくと、少しずつポロっと話してくれるようになった、というのを十何年続けてきましたね」

漁師の声に耳を傾け、経験を積む中で、海鮮丼は直売所の名物に成長。

「駅前のバル」でお酒と魚堪能

4年後の2015年にはJR筑前前原駅前にバルをオープンしました。

旬の地魚の刺身の盛り合わせのほか、イギリス風のフィッシュ&チップス、海鮮パスタなど、お酒を飲みながら糸島の魚を堪能することができます。

「地魚の価値」高めるために

漁師さんたちと一緒に糸島の魚を盛り上げてきた漁協の鹿毛さんも馬淵さんの良き理解者です。

糸島漁業協同組合業務課長 鹿毛俊作さん「漁協は漁師さんが捕ってきた魚を市場におろしてそれで終わりの仕事やったけど、馬淵くんが『もうちょっと地魚を大事にせないかん』って言って。『糸島にこげないい魚がある』っていうのも、みんな糸島に住んでいる人自体が当たり前になり過ぎて忘れよったのをアツく語られたのが第一印象」

畑違いの農業コンサルから飛び込み、漁業関係者も巻き込んで糸島の地魚の価値を高めようと取り組んできた馬淵さん。

会員制の「地魚バンク」とは

その活動を広めるために設立したのが会員制の「地魚バンク」です。

糸島の漁業の現状を知ってもらうとともに地魚の価値を高めていくことを目指して、体験イベントや観光客向けのツアー、料理教室などを次々に企画、インバウンド向けのPR動画も制作しています。

100年後も見据えて活動

馬淵さんは「地域で100年後も喜ばれる」ことを活動の理念に掲げています。

馬淵崇さん「長いようで短いのが100年だと思っていて、目先のことだけで判断して例えば『大きな設備・施設を作っちゃった。で、コレどうするの?』と。そうならないよう責任をもった形で、しっかり100年後をイメージしながら、どうあるべきかというところが自分の中ではテーマ。多分一生そこに向き合っていくとそういうふうに思っています」

ワイン造りにも挑戦

カキ小屋の客「あ、これ、絶対カキと合う!」

糸島市二丈の山中にある真新しい建物で、地魚に合うワイン造りに挑戦しています。

馬淵崇さん「魚を捕っている地域・漁村、そういったものを丸ごと価値化していくというか、楽しんでいただくみたいなことができないかなって思っている中で、カキ小屋とかに行くと、糸島のカキ小屋は(お酒の)持ち込みが自由で、それがひとつの魅力なんですけど…。糸島のカキと糸島の地ワイン楽しんでいただくっていう世界も面白いのかなとか」

地元の農家から提供された荒地を開墾、有志たちの協力も得て、糸島初となるワイナリーを作りました。

ワイン・魚介だけでなく宿泊も

馬淵崇さん「こちらは飲食棟ですね。ここでいろんな地魚料理を出してワインと一緒に楽しんでいただくっていうスペースですね」

こちらのワイナリー、宿泊も可能です。

馬淵崇さん「2部屋ですね、シングルがふたつと…」

ゆくゆくは周囲も整備して糸島を楽しむ拠点とする計画です。

10月に行ったワインの仕込みを体験するイベントも大盛況でした。

参加者の女性「楽しいですよね。だってこんなめったにない機会を与えてもらって」

参加者の男性「(馬淵さんは)みんなのリーダー。糸島の楽しさを教えてくれた人ですかね」

オリジナルのワインの味は?

去年、馬淵さん自身が初めて発酵管理やブレンドを手掛けて醸造を委託したオリジナルのワインがこちら。

マスエワイナリのワイン『2023kolehena』2,750円

ブドウの皮や種も残して発酵させたオレンジ色の白ワインです。

ワイン仕込み体験に参加した男性「あ~おいしいです!」

こちらのワイナリーで醸造中のワインも間もなく完成する予定で、糸島のカキ小屋でも年末には糸島ワインを楽しめる計画です。

「一歩ずつ地道に」ブドウ栽培も

馬淵崇さん「もうブドウ作りは本当に終わりがないって言われているので、その品種の特性がでるまで15年かかるとかですね。新しい世界ですけど一歩ずつ、地道なのは得意なんで」

<参考>

■JF糸島志摩の四季
糸島市志摩津和崎33-1

■駅前のバル
糸島市前原中央2-1-21
営業/木・金・土

■糸島マスエワイナリ
糸島市二丈松末712-1

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