昭和基地で振る舞われている食事のサンプル=東京都世田谷区上用賀2の東京農業大「『食と農』の博物館」で2024年12月14日午前11時45分、畠山嵩撮影

 14日は「南極の日」。1911年12月14日にノルウェーの探検家ロアール・アムンセンが人類史上初めて南極点に到達したことを記念して定められた。

 「氷の白と空の青しかない」とも表現される南極。農作物も作れない極限の大地で調査研究活動に励む人々は何を食べているのだろう。そんな疑問に答える企画展「南極飯!」が東京都世田谷区の東京農業大「『食と農』の博物館」で開かれている。

 企画したのは、元南極地域観測隊員の田留健介・東農大准教授で、2020年1月から約1カ月半、第61次南極地域観測隊のメンバーとして南極大陸に渡った経験を持つ。

 東農大大学院で造園学を専攻し、植物の病原菌の研究が専門。コケ類や、菌類と藻類の共生体である「地衣類」の研究を続けてきた。

 南極では、研究のために昭和基地から約600キロ内陸にある、ベルギーのプリンセス・エリザベス基地に他の日本人隊員2人とともに滞在。南極大陸北東部に位置するセールロンダーネ山地で生物調査に当たった。

 そこでの経験が今回の企画のきっかけになった。

南極での調査活動の際に撮影した写真を前に当時を振り返る田留健介・東京農大准教授=東京都世田谷区上用賀2の東京農業大「『食と農』の博物館」で2024年12月14日午前11時35分、畠山嵩撮影

 南極滞在中は午前5時ごろには起床し、スノーモービルで約1時間かけて調査現場に向かった。一日中調査し夕方5時から6時ごろには基地に戻る。

 そんな極限環境での生活での楽しみは「基地に帰ってきて温かいご飯を食べる」ことだった。

精神安定の切り札

 田留さんが滞在した基地にはフランスのシェフが2人常駐していた。

 キッシュ、ニョッキ、パスタ、そしてキャベツをベーコンで巻いた逆キャベツロール――。

 毎日、フランス料理などが振る舞われたが、美食も連日となると、素直に喜べなくなったという。

 田留さんは「確かにとてもおいしいけど、毎日だとやっぱり飽きてしまいました」と苦笑いする。

第1次南極地域観測隊の食事風景の様子を、写真を前に説明する田留健介・東京農大准教授=東京都世田谷区上用賀2の東京農業大「『食と農』の博物館」で2024年12月14日午前11時43分、畠山嵩撮影

 では、南極でフランス料理にも勝るおいしい料理は一体何だったのか。

 「一番おいしかった食事を正直に答えると、持参したカップ焼きそばなんですよ」と打ち明ける。

 「『こんなにおいしかったかな』みたいな感じでした。日本に居たときと同じ食生活を送れるということで精神的に落ち着いたんですね」と説明する。

食を巡りいざこざも

 南極での食生活でもう一つ思い出に残っているのがカレーだ。

 ベルギーの基地では土日はシェフが休むため、隊員が交代制で食事を作る。

 田留さんは、日本でも売られているカレールーと基地の冷凍庫にあった鶏肉、ジャガイモを使って「日本のカレー」を作って振る舞った。

 「バカウケしました。『こんなにうまいカレーは食べたことない』と言われました」

 田留さんも入れて基地には約35人の隊員がいた。

 カレーは多めに作ったが、隊員の1人が大きなボウルにカレーを入れて部屋に持って帰ってしまい、食事の時間に遅れてきた隊員の分がなくなり、口論に発展するほどだった。

食を通じて南極の魅力を伝えたい

 企画展では、1957年に昭和基地を建設した第1次南極地域観測隊の食事の様子を写した写真や、現在も昭和基地で振る舞われているラーメンやすし、おでんなどの約50もの食事の食品サンプル、基地内のバーを再現したコーナーなどが展示されている。

昭和基地内のバーを再現したコーナー=東京都世田谷区上用賀2の東京農業大「『食と農』の博物館」で2024年12月14日午前11時48分、畠山嵩撮影

 田留さんは今でも南極に降り立った瞬間、キンキンに冷えた鉄板の上を歩いているような足裏の感触を忘れられないという。

 「氷と空と海そして岩だけがある異次元の世界ともいえる、地球の生まれたばかりの姿が残っているのが南極の魅力です。そんな極限の大地のことを、企画展を通じて興味をもってもらえたら」【畠山嵩】

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