慶応義塾大学の家田真樹教授らは、生活習慣病などが原因で有効な治療法が無い心不全を改善する技術を開発した。マウスで心臓の細胞に特定の遺伝子を働かせたところ、心臓の機能が改善し、運動する能力も高まった。ドナー(提供者)不足で心臓移植が困難ななか、研究チームは投与技術の開発も進め、臨床応用を目指す。
心不全の患者は心臓が硬くなり、縮んだ心臓が元の大きさに戻りにくくなる場合がある。「HFpEF(ヘフペフ)」と呼ばれ、糖尿病や高血圧といった生活習慣病などが原因で発症する。心臓の筋肉の細胞(心筋細胞)が周囲に悪影響をもたらす「線維芽細胞」に置き換わる。
高齢者の心不全の半数程度はこのタイプとされるが、有効な治療薬は存在しない。心臓移植による治療が有効だが、ドナー不足で十分な治療ができていないという。
研究チームは心不全で増加した線維芽細胞に「Gata4」と呼ばれる遺伝子を働かせて、心臓の機能が改善することを見いだした。家田教授らはこれまでに4つの遺伝子を導入して線維芽細胞を心筋細胞に変換する「ダイレクトリプログラミング法」を開発している。Gata4はこの方法に使う4つの遺伝子の一つで、今回の研究によって線維芽細胞を正常化させる機能を持つことが分かった。
実験には心不全を再現したマウスを用いた。Gata4を線維芽細胞で働かせると、心不全によって発生した線維芽細胞の面積を3割程度減らせた。心機能が高まり、運動能力の回復も見られた。マウスが1度に走れる距離が3〜4割ほど改善した。
臨床応用に向けては心臓の線維芽細胞を狙って遺伝子を導入する技術の開発が課題だという。心筋細胞でGata4を強く働かせると心筋肥大を引き起こし、悪化すれば心不全につながる可能性がある。研究チームは効率的に線維芽細胞にのみ遺伝子を導入するウイルスベクター(運び屋)の開発も進めている。
国内の心不全患者は120万人に上るとされる。近年は食生活の欧米化に伴いヘフペフの発症者が増加傾向にあるという。家田教授は「1因子の導入で治療効果が得られたのは大きな成果だ。今後はいかにヒトに安全に届けられるか研究を進めていきたい」と意気込む。
筑波大学との共同研究で、成果をまとめた論文は国際医学誌「サーキュレーション」に掲載された。
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