関西電力は発電エネルギー源の脱炭素化と電気の安定供給を両立する考えだ。原子力、再生可能エネルギー、火力など多様な電源を活用しながら安定供給を維持するのが「責務」と、森望社長は語る。人工知能(AI)の発展で「電力需要の高まりが見込まれている」ことへの対応を重視。国の中長期的なエネルギー政策の方針で、現在見直しが進むエネルギー基本計画(エネ基)については、蓋然性の高い需要想定を前提にした電源構成案が重要との認識を示す。
【関連記事】
- ・成長へ歩み止めず 官民で道筋探る
- ・未来へつなぐ電源構成に
電気、国の成長力左右
国内のエネルギーを取り巻く状況は現在、重要な局面に差し掛かっている。AI開発を進めるための半導体工場やデータセンターの建設など、新産業の育成にあたり、大きな電力需要の高まりが見込まれている。資源が乏しい日本にとって、電気をはじめとするエネルギーをどう確保していくかは、国の成長力にかかわる根源的な問題だ。
世界的な流れとなった脱炭素も大きな変化だ。当社のような電力会社を含むあらゆる事業者に、温暖化ガス(GHG)排出の抑制が求められている。
脱炭素に関連して新たな産業が生まれることが期待できるため商機とも取れるが、国が規制を過度に設ければ日本国内での事業展開の魅力が薄れ、海外に移転する企業が出る可能性もある。脱炭素対策が大きく遅れれば世界から非難される一方、性急に進めすぎると国内の産業を衰退させる危険性をはらむ。国は現在温暖化ガスの排出削減分を売買する排出量取引を本格化させようとしているが、関連制度の設計は慎重にする必要があるだろう。
当社は脱炭素を実現するため様々な準備をしているが、社会のインフラを担う以上、電気の安定供給を維持する責務がある。そのため我々が重要視しているのが、原子力や再エネ、火力といった多様な電源を確保し、活用していくことだ。
原子力発電は二酸化炭素(CO2)を排出しないため脱炭素に貢献できるだけでなく、安定供給が可能な電源でもある。これまでに全国で東日本大震災後に稼働した14基の原子力発電所のうち、当社は7基を稼働させている。
日本の産業競争力強化や安全保障の観点からも、原子力は有用だ。電気はインフラであるだけに、技術開発から必要なモノのサプライチェーン(供給網)まで一貫して国内の産業として完結させるべきだ。原子力は既にこうした体制の下で設置、運営できる状態にある。
当社では原子力を安全かつ持続的に動かすため、人材育成に力を入れている。ベテラン技術者の知識や技術を若手に継承するための育成計画を作ったり、発電所を構成するそれぞれの設備の特徴や注意点などを学べる機会を設けたりしている。
太陽光や風力発電といった再エネも、脱炭素を実現する上では欠かせない重要な電源となる。当社は再エネを将来性のある次世代の電源と見込み、関連事業に積極的に取り組んでいる。2040年までに国内で500万キロワット分の再エネを新規開発する目標も掲げている。資源が乏しい日本にとって、自然をエネルギー源にできることの意義は大きい。
地元住民との対話不可欠
開発を進めるにあたり、決して忘れてはならないのは地域の皆様への配慮だ。例えば太陽光発電の場合、設備を建設した後もしっかりメンテナンスをして周囲の環境に悪影響が出ないようにしなければならない。東北地方で以前、風力発電所を造ろうとしたが、地域の皆様との対話を十分に深められず、計画を取りやめたこともあった。この教訓を生かし、地域の皆様と密接にコミュニケーションを取りながら最適な方法を共に探っていく姿勢を、今後も大切にしていきたい。
一方、再エネは天候によって供給力が大きく変動する。この変動を補完するのが火力発電だ。火力は従来の方式のまま使うとCO2を多く排出するため、燃料を低炭素なものに替える工夫がいる。
当社では燃焼してもCO2を出さない水素やアンモニアを燃料にできないか検討している。その中でも具体化しつつある取り組みの一つとして、液化天然ガス(LNG)火力に水素を混焼して発電した電気の一部を、大阪府で開催される25年国際博覧会(大阪・関西万博)の会場に供給するプロジェクトが挙げられる。未来社会を体感できる場に、ゼロカーボンの電気を届けたい。
需要増への備え肝要
新たな領域を開拓しつつ、社会に電気を届け続けるため、現実を見据えた経営をしていくのが大事だ。そのためにもう一つ重要なのが、国が策定するエネ基だ。24年度内に第7次が策定される予定で、現在も改定に向けた議論が進んでいる。
脱炭素の流れや新産業の登場で電力需要は増加することが見込まれるが、電源はきょう言ってあすできるものではない。人材も前もって確保しておかなければならない。電力会社が社会に必要な電気を供給するためには、時間軸がしっかりとイメージされた計画が必要になる。
エネ基は国のエネルギー政策の方向性を示す重要なものだ。特に増える需要を賄えるだけの供給力を確保した電源構成はどのようなものか、関係者間で詰めて議論することが肝要だ。将来の需要量を推測するのは極めて難しいが、ある程度決め打ちをしないと前に進めないのも事実だ。経済を成長させるうえで、エネルギーがボトルネックになってはならない。
原発、有用も国民の理解必須
日本原子力文化財団の2023年度調査によると、原子力は温暖化ガスを排出しないエネルギー源として、利活用では再エネに次ぐ支持を集める。半面、再稼働への理解は十分に進んでいない。
同財団が全国の男女1200人を対象に実施した調査で「今後日本が利活用していけばよいエネルギー」を聞いたところ、全年齢層で太陽光や風力、バイオマスなどの再エネ関連が上位を占めた。次に有効な電源としてすべての年齢層が原子力を挙げた。調査は「その他」「あてはまるものはない」を含む12の選択肢を提示し、複数回答可とした。
原子力はCO2を出さないうえ、電気事業連合会によると、燃料となるウランは石油より安定的に確保できる。石油や石炭と比べ少量で発電できるため、輸送や貯蔵も容易としている。再エネは供給力の面で課題が指摘されるが、原子力は脱炭素と電力の安定供給の両方を達成できる。
調査でも「電力の安定供給を考えると、原発の再稼働は必要」と答えたのは全体の35.3%で、同割合は近年増加傾向にある。「原発は役に立つ」と回答した割合は58.3%で、3年連続の増加となった。「原発は地球温暖化防止に有効」との回答は42.8%を占めており、「そう思わない」「どちらかといえばそう思わない」を合わせた10.4%と大きな差をつけた。
一方、安全性の担保や地域住民との十分な合意形成は必須だ。11年の東日本大震災で一時国内の全原発が停止したが、足元では安全性が確認できた原発の再稼働が進み、24年12月時点で14基が再稼働している。調査では「原発の再稼働を進めることについて、国民の理解は得られていない」と答えたのは46.9%にのぼり、「理解は得られている」としたのは5.1%にとどまった。
国の原子力政策も、数字上は順調といいがたい。国が現行の第6次エネルギー基本計画と併せて策定した「エネルギー需給の見通し」では、30年度までに国内の電源のうち、原子力が占める比率を20〜22%にする目標を掲げるが、23年度実績(速報値)は8.5%にとどまる。
経済活動を維持しながら脱炭素を実現するのに原発は有効な手立てだが、推進には市民との丁寧な対話が引き続き求められそうだ。
キーワード エネルギー基本計画
国の中長期的なエネルギー政策の方針を示す計画。2002年に制定したエネルギー政策基本法に基づき03年に初めて定め、約3年ごとに見直している。現行は21年に作った第6次で、24年度内に40年度を見据えた第7次計画を策定する。
国はエネルギー基本計画の改定とおおむね同じ時期に、「エネルギー需給の見通し」と呼ばれる資料も作成し、公表する。エネルギー基本計画で示した方針を実現する上で必要な数値目標や関連データを示すもので、電源構成も含まれる。電源構成が同資料に初めて記載されたのは15年。現行版は第6次エネルギー基本計画と併せて作られた。
最新の電源構成目標では30年度までに再エネを36〜38%、原子力を20〜22%、液化天然ガス(LNG)を20%にすることなどを掲げている。近年は脱炭素を念頭に置いた計画も求められている。
【関連記事】
- ・再エネ比率、40年度に「4~5割程度」で調整 経産省
- ・中国電力、島根原発2号機を再稼働 福島第1事故後14基目
鄭重声明:本文の著作権は原作者に帰属します。記事の転載は情報の伝達のみを目的としており、投資の助言を構成するものではありません。もし侵害行為があれば、すぐにご連絡ください。修正または削除いたします。ありがとうございます。