厚生労働省は、最低賃金の引き上げに伴い、必要性が薄れているとして社会保険への加入によって年収が減ることになる、いわゆる「年収106万円の壁」を撤廃する案を、審議会の部会で了承した。撤廃時期は2年後の2026年10月が想定されている。現在の最低賃金で週に20時間以上働けば、年収106万円以上を得られる地域が増えるというのが理由だ。
【映像】労働時間「週20時間の壁」(説明)
これにより、パートなどの短時間労働者は将来受け取る年金額が増える一方、現在の手取りが減る懸念がある。また労働時間のいわゆる「週20時間の壁」はそのまま残ることで、時間を調整して厚生年金への加入を回避する動きも残る。『ABEMA Prime』では、元厚生労働相で立憲民主党代表代行・長妻昭氏を招き「106万円の壁」撤廃への影響、今後の動きを議論した。
■年収以外にも「労働時間の壁」
現在、給与収入が106万円を超えると厚生年金への加入が求められ、保険料の支払い負担が発生する。保険料の支払いを回避しようと、106万円にならないように働き控えをするのが「106万円の壁」だ。11日、自民党・公明党・国民民主党の3党で合意に達した「103万円の壁」は所得税に関するもので、この他にも従業員50人以下でも社会保険料が発生する「130万円の壁」、配偶者特別控除が減る「150万円の壁」も存在する。
「106万円の壁」撤廃は、厚生年金加入者を増やすことにつながり、将来もらえる年金が増える。また事業者には手取りの減少を防ぐため、保険料負担割合を可変にするなどの案が示され、事業主の保険料負担軽減も今後検討される。ただし、低所得者の手取りが減る、中小企業の負担を増やすことにもつながると、批判が出ている。
長妻氏は「壁が撤廃とあるが、撤廃されない。つまり、ほぼ同じ週20時間という労働時間の壁が出てくる。フランスやドイツにこういう壁はない。フランスなんかは短時間労働者でも基本的には限定正社員だ。正社員だから厚生年金にも社保にも入れる。日本は非正規雇用という働き方を作ってしまったから、社保とか厚生年金に入らないでいいという働き方だ」と述べた。
103万円、106万円、130万円、150万円とある壁についてどう考えればいいのか。「106万、130万は厚生労働省所管、103万と150万は財務省。だから縦割りになっている。やはり壁をなくすには、働き方を非正規雇用という働き方ではなくて、短時間でも正社員になって厚生年金、会社の社保に入ってもらう。あとは103万円、150万円の壁には2つの意味があって、扶養控除の問題と課税最低ラインという問題がある。これは高くしないといけない。2つを分けて解決策を模索するということが必要だと思う」とも語った。
■複雑な制度設計、作り直しはできる?
「壁」の話だけでも、2つの省庁が絡み合い、非常に複雑になっている、パックンも「話を聞くだけですごくストレスが溜まる」とコメント。「全部取っ払ってゼロから作り直すべきだと思う。必ず社会保険に入らなくてはいけないことにするけれど、累進課税的に最初は1%、2%からスタートして、2〜300万円稼げるようになったら5、6%に上げる。せっかく電子化しようとしているのだから、DXを活かして、全ての手続きが1つになって収入と出費が全部1つのサイトで管理されればいい。なんで政府の機関よりAmazonの方が使いやすいのか分からない。Amazonの技術を政府に導入するべきではないかといつも思う」と、根本的な制度の見直し、作り直しが必要だと訴えた。
これには、近畿大学・情報学研究所所長の夏野剛氏が自身の体験談も踏まえ「僕が規制改革をやっている時に、厚労省が一番、改革をするのに複雑な仕組みが裏側にあるので難しかった。利害関係者がたくさんいる。例えば雇用の問題に関しては労働組合の意見があり、企業団体の意見があり、みんな違うことを言う」と複雑さを説明。「何かを改革しようとすると、必ず誰かの利害にぶつかるので、官僚の皆さんと対峙していると『いや、分かっているのだけれど、そこはなかなか言えない』というものがすごく多い。一番多い省庁だなという感じはする。だから僕は厚労省の役人もかなり苦しいなと思う。医療制度の問題なんかも、医師会があり、薬剤師会があって、患者の会があってというふうに、ものすごい利害が複雑に絡んでいるので、バスッとゼロから作り直すのはできない」と述べた。
さらには「今の制度が作られた時の経済状況に最適化されて作られている。例えば雇用の問題に関しても非常に難しい。昭和の時代は企業が全部面倒をみろというのは、一時期国がまだ力がなくて、経済力を民間企業が持っていた時にいわゆる失業対策として企業、特に大企業に押し付けてきた歴史があるし、企業も余力があった。90年代以降、そういうわけにもいかなくなったが、やはり正社員の雇用は守らなきゃいけない。ただ、守れない中小企業がもう8割。ちょっと時代に合ってないなという感じはする」と加えていた。
(『ABEMA Prime』より)
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