「網膜色素上皮不全症」患者への治療開発 神戸アイセンター病院
神戸アイセンター病院の栗本康夫院長らのグループは、網膜の細胞が減って視力が落ちたり視野が欠けたりする「網膜色素上皮不全症」の患者の目にiPS細胞から作った網膜の細胞をひも状に加工して移植する治療の開発を進めています。
グループによりますと、これまで治療した3人の患者はいずれも移植した細胞が定着し、中には見え方が改善した人もいたということです。
先進医療認められるとiPS細胞使う治療としては初めてのケースに
グループはこの結果を再生医療の実施計画を評価する国の部会に提出していて、NHKの取材に対し、部会で了承を得たうえで来月にも先進医療に申請すると明らかにしました。
先進医療は治療そのものの費用は患者負担となる一方、入院費など関連する医療費の一部に公的な保険が適用されるもので、一定の基準を満たせば実施する医療機関を増やすこともできます。
先進医療に認められれば、iPS細胞を使う治療としては10年前に世界初の臨床研究として行われて以来、初めてのケースとなり、グループは、神戸アイセンター病院以外の医療機関でも実績を積み重ねて将来的に治療そのものの保険適用を目指したいとしています。
栗本院長は「iPS細胞は治療として多くの患者に届けられる段階に入りつつある。先進医療としてさまざまな医療機関で実施されれば、実用化により近づくはずだ」と話していました。
グループは6日から大阪で開かれる学会で、これまでに治療した患者の詳しい経過を発表することにしています。
専門家 “患者が治療を受けやすくなるメリット”
再生医療の研究や政策に詳しい藤田医科大学の八代嘉美教授は「研究に近い段階とはいえ、iPS細胞を使う治療が一般の患者に提供できる場所に近づいたことは大きな意味があり、今後の実用化のモデルケースの1つになりうると考えられる。先進医療に認められれば、これまで臨床研究として限られた患者に行われてきた状況と比べて、希望する患者が治療を受けやすくなるというメリットがある。民間の医療保険の中には先進医療の自己負担の部分をカバーできる特約を設けているものもあり、こうした保険を使って費用を抑えることも可能になるかもしれない」と評価しました。
神戸アイセンター病院のグループが開発を進めている治療は、iPS細胞を使った世界初の臨床研究として10年前に行われた治療に改良を重ねてきたものです。
八代教授は「iPS細胞など生きた細胞を使う治療は一般的な医薬品と違って体内で作用する仕組みが複雑で患者によって効果に差が出やすいとされる。グループはこれまで10年間、試行錯誤を重ねてきたと思うが、先進医療に認められたあとも治療を行いながら効果が出やすい患者と出にくい患者の条件などについて調べていくことになる。今回のケースは、ほかの病気でiPS細胞を使う治療の開発を進めているグループにとってもよい前例となるのではないか」と話していました。
先進医療とは
先進医療は最新の治療や検査などの医療技術について、患者の負担を軽減しながら治療実績を積み重ねて公的な保険の適用を目指す制度です。
認められると治療そのものの費用は患者負担となる一方、入院費など関連する医療費の一部に公的な保険が適用されます。
また、治療にあたる医師の経験や医療安全の体制など、一定の基準を満たせば実施する医療機関を増やすこともできます。
先進医療は現在、放射線の一種、重粒子線を使ってがんを治療する「重粒子線治療」や、受精卵の染色体を調べ、異常がないものを子宮に戻す「着床前検査」など、合わせて76の医療技術が認められています。
先進医療として行われた治療の結果を基に安全性や有効性などが定期的に評価されることになっていて、すでに公的な保険が適用されたものもありますが、有効性などが認められず最終的に認定が取り消されたケースもあります。
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