ヒグマの人里への出没を抑制するため、冬眠中の個体を捕獲する「穴狩り」を含む「春期管理捕獲」が2~5月、北海道で実施されている。ヒグマの出没や人身被害の増加を受けて昨季解禁され、今季で2年目になる。今季は区域を拡大し、取り組みを強化するが、効果はあるのか。かつて「絶滅政策」と批判された手法に課題はないのか。(宮畑譲)

◆クマを追いやすく、寝込みも襲える春の猟

 「人里周辺に生息・繁殖するヒグマの低密度化」「人里への出没の抑制」「ヒグマ対策に必要な人材育成」。北海道が1月に公表した春期管理捕獲の実施要領では、大きくこの三つを目的に挙げる。昨季は人の生活圏から3~5キロ圏内で許可していたが、今季は地域の実情に応じて10キロまで可能になった。  春の猟は残雪があって足跡が残るためクマを追いやすい。また、植物の葉も茂っておらず、雪上を歩くクマは視認しやすい。さらに、まだ冬眠中のクマを捕獲する「穴狩り」ができることも特徴だ。

ヒグマのイメージ(環境省「クマ類の出没対応マニュアル」より)

 冬眠中、雌グマと子グマが一緒にいるケースがあり、穴狩りは他の猟と比べて捕獲率が高かった。このため一時、ヒグマが激減したのは穴狩りが原因だったと批判され、1990年に実質的に廃止された。  政策を一転し、道が穴狩りの解禁に踏み切ったのは、近年、ヒグマによる被害が増えていることにある。  2021年度、北海道のヒグマによる死傷者は14人で、記録がある中で過去最多。23年度も2番目に多い9人に上った。農業被害も18年度以降、毎年2億円を超え、増加傾向にある。推定生息数も1990年度に5200頭だったのが、20年度には1万1700頭となり、倍以上増えた。

◆穴狩り、今季の実績はゼロ

 ただ、捕獲数を増やすという面では、春期管理捕獲は今のところ、それほど成果を上げていない。  昨季、道内の19市町村が春期管理捕獲に参画したが、捕獲できたのは20頭。今季は4月12日現在で2頭のみ。ここ数年、年度ごとの捕獲頭数は1000頭前後で推移しており、ごく一部にとどまっている。特に、穴狩りで捕獲できた頭数は今のところゼロ頭だ。  道の担当者は「確かに捕獲できた頭数は少ないが、人里に近づかないようにするといった、クマの行動を変えることも目的。クマの行動の変化を評価するのは難しいが、しばらく続けて様子を見たい」と話す。  順調とはいえない背景として、ハンターの高齢化や不足のため、技術伝承がなされていない点を指摘するのは、NPO法人「南知床・ヒグマ情報センター」前理事長の藤本靖氏。藤本氏は北海道で60頭以上の牛を襲い、昨年夏に捕獲されたヒグマ・OSO(オソ)18の特別対策班のリーダーを務めた経験がある。

◆減りすぎの危険はないのか

 春期管理捕獲について、藤本氏は「射撃だけでなく、足跡や穴を見つける技術も必要。こればっかりは経験で、熟練者に習って初めて分かる。ただ、動ける熟練者もかなり減ってしまった。役所が考えているようにはいかないのではないか」とみる。  仮に、春の猟が軌道に乗ったら、再び数が減りすぎる懸念はないのか。  酪農学園大の佐藤喜和教授(野生動物生態学)は「近年、問題を起こした個体を中心に捕獲してきたが、個体数の抑制には追いついていない。まずは人里近くのクマを追うことで、人は怖い存在だと学習させる意味はある」と言う。  一方で「減らすだけで問題は解決しない。(人とのすみ分けなど)未然防除も不可欠で、目的である被害の減少ができたのかを後で評価しなくてはいけない。捕獲数には上限があるが、減りすぎないことを担保するためにも個体数の動向には注意しておく必要がある」と話している。 

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