性同一性障害特例法に基づき男性から性別を変更した40代女性が、変更前に凍結保存した自身の精子で生まれた子を認知できるかが争われた訴訟の上告審判決で、最高裁第2小法廷(尾島明裁判長)は21日、「法的性別にかかわらず認知できる」との初判断を示し、父として親子関係を認めた。生物学上の父と、性別変更後に生まれた子の親子関係成立について、最高裁が判断するのは初めて。(太田理英子)

◆全員一致で二審判決を取り消し

 裁判官4人全員一致の意見。認知を認めなかった二審判決を取り消した。  判決で小法廷は、民法の親子関係の基本は「血縁上の親子関係」にあるとし「自己の精子で生まれた子と血縁上の父子関係が生じるのは、法的性別が男性か女性かで異ならない」と判断した。仮に親の法的性別によって認知が認められなければ、子が監護や養育、扶養を受けられなかったり、相続人になれなかったりする事態が生じ「子の福祉、利益に反する」とした。  検察官出身の三浦守裁判官は補足意見で、性別変更について定める性同一性障害特例法が制定された2003年時点で、精子の凍結保存など生殖補助医療を使い、性別変更後に子が生まれる可能性は認識されていたと指摘。「20年を超える年月が経過する中、現実が先行している」と立法府に対応を迫った。

◆性別適合手術前に精子を保存、パートナー女性が2人出産

 判決などによると、40代女性が性別適合手術を受ける前に凍結保存していた精子を使い、パートナーの30代女性が18年に長女を、20年に次女を出産。次女が生まれる前に、40代女性が性別変更した。自らを父、2人を子とする認知届を自治体に出したが受理されず、2人が原告となり認知を求める訴訟を起こした。  一審東京家裁は訴えを認めず、二審東京高裁は性別変更前に生まれた長女のみ認知を認めたが、変更後に生まれた次女の認知は認めず、次女側が上告していた。   ◇  ◇

◆重視された「子どもの最善の利益」 識者はこう見た

 法的な性別を男性から変えた40代女性と、自身の凍結精子で生まれた次女との父子関係を認知した最高裁判決に、LGBTQ(性的少数者)の権利問題に詳しい追手門学院大の三成美保教授は「子の最善の利益を掲げる国連の子どもの権利条約の趣旨にも沿った判断だ」と評価した。  さらに、法的性別を変更するための性同一性障害特例法の5つの要件のうち、未成年の子がいないことを求める「子なし要件」の見直し議論に影響すると注目する。要件の目的は「未成年の子の福祉への配慮」とされるが「既に親の外観の変化に直面している子にとって、親の法的性別の変更は影響しない」などと撤廃を求める声は根強い。

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 判決も要件の目的を踏まえ、認知を認めないことが「かえって子の福祉に反する」と指摘。さらに尾島明裁判長は補足意見で「認知を認めると、子の成長や発達に問題が生じるという具体的報告はない」と踏み込んだ。  特例法の要件を巡っては、最高裁大法廷が昨年10月、生殖機能をなくす手術を求める「生殖不能要件」を違憲無効と判断した。生殖機能を持ったまま性別を変え、子をつくることが現実には可能になっている。

◆空文化が明確になった「子なし要件」

 三成教授は「大法廷判決で子なし要件は実質無意味になっていたが、今回の判決で空文化が明確になった」と強調した。  特例法について、立憲民主党が11日、生殖不能要件や子なし要件を削除する改正案を衆院に提出したが、与党側は慎重な姿勢を崩していない。三成教授は「今回の判決が見直しに向けた強力な後押しとなる」とみている。 

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