グーグル元CEOのエリック・シュミット Frederic Legrand - COMEO-Shutterstock

<AIの発展とともにその電力消費量は急増する。技術の進化を促進するには電力供給を早急に倍増させる必要がある>

作家マーク・トウェインは1903年にこう書いた。「電信や蒸気機関や蓄音機や写真や電話といった重要な発明には、それぞれ1000人の人材が要る」と。

この見解は現代にもほぼ当てはまる。AI(人工知能)は、何千何万もの科学者や技術者、業界のリーダーといった人々の数十年にわたる取り組みの成果だ。今後もAIの技術開発にはさらに多くの人材が必要とされるだろう。


AIの進化に欠かせないものがもう1つある。とてつもない量のエネルギーだ。AIは電気食いだ。チャットGPTが1つの問いに答えるのに必要な電力は、通常のウェブ検索の10倍。もし電力供給が需要を下回ったら、AIの技術開発にブレーキがかかってしまう。

オープンAIのGPT-4やグーグルのジェミニといった最先端AIの大規模な開発を支えるデータセンターには、24時間365日、電力を供給しなければならない。こうしたデータセンターの電力消費量はアメリカ全体の電力消費量の約3%に上り、その割合は今後5〜10年で倍増するとみられている。

AIによる電力消費量は2023年の4テラワット時から、30年には93テラワット時に増えるとの推計もある。これは22年の1年間に米ワシントン州で使われた電力よりも多い。ただしこれは低く見積もった数字で、5年くらい前倒しで増加する可能性もある。

AI関連企業にとっての最優先課題は十分な電力の確保だが、民間企業にできることには限りがあり、政府の支援は欠かせない。AI革命を推進するための持続可能な電力供給源の整備はアメリカの国益にかなうばかりか、医療や教育、科学、安全保障といった重要な分野に大いなる改善をもたらし、世界にとっても利益になるはずだ。

電力不足によりAI開発が不発に終わるのを座視したりすれば、それは国家による自傷行為だ。将来の需要増が明らかなのだから、アメリカ政府は今のうちに手を打たなければならない。データセンターのエネルギー需要が2倍になるその前に、アメリカはエネルギー供給を少なくとも倍増させなければならない。


プリンストン大学の研究によれば、アメリカが50年までに経済の脱炭素化を実現するには送電システムの性能を3倍にする必要があるかもしれないという。ならば、電力インフラの近代化に投資すればいい。

だが現行の複雑で時間のかかる認可プロセスが、グリーンエネルギー化の足かせとなっているばかりか、AIの進化にも暗い影を落としている。新しい送電線を建設するのに、計画から認可、土地の取得と建設に平均10年かかるような現状を変える必要がある。

原子力発電にももう一度、目を向けるべきだろう。既存の原子力発電所を再稼働したり、安全性が高く、効率のいい次世代の小型原子炉を新たに建設する必要がある。技術革新と新技術の活用を促進しようと思うなら、1970年代の技術に合わせて作られた規制を変えていくことが極めて重要だ。

23年、ジョージア州でボーグル原発3号機が稼働を始めたが、ここで使われているのは、新型の原子炉としては数十年ぶりに米原子力規制委員会(NRC)の認可を受けた原子炉だ。こんなペースではエネルギー食いのAI経済を支えていくことはできない。アメリカは安全で安定したあらゆるクリーンエネルギーを利用しなければならない。


核融合発電の技術革新にも力を入れるべきだ。これは軽い原子核同士がくっついて重い原子核を形成する際に放出される大きなエネルギーを活用するもので、仕組みは太陽と同じ。将来的には豊富でクリーンで安定した電力源となるかもしれない。もし技術革新によって大規模な核融合発電が可能になれば、AIの電力需要は容易に満たせる。だがそれには多額の投資と、新興企業と国立研究機関の提携が欠かせない。

日本の原発の電力にも期待

一方でアメリカは、外国のエネルギー源に目を向ける必要もある。ただしこれにはまた別の難しさがある。中東のエネルギーは安価で安定しているが、それに依存するのは地政学的、安全保障上のリスクがある。安価なエネルギーを当てにして外国にデータセンターを作っても、敵の情報機関による情報漏洩が起きたり、アメリカに圧力をかける手段として利用されたり、プライバシーを侵害するような形で使われてしまっては意味がない。

AI技術は非常に価値があり、アメリカの安全保障にとって重要な意味を持つ。だから手を組む相手はアメリカと利害と価値観を共有する国でなければならないし、AIシステムを防衛する高い能力を備えていなければならない。こうしたリスクに対応するには、ペルシャ湾岸の同盟諸国との間の慎重な外交と、技術的な関与が必要になるだろう。


欧州諸国と協力を深めるほうが安保上の懸念は少ないが、問題は国際的に見ても高いエネルギー価格だ。例えば、23年の欧州諸国の電力料金はアメリカの約2倍。おかげで欧州系のAIモデルのほとんどは、アメリカを含むEU域外で開発が行われている。

同盟諸国の中には、現実味のある解決策を提供してくれそうな国もある。日本では、現在使われていない原子力発電所の発電余力が合わせて20ギガワット以上ある。カナダでも水力発電による豊富な電力が使えそうだ。

先進的AIは開発の「目的」であると同時に、エネルギー問題の解決策でもある。人間とは異なる着眼点を持つというAIの能力を生かさない手はない。グーグル傘下のAI開発企業ディープマインドがデータセンターの冷却に使うエネルギーを最大で40%削減することに成功したのもその能力のおかげだ。

AIはデータセンターの効率アップや核融合発電の可能性の追求にも使われるべきだ。カリフォルニア州サンディエゴにあるDIII-D国立核融合施設では、核融合の複雑なプロセスが不安定化するのを防ぐため、AIの強化学習を利用している。


AIの発展は想定外の成果とパラダイムシフトによって彩られてきた。今後は、この新時代の技術革新を推進するのに必要な電力を生み出すことができるかが課題となる。

©Project Syndicate


エリック・シュミット
ERIC SCHMIDT
グーグルおよびアルファベットの元CEO。現在は米人工知能国家安全保障委員会(NSCAI)の委員長を務める。

鄭重声明:本文の著作権は原作者に帰属します。記事の転載は情報の伝達のみを目的としており、投資の助言を構成するものではありません。もし侵害行為があれば、すぐにご連絡ください。修正または削除いたします。ありがとうございます。