産業技術総合研究所は子会社を通じて大手企業20社と連携し、量子、人工知能(AI)、半導体、脱炭素技術の開発を進める。国からの交付金になるべく頼らず、早期の事業化につなげる。スタートアップの支援にも力を入れており、潜在性の高い企業の成長を後押しする。
産総研は日本発の技術革新(イノベーション)をけん引する中核機関として国が指定した「特定国立研究開発法人」の一つだ。保有技術の実用化を促すため、2023年4月に株式会社「AIST Solutions(アイストソリューションズ)」を設立した。研究開発法人による企業への出資は法改正で可能になった。
同社は企業との研究開発プロジェクトを企画・立案し、報酬を得る。24年11月時点の従業員数は約200人で、新規に契約を結んだり、産総研本体の共同研究先を引き継いだりしてすでに大手20社と連携する。
NECとは量子技術やAI分野、東京エレクトロンとは先端半導体分野で協力する。10月に島津製作所と共同研究を始め、島津の健康事業に対し、化学分析の計測評価や生物機能解析の技術を提供する。
コニカミノルタとは、化石燃料を使わず、微生物など生物の力を利用して有用な物質を作る「バイオものづくり」に取り組む。エネルギーや材料、リサイクル技術なども重点領域に置く。
アイストソリューションズの逢坂清治社長は、「日本のトップ企業100社を目標に、社長や最高技術責任者(CTO)と面会を重ねている。各社の成長戦略に沿った技術を提案している」と語る。
6月には提供できる技術の幅を広げるべく、産総研と同様に特定国立研究開発法人に認定されている物質・材料研究機構(NIMS)と協定を結んだ。材料科学に強みを持つNIMSとの共同研究のほか、スタートアップ支援や技術移転など計10項目で連携する。
半導体が経済安全保障上の重要物資となるなか、アイストソリューションズは半導体製造の委託を仲介するサービスも始めた。
半導体の設計会社が国内の半導体受託会社の製造ラインを優先的に使えるように調整する。これまで製造委託が難しかった少量生産の半導体に対応できるという。
次世代の成長企業を発掘するため、スタートアップ支援も実施する。
これまでにスタートアップ5社への支援を決めた。24年はAIの大規模言語モデル(LLM)で製造業をサポートするストックマーク(東京・港)と、高性能な球体で移動するロボットを手がけるトライオーブ(北九州市)などだ。
アイストソリューションズの逢坂社長はTDK出身でコーポレートベンチャーキャピタル(CVC)を通じた新事業開拓の知見を持つ。日本のスタートアップについて「技術は強いがマーケティングプランや人材管理が弱い」と分析し、技術以外の支援に意欲を示す。
例えば支援するスタートアップのサプライチェーンを補完する。各社の強みを生かしつつ、購入可能な部品は外から調達して製品の実用化を早める。
アイストソリューションズは米国西海岸に拠点を新設し、支援企業が使う部品の供給元を増やす。マーケティングや技術分野の支援にも力を入れる。
産総研が豊富に持つ知的財産を生かした事業も進める。企業などから知財の無償譲渡を募り、そこに産総研の知財を組み合わせて第三者へ技術移転し、ライセンス収入を得る。知財提供元の企業や産総研に還元し、研究資金に用いることで、新たな成果の創出を促す。
産総研はアイストソリューションズを生かして、国の資金だけに頼らずに日本の産業競争力を高める取り組みを強化する。これまでは国からの運営費交付金が総収入の多くを占めてきたため、民間からの資金を増やそうとしている。
産総研本体の組織体制も強化している。最前線で研究を続け、執行役員と同等の位置づけとなる研究員の最高位「上級首席研究員」を新設し、第1号に音楽情報処理が専門の後藤真孝氏を任命した。研究開発や人材育成などの方針策定へ助言できる。研究員の士気向上につなげる。
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