岩手県の沿岸部と内陸部を結ぶ国道が通る岩手県住田町に、昼夜を問わず年中無休で交通安全を願う警察官の人形が立ち続ける。風貌は同様の目的で沖縄県・宮古島に立つ「まもる君」と酷似しているが、出自は謎。町内では死亡事故のたびに立ち位置を変え、町の安全に貢献してきた。(共同通信=阿部幸康)
町内の人形は2体。普段は1体が国道沿い、もう1体は岩手県警大船渡署管轄の駐在所前に背筋をまっすぐ伸ばしてたたずむ。警察官の制服をまとい、大きな瞳で道行く車を見つめる姿は今にも悪質な運転を摘発しそうないでたちだ。暗い時間帯でも反射材付きのベストが車のライトに照らされて浮かび上がる。
地区交通安全協会会長の杉下吉身さん(81)によると、人形が町にやってきたのは約20年前。当時は1年間で5件ほど死亡事故が発生し、協会員で費用を出し購入した。
町内の国道は沿岸部の陸前高田市や大船渡市と内陸をつなぎ、交通量が多い。信号機のない山道が続き、制限速度オーバーの車も絶えない。
人形を置いた理由は「注意を呼びかける看板を立てても誰も見ないので、『警察だ』と思わせて安全運転につなげたかった」と説明。実際の効果も「彼に気づいてブレーキに足を置く人は多い」と話す。死亡事故が発生するたびに2体を現場に移して警戒を呼びかけ、これまで町内の10カ所ほどで活動したという。
宮古島の「まもる君」とルーツが同じかどうかを知るのはもはや困難。杉下さんらは交通安全の啓発用品を販売する横浜市の会社のカタログから購入したが、同社によると、既に製造が中止されており、製造元を知る人も少ないという。
宮古島地区交通安全協会によると、各地域で交通安全の願いを込めて設置された人形が1990年代初めごろから「まもる君」の愛称で呼ばれるようになった。
東日本大震災のボランティアで岩手を訪れた際に住田町の人形を見た経験がある宮古島市の山田光さん(49)は「岩手でまもる君に会えると思わなかった。これからも北と南で見守って」と奇縁に感慨深げだった。
杉下さんは「一人一人が気をつけないと事故は減らない。事故がゼロになる日を目標に、一緒に頑張りたい」と話し、長年の「相棒」と地域の安全を願い続ける。
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