注目の裁判です。2015年、長野県佐久市で中学3年の男子生徒が車にはねられ死亡した事故で、ひき逃げの罪に問われている被告に無罪を言い渡した二審判決について、最高裁判所は12月13日、弁論を開きました。二審判決が見直される可能性があり、両親も改めて破棄を求めました。

(記者リポート)
「ひき逃げの罪に問われ、一審で懲役6カ月の実刑判決を受けた被告は、二審で逆転無罪を言い渡されました。事故から10年が経つのを前に、最高裁の弁論がこれから開かれます」

最高裁で開かれた佐久市の中学生死亡事故を巡る弁論。「ひき逃げではない」とした東京高裁の逆転無罪判決が見直される可能性が出ています。

2015年3月、佐久市で、当時中学3年生の和田樹生さんが車にはねられ死亡しました。運転していた男性(52)は過失運転致死の罪に問われ執行猶予付きの有罪判決が確定しました。

しかし、和田さんの両親は納得がいきませんでした。運転していた男性は事故直後、近くのコンビニ店に行って飲酒運転を隠すために口臭防止剤を買って服用。その後1分余りで現場に戻って和田さんを救護したことがわかったのです。

両親は、独自で事故を調査し、検察に「ひき逃げ」での捜査を求め2022年2月、検察は「ひき逃げ」の罪で男性を在宅起訴しました。

最大の争点は、事故後の男性の行動が道交法に定められた「救護義務の違反にあたるかどうか」。

一審の長野地裁は、「ひき逃げ」にあたると認定。懲役6カ月の実刑判決を言い渡しました。

しかし、二審の東京高裁は、「直ちに救護措置を講じなかったと評価することはできない」として、一審判決を破棄し、「逆転無罪」を言い渡しました。

判決の後、両親はー

母・真理さん(2023年9月):
「被害者の生命や身体の保護を全く無視した判決。最低の判決。樹生にかける言葉が見つからない。こんな国に産んでごめんねとしか言えない」

判決を不服として東京高検が上告。これを受けて最高裁が双方の主張を聞く「弁論」を開きました。

(記者リポート)
「弁論では過去の判例を引き出しながら、検察側、弁護側が二審の判決についてそれぞれの意見を示しました」

検察側は、「道交法の解釈・適用を誤っていて、被告の行動を過小評価している」と主張。

一方、弁護側は、「救護義務違反の罪は成立しない」とする二審判決を支持した上で、すでに確定している過失運転致死と「別々に処罰する理由はない」と一事不再理の原則を主張しました。

弁論を傍聴した両親はー

母・真理さん:
「直ちに救護されれば救われる命はあると思う。高裁判決を破棄して、最高裁で判決を出してほしい。できれば反省のない被告人に対しては実刑判決をお願いしたい」

父・善光さん:
「弁論が開催されたということは一つの光が差しているが、ただ開催されただけで判決がくだされたわけではない。望みをもって検察もしっかり対応してもらい、私たちも今後の裁判に臨んでいく」

最高裁での「弁論」。実は、極まれなケースで二審の判決が見直される可能性が出ています。

2023年1年間の最高裁の終局処分人員は1591人で、このうち二審判決が破棄されたのはたったの3人です。

刑事訴訟法に詳しい信州大学経法学部の丸橋昌太郎教授によりますと、「最高裁では、多くの上告審が、弁論を開くことなく棄却されている」と言います。

一方で、「二審判決を破棄する可能性がある場合には、弁論を開かなければならず、本件も破棄される可能性があると判断されたものと言える」ということです。

上告の棄却か、それとも二審判決の破棄か。事故から10年、最高裁の判断が注目されます。

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