高齢者の外出を支援するため、札幌市で70歳以上の市民に交付されている「敬老優待乗車証」、いわゆる“敬老パス”。地下鉄やバス、市電を安く利用できるようにしており、現在は最大1万7000円のチャージで7万円分の利用が可能だ。しかし市は、これが大きな財政負担になっているとして、対象を75歳に引き上げるなどの見直し案を検討。11月30日、市長と市民、約170人の意見交換会が開かれた。
【映像】意見交換会は紛糾、実際の様子
参加者の多くが60代以上だったとみられ、制度見直しには多くの反対意見が出た。さらに不満が噴出したのは、新たな外出支援として検討されている健康アプリ。65歳以上の場合、日々の健康管理やウォーキングなどでポイントを付与、電子マネーに交換できるというものだが、反対の人からは「70代過ぎてアプリを使えず、ガラケーの方がたくさんいる。その現実をよく見ていただきたいと思う」との声。
そんな中、ひときわ会場がざわついたのは、制度見直しに賛成する28歳の岡時寛氏がマイクを握った時だった。
「私たち現役世代は、敬老パスに限らずめちゃめちゃ負担しているという話をしている。この10年で少子高齢化がもっと進んだ今、(敬老パスを)まだ続けようとするのか」
この先、高齢者サービスはどうあるべきなのか。意見交換会で多くのヤジを浴びた岡氏を招き、『ABEMA Prime』で議論した。
■岡氏の主張「高齢者支援は『基礎控除』『年金』の2つで十分」
敬老パス制度による札幌市の支出は、2023年度で63億円。岡氏は「札幌市としても、賛成派と反対派のどちらにも配慮したとアピールするためには、あの場で若い世代が“削減してほしい”と意見する必要があると思った。また、参加されている高齢者の方に“今の若い人たちは本当に苦しいんだ”と、面と向かって言う機会も必要だと思って参加した」と説明。
岡氏は高齢者支援について、「『基礎控除』『年金』の2つで十分。これ以上の支援は不要」「医療費は現役世代を含め負担割合を増やすべき」と考えている。「その人が“利用した”とわかるものについては、民間サービスでやるべきだと思っている。例えば、道路や除雪などは“あなたはこれぐらい使ったからこれだけ請求ね”とできないので、みんなで負担しようというのはわかる。しかし、バスや電車はいつ使ったかが完全にわかるものなので、個人に負担させればいいのではないか。また、その人が一番使いたいように使える意味でも、支援するなら年金に一本化してほしい」と主張した。
これに北海道地方自治研究所理事・同志社大学教授の吉田徹氏は「自治体のお金の使い方に関して、納税者が意見を言うのは正当なこと。岡さんのように若い方も参加して発言したのは非常に良いことだと思う」とした上で、「東京を除けば、どの自治体も財政状況は非常に厳しい。他方、高齢者の貧困率は2割を超え、生活保護受給者の割合も半分以上を占める。なんらかの支援は必要だが、お金もないし、増税もできない。まさに敬老パスも同じで、限られたパイを世代間で奪い合う嘆かわしい状況が生まれてしまっている」と述べる。
また、年金一本化という提案に対しては、「日本は現金給付の割合が他の国よりも高いので、もう少しサービス給付してもいいと思う。敬老パスはサービス給付の意味合いが強いが、やはり北海道独自の事情も加味しないといけない」と指摘。札幌市の高齢化率は、2015年の24.9%から、2040年には36.2%に上昇する予測だ。「一人当たりの面積が非常に大きい地域で、地域交通も貧弱だと、廃線や減便となる。ただ、移動する自由があり、その権利を自治体としてどう確保していくのかは重要な問題だ」と投げかけた。
一方、アクティビスト、個人投資家の田端信太郎氏は「敬老パスは資産や所得がある高齢者でももらえる一方で、困っている若者はもらうことができない。“敬老”と福祉は混ぜないほうがいい。“高齢者だから敬おう”というふわっとした話にお金を使う余裕はないと思う」と独自の見解を示す。
これに吉田氏は「生活保障と働くことが一体になっているのが、日本の社会保障体系の1つの特徴。年金をもらう年齢になると、それまで自分で購入していたサービスを公的負担で補ってあげようという考え方がある。敬老精神というよりも、おそらくこうした体系からきている」とした。
■「もう少し税負担を増やし、みんなで薄く広く負担する社会の仕組みに」
公共交通政策に詳しい名古屋大学の加藤博和教授は、「“敬老”“長生きのご褒美”という発想は、寿命も延びた現代に合わなくなっている」とし、「年齢だけで区切るのではなく、低所得者やシングル親など、より多世代が恩恵を受けられるような制度のあり方を議論すべきだ」と述べている。
限られたパイを世代間で奪い合っている状況について、吉田氏は「税収を増やすこと」を促す。「いろいろな議論の仕方があるが、少なくとも日本のGDPに占める税収の割合は低く、十分小さな政府だ。自己責任的な考え方をする方も増えてきているが、それは弱者が相対的に弱くなっていく社会につながる。働けない、あるいは働かなくてよくなったという意味では絶対的な弱者で、高齢者の労働参加率も増えているが、公的なサービスを手厚くする手段を考えるのが1つだと思う。もう少し税負担を増やし、みんなで薄く広く負担する社会の仕組みにすることだ」。
一方、議論の仕方については“くじ引き民主主義”を推奨。「公聴会やパブリックコメントは、高齢者のように時間的なリソースと意見のある人の声が大きくなってしまうので、無作為抽出による市民会議を行う。住民にランダムで参加を呼びかけて、手を挙げた人の中から居住区や世代を母集団に似せた議員団を作る。そこで行政や専門家が情報を提供し、どうすべきかを市民同士が方針として出して、行政の施策に反映する。こうした意思決定をやってもいいと思う」との見方を示した。(『ABEMA Prime』より)
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