働きながら年金をもらっている人は、一定の収入を超えると“年金の壁”に阻まれ、年金額がカット、減額されてしまいます。そんな年金の壁の見直しが25日に話し合われました。見直されると、どんなことが起こるのでしょうか。
■年金カット「50万円の壁」とは
東京・足立区にあるシャッター工場には、65歳以上の方が9人働いています。最高齢の正社員・金井伸治さんは現在82歳です。
この記事の写真 横引シャッター 金井伸治さん「健康のためでもあるし、仕事ができるうちは仕事したい。働いて年金が少なくなるのは感じていたけど、具体的にどれだけ少なくなるかは気にしたことはない」
働いたのに年金が少なくなる。今働く高齢者は、月の収入(厚生年金+賃金)が50万円を超えると“年金が減る”という仕組みになっています。それが『在職老齢年金』です。65歳以上で働きながら老齢厚生年金を受け取ることができる制度で、保険料の支払いを続けることで、将来の年金額を増やすことも可能です。
ただ、そこにあるのが“50万円の壁”。1カ月に受け取る年金と賃金の額が50万円を超えると、年金が減額されるというルールがあり、越えた金額の半額が年金から差し引かれます。
例えば、年金が月20万円で給与が月40万円の場合、超過分の半額5万円が年金から減額されるため、もともと20万円だった年金が15万円に。総額は55万円になります。
働けば働くほど受け取る年金が減ってしまうこの仕組み。支給停止の対象になっている人は50万人いるとされています。
高齢者の働き控えを招いているということで、厚生労働省が制度の見直し案を示しました。それは、50万円の基準額を62万円や71万円に引き上げる案と、この制度そのものを廃止するという案です。
ただ、今年7月に厚労省が公表した資料によると、廃止した場合、年金財政が悪化し、将来世代の給付水準が下がるという試算も出ています。
2050年には、働く“現役世代”は今より約3割減って5275万人になると見込まれています。その一方、65歳以上で働く人は20年連続で増加していて、現在65歳から69歳に限ると2人に1人が働いているのが現状です。
基準額を引き上げるだけで“働き控え”は解消となるのでしょうか。
アルバイト(78)「若い人が多い時代にできた制度でしょうから、少子高齢化では基本的に通用しない仕組みだから、難しいですよね。高齢者は労働できるだけで幸せ。若い人の負担考えるとぜいたくは言えない」
一方…現役世代は。
会社員(40代)「次の世代に子どもの世代に迷惑はかけたくない」
「できたら世代世代でまっとうしておきたいこと。つけをまわしていこうとか、人口問題って絶対にくつがえらない」
雇用する企業側は、前向きな検討を願っていました。
横引シャッター 市川慎次郎社長「上手に搾取しているよなというのが正直な話で。せっかく本人たちはまだまだ働きたいという意欲があって、会社側も来てもらいたくて、WinWinで成り立つのに、壁を作ってやる気をそぐ。余計なことで頭を使わないといけない」
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■年金“50万円の壁”どう見直す?■年金“50万円の壁”どう見直す?
今、制度の見直しが検討されている背景に何があるのでしょうか。
内閣府が行った調査では「年金額が減らないように労働時間を調整する」と答えた人が、60代後半で3割に上るということです。
こうした背景に、厚労省は、今の年金制度が「高齢者の就業意欲をそいでいる例もある」として見直しを始めました。
では、どう見直しを図るのでしょうか。
現在、65歳以上で働いている人は、賃金と厚生年金を合わせて月50万円を超えると年金が減る仕組みで、これが“50万円の壁”と呼ばれるものです。
例えば、65歳で働きながら厚生年金20万円をもらう場合、賃金40万円の場合、月の収入が合計60万円になるはずですが、50万円を上回った分の半分が年金から引かれます。この場合、10万円の半分となる5万円が引かれ、年金の受け取り額は15万円となります。
今、50万円の基準を見直すため検討されている案がこの3つです。
(1)62万円に引き上げ
(2)71万円に引き上げ
(3)上限額を撤廃
ただ、年金全体の支給額も増えます。厚労省の試算では、62万円引き上げると、年金の支給額が新たに1600億円追加。71万円引き上げで、2900億円。上限廃止で4500億円新たに増えると試算されています。
厚労省の担当者は「将来世代の給付水準が低下するため、見直しには議論を重ねていく必要がある」としています。
年金部会は、年内までに議論をまとめるということです。
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