美容後遺症外来には各地から患者

日本医科大学付属病院には美容手術による後遺症に対応する外来が自費診療で開設され、全国各地から患者が訪れています。

美容後遺症外来を担当している朝日林太郎医師によると5年前は患者は一日5人ほどでしたが、現在は多い日で一日30人以上と急増しているといいます。

朝日医師のもとには、しわの改善のため顔に脂肪注入を行ったところ、頬がこぶのように腫れて痛みが出てきたという事例や、太ももの脂肪吸引を受けたところ皮膚がくぼんで傷痕が残った事例、20年前にインプラントによる豊胸手術を受けた部分の皮膚が裂けた事例など様々な後遺症に悩む患者が訪れています。

この日は先月、しわを目立ちにくくさせるヒアルロン酸注射を受けた後、頬が腫れる後遺症が出た患者が訪れていました。

朝日医師は自由診療での美容医療の現状について「自分が思っていたのとは全く違う結果になり、そのトラブルに対応する治療はしてくれず、どこに相談していいかわからないと相談にくるケースは珍しくない」と話していました。

朝日医師は検討会の報告書で指摘された問題が発生した時の相談窓口の必要性について「これだけ美容医療が広がっているのに困ったときに相談できる窓口が増えている状況は無く、全国からこの病院に患者が訪れている状況だ。各地域に後遺症に対応する拠点があるべきで、(自院で)美容の施術による合併症やトラブルが起きた場合は、相談や搬送をするかもしれないとほかの医療機関と提携し、診療情報を適切に提供するなど橋渡しをしっかり行うことがアフターケアだ」と指摘しています。

また、美容医療を求める患者に対しても「美容医療もベースは医療であり、安全性が重要なことを医師も患者も認識し、治療はメリットもあればリスクやデメリットがあることも共有することが大切だ。国や学会がガイドラインを作成し、治療の確実性を増していく事はとても大切だが、すべてのクリニックが賛成して実施するかというとそうではないと思うので、患者側は対策を行っている医師やクリニックを選んでほしい」と訴えていました。

後遺症が出た患者 “リスクを知らなかった”

自由診療の美容医療によって後遺症が出た患者からは、リスクを知らなかったなどの声があがっています。

7年ほど前に、都内の美容クリニックで豊胸手術を受けた50代の女性は手術後にしびれや張りの違和感がありましたが、手術を受けたクリニックでは十分に対応してもらえず、悩んだといいます。

女性は「コンプレックスを何とかしたいと深く調べずに手術を受けてしまった。一時は手術を受けたことを後悔して、相談できる場所も無く、なかなか外に出られなかった」と明かしました。

女性はその後、日本医科大学付属病院の美容後遺症外来を自分で見つけて修正手術を受け、「今振り返ると手術前にリスクをあまり教えてもらっていなかったと思う。よい面と悪い面の両方を知ったうえで判断できるようにするべきで、クリニックには時間をかけて説明してほしい」と訴えていました。

また、別の都内の50代の女性は、ことし10月、顔のしわを目立たなくするために、美容クリニックでヒアルロン酸注射を受けたあとに感染症で顔が腫れあがり、大学病院に緊急入院しました。

その後、日本医科大学付属病院の美容後遺症外来を受診し、感染症の治療と変形した頬を元に戻す治療を毎週続けていますが、あごが痛くて口が開けられず、食事が十分にとれずに体重が減ったということです。

女性は「美容医療の後遺症はどの病院でも治療できるものではなく、治療にたどり着くのが難しかった」と話し、「美容医療による後遺症の患者は『健康体なのになぜ施術をしたの』と言われることが怖くて、治療を尻込みしてしまう傾向もあると思う。自由診療であっても医療は医療なので、最後まで責任を持って医師は治療にあたってほしい」と訴えていました。

さらに、問題に対応できる医療機関が周囲になかったという北海道に住む50代の女性も取材に応じました。

5年前、目の下のしわをとりたいと美容クリニックで脂肪注入の施術を受けたことによる後遺症で、目の下が膨れ上がってマスクをしないと生活できないほどになったといいます。

2年以上、施術を受けたクリニックで治療を受けましたが症状は改善せず、道内の複数の美容クリニックに相談しましたが対応してもらえなかったといいます。

その後、日本医科大学付属病院の美容後遺症外来を見つけて、北海道から3回通って修正手術を受け、改善したということです。

女性は、「今思えば3ミリほどのしわで大がかりな施術は必要なかったが、美容クリニックで『目の下が平らになる』と勧められて、あまり自分で考えずに施術を受けた。その結果、不自然に目の下が膨れて人前に出ることができず、『人生をあきらめるしかない』と思うほどだった」と振り返り、「相談できるところを見つけるのが難しかったので、治療ができる医療機関を紹介してくれる仕組み作りが進んでほしい」と訴えていました。

美容医療の健康被害 厚労省が調査

美容医療の健康被害などについて厚生労働省は、医療機関や患者を対象にことし8月から9月にかけて調査を行いました。

調査では美容医療を提供する417の医療機関や美容医療を受けて何らかのトラブルを経験した患者600人から回答を得ました。

それによりますと医療機関に診療にあたる医師について、専門医の資格や経験年数などの要件を設けているかどうかを尋ねたところ、54.4%が「設けていない」と回答しました。

またアフターフォローについて、対応できない施術の修正や後遺症が発生した場合、連携している医療機関の有無を尋ねたところ、35.7%が「ない」と回答しました。

一方、患者に美容医療の施術を誰から受けたかを複数回答で尋ねたところ「医師」は57.5%で、「カウンセラー」が13.8%、さらに「受付スタッフ」が6.3%、「誰から受けたか分からない」と回答した人が7%でした。

また、回答した患者600人のうち112人が「合併症など、施術後早期に再施術や治療が必要な状況に陥った」と回答し、具体的な症状を複数回答で聞いたところ「熱傷」が25%で最も多く、次いで理想的な形にならなかったなどの「重度の形態異常」が23.2%、「皮膚え死・皮膚潰瘍」が22.3%などとなったほか、「消化器障害」が3.6%、「骨折」が2.7%などの回答もありました。

消費生活センターなどへの相談件数 5年間で3倍以上に

厚生労働省によりますと、脱毛や脂肪吸引などの美容医療のニーズは高まっていて去年、美容外科のクリニックは全国に2016か所と15年前と比べて2倍以上に増加しています。

それに伴い、トラブルの相談も相次いでいて、体に傷や痛みが残ったり、不安をあおられて高額な契約をしてしまったなど全国の消費生活センターなどに寄せられた相談件数は、昨年度6280件と、5年間で3倍以上に増加しています。

しかし、美容医療は医療保険が適用されない「自由診療」で行われるケースが多いことから、保険診療と比べて医療機関への診療内容の確認や指導・監査の範囲が限られ、実態が見えにくいことが課題と指摘されています。

厚労省検討会 “医療機関 安全管理状況など定期的に報告必要”

そのため、厚生労働省は専門家などによる検討会で美容医療の課題や対策について議論を重ね、22日、報告書を取りまとめました。

報告書では、美容医療が安全に提供されるための対応策として、医療機関は安全管理の実施状況や問題が起きた場合に患者が相談できる連絡先を年に1回程度、都道府県などに報告し、行政側は、このうち患者が相談できる連絡先の公表を検討することが必要だとしています。

さらに、患者がどのような処置を希望したかをカルテに記載するなど診療の実態を確認できる対策も進めるべきだとしています。

また、美容医療の質を高めるために、関係する学会で法令の明確な解釈や標準的な治療内容、それに問題発生時の対応などについて盛り込んだガイドラインを策定するべきだとしています。

厚生労働省は、報告書の内容をもとに具体的な対策を進めるとしています。

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