日米両政府は学生の相互派遣を強化する。米国留学する理系大学院生らが対象の支援制度を設ける。日本留学する米国人を増やすため現地での日本語教育も拡充する。人的交流を通じて両国関係を深めるとともに、技術革新の担い手育成につなげる。

岸田文雄首相が米ノースカロライナ州立大などを訪問。新たな支援制度を打ち出し、6月に策定する「骨太の方針」などに盛り込む見通しだ。

新たな支援制度は、米国トップクラスの大学院で学ぶ理系学生らを対象にした奨学金が目玉になる。日本学生支援機構の奨学金に特別枠を設ける。

日本の大卒者のうち、自然科学分野の学位取得者の割合は35%で、英国(45%)やドイツ(42%)、韓国(42%)と比べて低い。支援拡充でデジタルや脱炭素など成長分野をけん引する人材を育成し、科学技術力を高める。

理系学生以外も支援する。今回の日米首脳会談の共同声明には、米国に1200万ドル(約18億円)規模の基金を創設して支援する事業を盛り込んだ。

事業名は「ミネタ・アンバサダーズ・プログラム」で、米国や日本に留学する学生を支援する。高校生から大学生まで幅広く対象にする。基金は米国内の民間企業などから寄付を募り、在米日系人の団体「米日カウンシル」が運営を担う。留学期間や対象者数などは今後詰める。

米国に留学する日本人の数は低調だ。米国際教育研究所によると、2022〜23年に米国の大学などに在籍した日本の学生は約1万6000人で、中国(約29万人)や韓国(約4万4000人)と大差がついている。

背景には日本の若者の内向き志向がある。内閣府が18年度に若者約1000人を対象に実施したアンケートによると、経済的な理由や語学力不足などを理由に「外国留学をしたいと思わない」と答えた若者が5割を超えた。2割程度の韓国、米国などに比べて消極性が目立つ。

円安やインフレ、米国大の学費高騰など経済的な要因も大きい。政府は33年までに日本人留学生を50万人に増やす目標を掲げる。文部科学省幹部は「金銭的な事情で留学に壁ができないような支援を展開していく」と話す。

米国からの高度人材の受け入れ拡大に向け、日本語教育の充実にも取り組む。両政府は10日に協力覚書を交わし、日本語や日本文化の専門知識を持つ人材の渡米を後押しすることを確認した。

具体策として米国の学校で日本語を教える教員を補佐する「日本語指導助手」のビザ(査証)取得要件を緩和する。従来は主に国際交流基金の派遣プログラムに参加する指導助手にビザを発給していた。

今後は同基金以外の団体が行う派遣プログラムも対象にする。ビザの有効期間は現在の1年から最長3年に延ばす。

日本人教員の米国移住も支援する。米国の学校で教えるには資格が必要で、現地の大学で教育方法などを学ぶ必要がある。日米は必要な資格や条件を記したマップを秋にも公開し、移住先候補を調べやすくする。

国際交流基金によると、米国で日本語を教える教員は21年度で4109人。教育機関は1241校で18年度から14%減った。教員が高齢化する一方、若手の確保が進まないことが課題になっている。

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