災害時に支援が必要な高齢者らが身を寄せる「福祉避難所」が全国で538万人分不足していることが日本経済新聞の調べで分かった。市区町村の74%で福祉避難所が足りない。自治体には施設確保の取り組み強化に加え、一般避難所の福祉機能を高める工夫が求められる。
11日で発生から13年となった東日本大震災では災害関連死が3802人(2023年12月末時点)に上り、66歳以上が88%を占めた。長引く避難生活で肉体的、精神的疲労が蓄積し、持病を悪化させたことなどが要因とされる。
国は08年に「福祉避難所設置・運営に関するガイドライン」を策定し、高齢者施設や特別支援学校などバリアフリー化され、支援人材を確保しやすい施設を指定するよう市区町村に求めている。
日経は47都道府県に福祉避難所の数と災害時の受け入れ可能人数を情報公開請求するなどし、能登半島地震で被災した石川県以外からデータを得た。各市区町村は災害対策基本法に基づき、自力避難が困難な要介護者や障害者らを「避難行動要支援者」(要支援者)として登録しており、自治体別の充足状況を調べた。
46都道府県の福祉避難所は2万5597カ所あり、受け入れ可能人数は94万4千人だった。
要支援者が自宅避難を選ぶ場合などもあるが、46都道府県1722市区町村の73.7%で福祉避難所が足りず、538万2千人分が不足していた。受け入れ可能人数を「不明」とした自治体は集計から除外した。
都道府県別のカバー率は、広島県が最低の3.1%。南海トラフ巨大地震で被害が想定される三重県(4.5%)や静岡県(4.7%)も低かった。三大都市圏では東京都が12.8%、大阪府が5.6%、愛知県が6.7%だった。
福祉避難所がゼロの自治体も埼玉県三郷市など全国に61あった。
福祉避難所の指定が遅れている背景の一つは、介護人材が不足している高齢者施設への支援不足だ。
首都直下地震で最大震度7が想定される東京都江東区のカバー率は1.4%にとどまる。防災課は「高齢者施設の場合は入所者がおり、災害時に多くの避難者を受け入れるのは難しい。職員が被災して十分な人材を確保できない可能性もある」と説明する。
国際医療福祉大大学院の石井美恵子教授(危機管理医学)は「そもそも高齢者施設は深刻な人材難に陥っている。入所者のケアに支障をきたす恐れがあり、負担が大きすぎる」とみる。
対策はあるのか。カバー率117.9%(1122人)の高知県南国市は、13年度から福祉避難所向けに車椅子やベッドなどの購入費用を最大120万円補助する制度を導入。近隣の2市1町と協定を結び、広域での施設確保も進める。市福祉事務所は「施設をきめ細かくサポートすることが確保につながる」と話す。
福祉避難所が足りない現状では、一般避難所の福祉機能の強化が重要になる。東日本大震災では宮城県石巻市が体育館に看護師を配置し、間仕切りやベッドを設けることで即席の「福祉避難所」として機能させた。
三重大大学院の川口淳教授(地域防災)は「自治体は民間団体や地元住民などと連携してスタッフを集めたり、備蓄品の購入を手厚く補助したりする必要がある」と強調する。
(岩崎邦宏)
▼福祉避難所災害時に高齢者や障害者、医療ケアを必要とする人など「要配慮者」を受け入れる避難所。避難生活の身体的負担などによる災害関連死が表面化した1995年の阪神大震災を契機に必要性が認識された。関連死が相次いだ2011年の東日本大震災でも福祉避難所の不足が問題となった。国は08年にガイドラインを作成し、自治体に確保を促している。
災害対策基本法は福祉避難所の基準として立地や規模を定めており、自治体は基準を満たす施設の中から、バリアフリー化され、支援者が確保しやすい特別養護老人ホームや障害者支援施設などを福祉避難所に指定する。施設名や所在地などの公表が義務付けられている。市区町村が民間団体などと締結する「協定等による福祉避難所」もある。
福祉避難所は一般避難所に避難した後、2次避難所として活用されてきたが、国は21年、事前調整のうえで受け入れ対象者が直接避難できるようガイドラインを改正した。ガイドラインは要配慮者10人に対し支援者1人の配置や、避難所が不足した場合の宿泊施設の借り上げなども求めている。
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