中国・深センで日本人学校に通う男児が殺害された事件を受けて、東京・新宿で9月19日夜、在日中国人の有志が追悼集会を開いた。小さなマンションの一室には、日本で暮らす中国人50人あまりがひっそりと集い、献花台に花を手向け、被犠牲となった児童と遺族に思いをはせた。
マンション一室にひっそりと50人「集会のリスクはあるがどうしても哀悼を示したかった」
追悼集会と聞いて、筆者の頭にまっさきに頭に浮かんだのは「この状況で中国人が集まるのは危険なのではないか」ということだった。2022年末、中国のゼロコロナ政策に対して無言で白紙を掲げて抗議の意を示した「白紙革命」。発生からずっと追いかけていた筆者は、参加者が、その後公安当局に次々と拘束されていることや、日本にいるからといって懸念がなくなるわけではなく、「中国人が集まる」ことそのものに、中国人たちが敏感になっているのを知っていた。
懸念を裏付けるかのように追悼会が開かれたのは集会を行うとは思えないような小さな雑居ビルで、道案内アプリがなければたどり着くことが難しい場所だった。窓のカーテンはしっかり引かれ、廊下で声を出すことは止められた。
主催者の一人は「ここに集まった中国人はみな、プレッシャーとリスクを抱え、国の家族や自分が帰国したときに拘束されるかもしれないという懸念も感じながら参加しています」と言った。それでも、小さな一室には50人以上が集まり、献花台に花を手向け、1分間の黙とうを捧げた。その後は、「近隣に聞こえるような声は出さないで」と注意を受けながら、思い思いにこの場に集まった胸の内を語った。「一人の母親として胸がはちきれそう」息子と献花
小学生の息子と花を手向けにきた女性。事件発生時からSNSで経緯を追っていたという。「とても苦しかった。私も子どもを持つ母親です。犯人は母親の目の前で子どもを刺殺したという報道を目にして、胸がはちきれそうでした。何の力にもなってあげられないかもしれないけど、坊やとご遺族に少しでも哀悼の意を伝えたくて来ました。本当に本当に悲しい」と涙を浮かべながら話した。北京市出身で、昨年日本に来たばかり。まもなく12歳になる息子は都内の公立小学校に通っている。母子ともに日本語はまだ話せないが、「日本に来て以来、一度も不便や不快な思いをしたことがない。日本の社会や息子の学校の皆さんはとても寛容で、本当に居心地がよくて、息子も私も日本での生活が大好きです」
息子は、学校で先生から事件について聞かされたといい、家で泣いたという。「つらい事件です。ママと一緒に、僕もどうしてもお花とメッセージをあげたかった」と話した。
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来日2年目の男性(33)は、深セン出身。「深センで暮らす日本の子どもが事件に遭って、憤りしかない。きょうはこの場でこの気持ちを何とか静めたくてきました」「深センは僕にとって大都市で、教育レベルも高い。こんなことが起きて悔しいとしか言えません」
日本で差別を受けたり、不快な思いをしたりしたことはないという。今回のことで日本での中国人への見方が変わると思うか、という質問に対して「それは心配していない。日本社会は成熟していて、報復をしたり、すべての中国人に悪意を向けるとは思えない」と語る。
主催した一人、北京出身の弁護士伍雷さん(51)は、顔出し、実名でインタビューに応じた。「事件を知って、驚愕した。何かしなければならないと思い、在日中国人内のネットワークで相談すると、すぐに賛同者が集まってくれた」と、開催の経緯を話してくれた。 「心から悲しい。私たちは日本という道徳的で礼節を重んじる国で生活している。今回、我々の同胞がこんな悲惨な事件を起こして日本人を傷つけた。恥ずかしい気持ちしかなく、どうしていいかわからなかった」という。でも、「こんな事件を許していいわけがない」という気持ちだけは伝えたかった。
伍さんらはSNSに「在日中国人の一部による共同声明」とする声明文も投稿。「日本で暮らす中国人として、襲撃した容疑者を厳しく非難する」と言った内容や、事件につながる根深い問題として、「中国が長年行ってきた極端に民族主義的な、反日的な教育」が、一部の中国人から日本に対する知識を覆い隠したとも指摘した。
伍さんは、今回の事件の影響が日中関係にも影を落とすことを心配している。「在日中国人に対する日本人の視線は厳しくなると思うが、地道に交流してお互いに理解し合っていきたい」
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中国内陸部の甘粛省出身の男性(27) は、高校生まで「バリバリの反日派だった」と話す。両親はともに小卒で「地域の教育レベルはとても低く、庶民はお上が言う事をなんでも信じる」と話す。反日的なドラマもよく見たし、「日本は悪い」と思いこんでいた。
転機が訪れたのは在住日本人の数が多い大都市・大連で大学に通ってからだ。
大阪出身の日本語教師と出会い、毎週無料で日本語講座に通った。大連に住む日本の学生と互いに語学を教え合ったり、教師と食事に行ったり。「僕や周りの中国人の若者は、将来の夢を考えたり語ったりすることはほとんどない。でも、中国語を学びにきていた現地の日本人学生は『日中の架け橋となって役に立つ仕事がしたい』とキラキラした表情で語るんだ。自分の中での日本へのイメージが変わった瞬間だった」その後、日本語を猛勉強して、来日。今は都内で働いているが、「今まで自分が学んできたものは一体何だったんだろう」と思うくらいに日本が好きになったという。
子どもが大好きで「世界で一番尊いものが子ども。子どもを大切にしない社会は廃れる」と話す。それだけに今回の事件については「心からの怒りしかない。許せない」と声を荒げた。
(テレビ朝日デジタルニュース部 今村優莉 )
プロフィール:中国人と日本人の両親のもとで育つ。小学校時代を北京の日本人学校で過ごす。前職の朝日新聞社でおもに社会部、国際報道部に在籍し、日中関係や在日華人などのテーマを取材。 この記事の写真を見る(8枚)鄭重声明:本文の著作権は原作者に帰属します。記事の転載は情報の伝達のみを目的としており、投資の助言を構成するものではありません。もし侵害行為があれば、すぐにご連絡ください。修正または削除いたします。ありがとうございます。