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「この男が本当に強盗を...?」

メガネにかかるほど前髪は伸び、着ている黒いスーツは少しサイズが大きくだぼっとしている。
9月6日、この一見気弱で物静かそうな男に、懲役23年の判決が言い渡された。

「ルフィ」などと名乗る指示役のもと、全国で相次いだ一連の広域強盗事件。
2023年1月に東京・狛江市で起きた事件では、90歳の女性が亡くなっている。
私は当時、警視庁担当記者として現場を取材していた。

当時19歳の大学生だった男は、ほかの実行役らと共に、住宅に押し入り腕時計などを奪ったうえ、女性に暴行を加えて死亡させた強盗致死の罪などに問われた。

この事件で初めて開かれた裁判で、犯行に至るまでの経緯や、テレグラムを使った指示役とのやりとりが明らかになった。
(テレビ朝日社会部 上田健太郎)

「両親と会話を拒絶」 大学進学後に知り合った「sugar(シュガー)」

男は石川県で生まれ育った。小学生のころから両親との関係が悪かったという。スーツ姿で証言台に立った男は、「両親と会話を拒絶して生きてきました」と話した。耐えかねて家出したこともあり、ストレスが原因でうつ病と診断された。

そんな男が、高校生の頃にゲームを通じて知り合ったのが、のちにともに実行役となる加藤臣吾被告(25)だった。

大学進学を機に上京し1人暮らしを始めるが、2022年ごろに「住む家がなくなった」と転がり込むような形で加藤被告が同居することになる。その加藤被告から紹介されたのが、テレグラム上で「sugar(シュガー)」と名乗る人物だった。加藤被告は「本当に犯罪グループ、ホンモノだから教えてやる」と話したという。

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居候の浪費で困窮 高額報酬の強盗計画に誘われ…

同居することになった加藤被告は、家賃を支払わないばかりか、男の生活費を使い込むまでに。バイト代と仕送りでやりくりしていたものの毎月ギリギリの生活で、生活費が足りなくなることも多々あったという。金銭的に困窮する中、2人が「sugar(シュガー)」たちから紹介されたのが、東京・狛江市の強盗だった。

宅配業者を装って家に押し入り人を縛って金を奪うという計画で、報酬は100万円から200万円と説明されたという。

「金銭苦が背中を押しました」男は法廷でそう振り返った。

指示役は男にこう言ったという。

「人数揃えて行きます」
「相手、殺しはしませんが、万が一最悪のこと考えて」
「ドアが開いたら、ババアをいきなりボコして大丈夫です」
「ババアを引きずって中まで連れて行き、地下に下ろします。縛って金庫の場所と番号聞いて奪うだけです」

男は事件当日、登戸駅近くでほかの実行役3人と合流、狛江市の被害者の家に向かった。

作業着に身を包んだ男たちはインターホンを押すと「お荷物です、判子をお願いします」と声をかけ、女性が外に出てきたところを押し入った。

家の中で、ほかの実行役が住人の女性をバールで殴ったりする様子を目にしたが、男は被告人質問で「止めたかったが自分が、殺されてしまうかもしれない」と止めに入ることができなかったと話した。

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「そこらへんにいる清潔感のある優しそうな大学生」

裁判では、「カルパス」と名乗り今回の強盗事件などで逮捕・起訴されている永田陸人被告(22)が証人として出廷。「Kim(キム)」「三橋(みつはし)」などと名乗る人物から計画を伝えられ、犯行に及んだことを証言した。

検察官:実行役に指示を出していたのは? 永田被告:テレグラム名で「Kim(キム)」と名乗る人物と、「三橋(みつはし)」と名乗る人物、「sugar(シュガー)」と名乗る3人です 検察官:「三橋(みつはし)」というアカウントが、それより前に使っていたアカウント名は? 永田被告:「ルフィ」と名乗っていました

永田被告は、自分を含めた実行役4人について「立場は私が絶対に一番上です」と強調。男とは事件前日に初めて会ったという。

当時19歳だった男の印象を「そこらへんにいるというか、清潔感のある優しそうな大学生みたい」と振り返った。

また、住人の女性が亡くなったことについて永田被告は、自分や別の実行役が蹴ったりバールで殴ったりするなどの暴行を加えたと証言。責任は自分たちにあると涙ながらに訴えた。

「私のせいで罪名が重くなり、受ける刑罰が重くなった。被告人は法定刑にあたるようなことはしていないと思います。殺害に関して関与は少ない」

一方で、「私に怯えていたという構図はピンとこない」と主張し、怖がったり嫌がることを男にやらせたことはなかったと証言した。

「永田被告に逆らうことができず」と何度も強調 海外逃亡を試みる

男は、実行役の中でも中心的な役割を果たしていた永田被告に、「逆らうことができなかった」と何度も強調した。

「なめとったらぶっとばすぞ」「引きずりまわすぞ」何度も暴言を吐かれ、永田被告は怖い人、怒らせないように機嫌を取るべき相手だったという。
「永田さんに逆らう勇気は持ち合わせていませんでした」と男は話した。

事件後、男は指示役の手引きで海外逃亡を計画している。その時の心境について、「つかまりたくないという気持ちが強くなった」と振り返った。

指示役らから偽造した運転免許証を受け取りパスポートを申請したが、住民票の住所との違いを指摘され、住所変更を行うために免許センターに向かったところ、偽造を見破られ逮捕された。

強盗に参加したきっかけについて、「お金がなかった、お金が欲しいという思いはあった」と話していた男。ただ、結果として、報酬は全く得られなかった。

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「逃げてはならない」「自分はもっと苦しまなければ」

「逃げてはならない」「自分はもっと苦しまなければ」

「自分たちのせいで奪われてしまった命。逃げてはならない」
「被害者のおばあさんはもっと苦しくて痛かっただろう。自分はもっと苦しまなければいけない、この先一生」

事件後、書き続けたという反省文。証言台で男はこう話した。

「自分の強盗に加わるという決断のせいで、被害者と遺族の方に対して取り返しのつかない結果となってしまったことが申し訳ないです。つぐないを生涯をかけて行っていくことをここに誓います」

男に懲役23年の判決「卑劣かつ悪質極まりない」「高額な報酬目当て」

裁判では、強盗致死罪が成立するか否かが争点となった。

弁護側は、他の実行役がバールで殴ることまでは想定していなかった、死亡につながる暴行も行っていないなどと主張。
一方の検察側は、暴力を伴う強盗が計画されていることを理解していた、男も強盗のために暴力をふるったなどと指摘していた。

東京地裁立川支部は9月6日、「犯行計画が被害者に暴行を加える内容であることを男も認識していた」などとして、強盗致死罪が成立するとした。

そのうえで、「周到な準備や綿密な計画に基づき、組織性・計画性の高い職業的な犯行」「被害者の肉体的、精神的苦痛は筆舌に尽くしがたい。平穏な生活、幸せな人生を突如奪われたその無念さは察するに余りある」として、男に懲役23年を言い渡した。

また、犯行動機についても「高額な報酬目当てに本件に及んだもので、身勝手で利己的である」と指摘した。

裁判長の方を向いて判決を静かに聞いていた男は、頭を下げて証言台を後にした。

男は裁判を通じて、被害者や遺族に対して繰り返し謝罪の言葉を口にしていた。しかし同時に自身の立場の弱さも繰り返し強調していて、どこか責任を逃れようとしているように感じた。

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