飲みやすさを重視したフルーティーな「香り系焼酎」が若者や女性を中心に人気だ。焼酎業界の売り上げ低迷が続く中、バナナやライチ、メロンといった風味をそろえ、ファンの獲得を目指す。酒造会社は“焼酎ブーム”を生み出そうと開発に熱を入れている。(共同通信=相沢一朗)
「焼酎を飲み慣れていないお客さんにはソーダ割りが好評だ」。福岡市の居酒屋「焼酎酒場ANSIC(アンシック)」の和田慎也(わだ・しんや)店長(47)は指摘する。焼酎は日本酒やワインと異なりさまざまな飲み方ができ、味や香りも変化する。店を訪れた福岡市の尾方麻桐子(おがた・まきこ)さん(25)は「炭酸割りでおいしい焼酎が増えて選ぶのも楽しみの一つ」と話す。
国税庁によると、本格焼酎と泡盛が分類される単式蒸留焼酎の2022年度の国内販売(消費)量は38万5863キロリットル。10年前に比べ20%、15年前から29%それぞれ減った。若者のアルコール離れや嗜好(しこう)多様化によるウイスキーやリキュール類との競合などで減少傾向に歯止めがかからない。
専門紙「酒販ニュース」によると、本格焼酎メーカーが2023年に「香り系」をうたって発売した焼酎は14商品で過去最多だった。法律上、指定原料以外の香料を使うと本格焼酎の枠から外れるため「香りを生み出すために酵母を工夫した例が多い」と分析する。
2023年は芋焼酎以外にも香り系焼酎への参入が目立った。芋焼酎「黒霧島」を看板にする霧島酒造(宮崎県都城市)は9月、バナナのような果実香が特徴の麦焼酎「霧島ほろる」、メロン風味を楽しめる米焼酎「霧島するる」を販売した。同社が麦・米焼酎の新商品を手がけるのは20年超ぶり。
琉球泡盛の菊之露酒造(沖縄県宮古島市)も炭酸割りで飲みやすい「菊之露 akari(アカリ)」を6月に売り出した。
芋焼酎メーカーが麦焼酎や米焼酎に注力する背景には、伝染病「サツマイモ基腐病(もとぐされびょう)」による原料供給の低迷もある。浜田酒造(鹿児島県いちき串木野市)の脇元信一(わきもと・しんいち)コミュニケーション課長(44)は「芋の安定供給が保証されない逆境下で、同等の市場規模がある麦焼酎を強化し商品の幅を広げる狙いがある」と解説する。
浜田酒造は、独自技術で芋を熟成させライチのような香りがする芋焼酎「だいやめ」を2018年に発売。香り系の火付け役だが、2023年2月にはスパイスのマーガオを使った麦焼酎「CHILL(チル) GREEN(グリーン)」を手がけた。
「好まれる味は世代で違っても、原料由来の風味でアルコール臭さを減らし、飲みやすくする理論は同じだ」。伝統の長期熟成焼酎「薩摩七夕」が主力の田崎酒造(いちき串木野市)の杜氏(とうじ)野崎充紀(のざき・みつのり)さん(54)も香り系人気を肯定的に捉え、愛飲家の増加を期待している。
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