◆「責任重い」はずの小林一雅会長が「特別顧問」
「業務執行を担う社内取締役3名の経営責任は重い」。紅こうじサプリ問題で、小林製薬は今月23日、外部の弁護士でつくる「事実検証委員会」の調査報告書と、取締役会の総括についての文書をホームページ上で公表した。その中で、取締役会は、小林一雅会長(84)や章浩社長(53)らの責任をこう指摘し、会長、社長の辞任について報告した。小林製薬の「紅麹コレステヘルプ」
章浩氏は8月8日付で、社長の座を専務の山根聡氏(64)に譲った後、代表権のない補償担当取締役に就く。一方で一雅氏は、今月23日付で辞任すると同時に特別顧問に就任した。 同社は26日にホームページで公表したコーポレートガバナンス報告書で、特別顧問について、報酬は月200万円で、任期は3年間としている。◆小林製薬「前会長の知見と経験等を生かすことが有用」
「こちら特報部」の取材に同社広報はメールで対応。通常の顧問は任期2年で報酬は月50万円だと明かした上で、一雅氏の顧問就任について「弊社の再建に向けて、前会長の知見と経験等を生かすことが有用と判断した」と主張した。「紅麹」の健康被害をめぐり、小林製薬が使用中止を呼びかけ、回収している商品
また、今年1〜6月の役員報酬について、章浩氏は50%、山根氏は40%を返上するが、一雅氏は返上せず、扱いに差がある。 取締役会の総括文書は「(一雅氏は)既に経営の現場からは距離を置いており、本件事案への対応に直接関与していたわけではない」と理由付けていた。 だが、取締役会内の議論で異論は出なかったのか。同社広報は「具体的な審議の内容や経緯等については回答を差し控える」とコメントを避けた。◆健康被害、当初は死亡疑い5人としていたが
問題を巡る同社の説明の姿勢には首をひねる点が多い。同社は健康被害を公表した3月22日と同月29日に章浩氏が記者会見した後、会見を開いていない。ところがその後も、重大な事実が明らかになっている。小林製薬が厚生労働省への報告漏れに関しホームページ上で公表した文書
3月29日時点で同社はサプリ摂取後に死亡した疑いを5人としていたが、6月に入り、新たに76人いることが判明。現在は100人を超えている。 また、厚生労働省は5月、同社工場から採取された青カビの培養で「プベルル酸」を検出したことを発表した。プベルル酸はサプリの原料からも検出されており、腎臓に悪影響を及ぼすことが確認されたという。◆記者会見は開かず 「被害者や消費者のほうを向いた判断と言えず」
今回の報告書などの公表時にも会見はなかった。同社広報は取材に「8月8日の中間決算発表で、報告書や今後の対応について説明する予定だ」としたが、対応が遅すぎないか。 企業の危機管理に詳しい「エイレックス」の江良俊郎社長は「当初、サプリと健康被害の因果関係が不明だとして、企業の評価低下のリスクを考慮し、公表を見送った経緯があるが、説明しない姿勢がかえって評価を落としている。被害者や消費者のほうを向いた判断とは言えず、誤った対応だった」と指摘する。 一雅氏や章浩氏が特別顧問や取締役として残ることにも疑問を呈する。「創業家が今後も経営に影響を与え、社内で自由な意見が言えない可能性がある。本来は身を引くべきだ。残るのであれば、まず自らの説明責任を果たさなければならない」◆これが「創業家パワー」?
不祥事を受けて辞めた会長が高額報酬の特別顧問となり、社長も取締役として居残る—。世間離れした小林製薬の対応をどう見るべきか。 「本来であれば考えにくい人事。責任を取って社外に去るべきだ。企業統治が欠落している証拠にほかならない」と批判するのは、多摩大学の真壁昭夫特別招聘(しょうへい)教授(金融経済)。甘い対応となった背景に「同族経営」があるとみる。 小林製薬は1919年の創立以来、創業家の小林家がトップに就いてきた。2023年12月末時点で、社長の章浩氏は同社株を約12%持つ筆頭株主。3位の小林財団は約8%を保有し、理事長は、会長だった一雅氏が務める。 真壁氏は「創業家の意向が反映されやすい組織体質を持っていた可能性がある。それが企業統治の歪(ゆが)みを生んでいたとするなら、創業家の2人は責任を取って社外に退き、新しい人に再建を託すのが正しい姿だ」と説く。◆「社外取締役にも賛成した人が」 希薄なガバナンス意識
厚生労働省
企業統治に詳しい青山学院大の八田進二名誉教授(会計学)も、小林製薬の一連の対応を「論外」と断じる。その上で、今回の不祥事や人事を巡って社外取締役がきちんと使命を果たしたのかを疑問視する。 小林製薬の取締役会は今回、一雅氏が会長を退くまでは、計7人で構成され、うち4人が社外取締役だった。独立した社外取締役が過半数を占める体制は「先駆的」とされるが、八田氏は「顧問制度の年限や報酬を増やすお手盛り人事は、取締役会が決めた。つまり過半数を持つ社外取締役にも賛成した人がいるということだ。ガバナンスに対する認識が希薄ではないか。器は先駆的でも、中身は機能していなかったようにしか見えない」と指摘する。 社外取締役の使命は経営の監視監督であり、有事の時こそ真価が問われると八田氏は強調する。「事実検証委の報告書には、社外取締役が問題を把握した3月以降、どういう行動や判断をしたのかにはほとんど触れていない。経営トップの責任が問われる案件では、独立の社外取締役こそ記者会見を開いて社会への説明責任を果たすべきだ」自見英子消費者相(資料写真)
小林製薬が23日に事実検証委の報告書を公表すると、武見敬三厚労相は同社について「適切な経営判断がなされなかった」と批判。自見英子消費者担当相も26日の記者会見で、小林製薬から消費者庁などへの健康被害の報告が遅れたことについて「機能性表示食品のガイドラインでは速やかな報告を規定しており、誠に遺憾」と述べた。◆機能性表示食品制度の始まりは
しかし、安倍政権下の15年、成長戦略として、規制緩和で機能性表示食品制度を導入し、結果的に「食品禍」を防げなかった国の責任も免れない。先の八田氏は「制度は、企業の性善説で成り立っていた。それが裏切られた以上、国として規制強化に向かわざるを得ないだろう」とみる。 自治医大の中村好一名誉教授(公衆衛生学)は「当初から安全性への懸念はあった。いわゆる『政高官低』になって、安全に関する規制緩和を止められなかった厚労省をはじめとする官僚の責任も大きい。安倍政権の負の遺産となっている」と指摘し、小林製薬の問題を機に機能性表示食品制度の抜本的な見直しが必要と説く。 「現在は健康などに『有効だ』というデータを付けて届け出れば販売できるが、疑わしいデータもあると聞く。本当に健康にとって良いのか、安全性は保障されているのか、きちんと行政が検証する仕組みが必要だ。気軽に誰でも摂取できる健康食品だからこそ、安全性については絶対に譲ってはいけない」◆デスクメモ
ファミリー企業は長期的な視野で経営ができるのが強みとされる。同時にトップの独断専行や判断ミスを正しにくい弱点もある。最近の小林製薬は後者が強く出ているようだ。歯止めとなるべき社外取締役も機能していると言えない。同族経営が多い日本で教訓とすべき点は多々ある。(北)
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