能登半島地震で被災した石川県七尾市飯川町の元介護施設職員、佐渡広紀さん(43)と妻の文(あや)さん(39)が、民間救急の事業所「介護タクシーはる」を立ち上げた。地元の介護現場では、ストレッチャーに寝かせた人を運ぶ手段が救急車しかなく、移動手段を増やしたいとの思いで開業を決意した。地域の高齢者の足を支えようと奮闘が続く。(大野沙羅)

◆2人とも石川・中能登町の介護施設で働いていた

民間救急サービスを始めた代表の佐渡広紀さん(右)と妻の文さん=石川県七尾市飯川町で

 ワゴン車と軽自動車が各1台。ワゴン車はストレッチャーのまま乗り込める。地震で自宅隣にある広紀さんの実家が半壊するなど被害を受け、開業は当初の予定から3カ月ほど遅れた。地震前から開業することは決めていたが、地震を受けて奥能登を越えた移動のニーズが増えると見込み、対応エリアを金沢市や県外にまで広げた。  夫婦はともに同県中能登町の介護施設で働き、文さんは介護福祉士の資格を持っている。ヘルパー2級の資格を持つ広紀さんは7年ほど前、グループホームでデイケアを担当することになり、要介護者の移動手段が少ない厳しい現実を目の当たりにした。

◆「事業者がないなら自分たちがやろう」

 「この辺りでは、起き上がれない人を運ぶ手段は救急車しかない。救急搬送が増える中で、必要な人が救急車を使えなくなる可能性もある」。遠方の事業者に頼む手もあったが「ないなら自分たちがやろう」と退職。夫婦二人三脚で準備を進めてきた。  開業に当たり、一般乗用旅客自動車運送事業(福祉限定)と患者等搬送事業者として七尾鹿島消防本部から認定を受けた。同本部によると、管内での認定は2008年以降なく、24年度は唯一の事業者だ。  筋萎縮性側索硬化症(ALS)で自宅療養中の広紀さんの父親の移動にも役立つ。人を運ぶだけでなく、買い物の代行や安否確認もする。介護現場での経験を生かし、ベッドから車いすへの移動や外出時の着替え、排せつのサポートなども担う。要予約。営業は午前7時半~午後5時半だが「介護で大変な思いをしている人がたくさんいるので、少しでも役に立ちたい」と時間外でも対応する。

 民間救急 通常の救急車とは異なり、緊急性の低い患者を有料で搬送する。要支援や要介護の認定を受けている人、障害者手帳がある人、けがや妊娠などで公共交通機関を使えない人らを対象に通院や転院、社会福祉施設への送迎などのサービスを提供する。東京消防庁が認定した患者等搬送事業者は今年4月現在で329事業者。



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