認知症、知的障害、精神障害などを理由に判断能力が不十分な人に代わり、財産管理などの意思決定をする後見人を立てる「成年後見制度」。1人で決めることに不安のある人々を法的に保護し、本人の意思を尊重した支援を行うことが目的である制度だが、この目的とはかけ離れたトラブルが起きている。これまでにも後見人が口座から勝手に金を引き出して逮捕される事件も出ている。『ABEMA Prime』では、この成年後見制度の課題について“被害者”となってしまった当事者とともに考えた。
【映像】認知症が進む前の母と三女の様子
■2000年に施行された「成年後見制度」とは「成年後見制度」とは、高齢化が進む中で、不動産や預貯金の管理、遺産分割や相続手続き、介護や福祉サービスの利用契約、施設への入所・入院に関する契約などを本人一人で行うことが難しい場合に、後見人が支援する制度だ。法律行為を難しいと感じる人も多く、悪徳商法から被後見人を守る目的で2000年に施行された。成年後見制度には「法定後見制度」と「任意後見制度」の2種類がある。本人や家族が申し立てを行うと、家庭裁判所が弁護士などの後見人を選ぶ。後見人は本人の利益を最優先に、原則としてすべての法律行為を代行することができる。手続きは、本人や配偶者、4親等内の親族などが申し立てを行い、家庭裁判所が精神鑑定などの調査を経て後見人の開始を決定し、同時に後見人を選定する。その後、後見人は財産目録と収支予定表を家庭裁判所に1カ月以内に提出し、本人の生活や財産の状況を年に1回報告する義務が発生する。2023年度には、約25万人が成年後見制度を利用している。
■ある日突然母が施設に連れ去られた…介護していた娘「あなたが虐待したと言われた」6年間も面会できず後見人が勝手に口座から金を引き出してしまうという事件の他にも、トラブルは起きている。2017年、当時86歳だった母と暮らし介護をしていた三女のがるっぺさん。長女と次女はそれぞれ結婚し別居していたが、長女が母親とがるっぺさんに断りもなく、成年後見人を立てた。本来必要な手続きである母親の状態確認もないまま手続きは進み、母は後見人と長女によって施設に入所。がるっぺさんと離れて生活することになっただけでなく、居場所すら教えてもらえず6年間以上も会うことができなくなってしまった。母の認知症は軽度のもので判断能力も問題なし。本人は自宅介護を希望していたが、それも叶わず。ようやく昨年、母の居場所を突き止め再会を果たしたものの、すでに母はがるっぺさんが認識できないほど、認知症が進行してしまっていた。
がるっぺさんは、当時の状況を振り返る。「証拠もないのに、母が連れ去られた後『あなたが虐待していた』と言われて本当にびっくりした。どういう虐待があったのか口頭で聞いたら『お姉さんたちと会わせないようにしていた』と。その後に私はTwitter(現X)とかで『こういうトラブルに巻き込まれて母と会えなくなっちゃいました。後見人がこんな風でおかしい』とツイートしていたら、それが後見人への攻撃、イコール母への攻撃だからあなたは虐待を続けていると言われた」と、愕然とした。ようやく再会を果たした母だが、大きなショックを受けることに。「もう私の顔を見てもキョトンとしている感じで全く…。(2017年に)連れ去られるまでは普通にポンポン会話ができていたが、6年越しに会った母はもうそういう感じではなかったし、車椅子にも乗っていた。その間に失われた時間は母にとっても私にとっても…」と言葉を詰まらせた。
■介護バイト経験者りんたろー。「認知症は環境やコミュニケーションがすごく大事。一気に認知が進むこともある」介護のバイトを8年間していた経験を持つEXITのりんたろー。は「介護にちょっと携わらせてもらった人間として忘れちゃいけないのは、認知症はすごくコミュニケーション、すなわち環境がすごく大事ということ。いっぱい毎日しゃべることで進行を遅らせることができる。だから本当に今まで普通だったのにあっちの老人ホームに行ったら一気に認知が進んじゃった、というのもめちゃめちゃあるケース」と語り、さらに「認知症の悲しいところは緩和や進行を遅らせることはできるが、現時点では治療ができない。お金とかは最悪、制度や法律で取り返せるかもしれないが、もし自分が一緒にいたら自分のことを分かっていたかもしれないという思い出とか、この失われた6年という時間は絶対に帰ってこない。そこがいたたまれない」と沈痛の面持ちで述べた。
また、がるっぺさんも現在の成年後見制度、さらには監督すべき家庭裁判所への不信感は募っており、「この制度は国連からも廃止を視野に入れて考えてくださいと指摘されているくらいだし、続けていくのは難しいと思っている。法定後見は家庭裁判所に監督責任があるが、まったく監督しているようには見えない。犯罪の温床になっているような状況だ」と訴えた。
■求められる対策「運用が追いついていない」「もっと法人後見を」?自身も後見人を多数務めている南和行弁護士も現在の成年後見制度については、課題が多いと指摘する。南氏は「誰を後見人にするかというのは親族の中で話し合う。『自分の知っている弁護士を母の後見人に』という時もあるが、親族が揉めている場合は兄弟が『姉が連れてきた弁護士はいけない』というなど、さまざまなパターンがある。本人にとって一番いいのは誰かと、裁判所に選んでほしいが、運用が追いついていない。裁判所の調査官が面談をして、様子を見てきて確認する運用だが、特にコロナ禍を経て、書類だけでなんとなく後見人が決まってしまうこともある」と実情を伝えた。また、後見人の交代についても「解任請求は法律にあるが、請求できるのは親族だけ」であることも付け加えた。
この問題に「法人後見」を利用すべきと強く訴えたのが、無料・匿名のチャット相談窓口「あなたのいばしょ」理事長の大空幸星氏だ。1人の弁護士などが後見人になるとの異なり、法人後見は社会福祉法人や社団法人、NPO法人などの法人が成年後見人などになり、同様の支援を行うもの。「法人」であるだけに、複数人で支援に回ることでトラブルが減るという論だ。「1対1の関係は非常にリスクが高い。法人後見であれば当然複数の支援者が入ってくる。リスクを分散するという意味では、法人後見がもう少し広がった方が解決策ではないか。がるっぺさんのケースも、複数人が介在していれば防げた可能性は高いと思う。社会福祉法人も法人後見できる能力はあるし、実際にやっている地域もいっぱいある。弁護士資格、法曹資格はないけれど、ある程度の専門知識に基づいてこの制度を運用できるようにいろいろな養成講座を他の団体と協力しながら作っている」。
これに南氏は「申し訳ないが、法人後見はあまり良いとは思わない。決して家族になるわけではないが、家族の関係や本人のデリケートな生活に関わっていく立場だ。家族に入っていくところで、1対1の関係である必要は大きいと思う。大事なのは心がけ。この人の人生に関わるんだという意識が、弁護士後見に必要だ」とした一方、「地方だと弁護士あるいは司法書士すらほとんどいない。地域で何がしかの団体が後見を受けることが本人の生活の安定にプラスになっているケースを私も知っているので、一概に法人後見がダメと言えない部分もある」とも述べていた。
(『ABEMA Prime』より)
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