２０２３年８月、岩手県滝沢市のアパートで、当時７２歳の男性を殺害し、通帳とはんこを奪った罪などに問われている７６歳の男の裁判員裁判が、２０２４年７月１６日、盛岡地方裁判所で始まった。
法定刑は死刑または無期懲役とされる強盗殺人を含め、８つの罪問われている男の初公判を追った。

強盗殺人などの罪に問われているのは、本籍・盛岡市前九年で住所不定・無職の佐藤廣明被告（７６）だ。

起訴状によると、佐藤被告は２０２３年８月１４日の午前１１時ごろから翌日の午前９時半すぎまでの間、岩手県滝沢市のアパートの一室で１人暮らしをしていた当時７２歳の男性の首をタオルのようなもので絞めて殺害し、銀行の通帳１通とはんこ１本を奪った罪に問われている。

また、逃走する過程で高齢の男性に暴行を加えてけがをさせ、車を強奪した強盗致傷罪などを含め、合わせて８つの罪を犯したとされている。

この裁判員裁判で佐藤被告は全ての起訴内容を認めていて、争点は量刑。

これまでの弁護側の主張は、主に次のような内容だ。

佐藤被告は、相手を眠らせて金品を奪う「昏睡強盗」をしようと考えた。
その手段として、自分に処方されている睡眠導入剤をビールに混ぜて被害者に飲ませたが、効き目がなかったことから殺害に至ったというもの。

この上で「計画が大きく異なった犯行だ」として、佐藤被告には当初、殺意がなかったことを訴えている。

第３回公判の２０２４年７月１８日は、弁護側と検察側による被告人質問が行われた。

まず弁護側は質問の前に、佐藤被告の供述を交え事件前から強盗殺人に及ぶまでの時系列を改めて確認した。

▼２０２３年２月、以前犯した罪で服役していた宮城県内の刑務所を出所。本籍地の盛岡市で生活保護を受給しながら１人暮らしを始める。

▼同年７月、親族を介して、かつて消費者金融から借りた金、利息含め約３００万円の督促状が届く。別の親族からも約７０万円の金を返すよう迫られていた。
しかし、思うような職に就くことができないことから、北海道の知人を訪ねて頼ろうと考える。

▼同年８月８日、岩手県盛岡市青山の公園で被害者と知り合う。「どこから来たの」と話し掛けられ、飲料やたばこを勧められたことがきっかけだった。
公園の近くで開かれていた夏祭りへ一緒に行ってから２人で飲食店へ。この日から被害者のアパートに泊めてもらうようになる。

▼同年８月１４日、被害者宅で食事や飲酒をしていた。被害者が「あすは年金の支給日だ」と話したことから、その年金を奪い北海道へ行こうと考える。
自分に処方された睡眠導入剤をビールに混ぜて被害者に飲ませた。

▼同年８月１５日の朝、被害者は睡眠導入剤入りのビールを何度か口にするも、効き目がなかった。
このため、自分に処方されている血圧降下剤をビールに足すも、同じく効果が現れないことから殺害を決意。
アパートの中で横になっている佐藤被告を被害者がまたごうとした際に転ばせ、殴ったり蹴ったりした。その後、手で首を絞めてからタオルで首を絞めて殺害。
部屋のテーブルの上にあった通帳とはんこを奪い、盛岡市内の銀行窓口に行ったが、金を下ろすことはできなかった。

以上が時系列だ。

この上で弁護側は、被害者の首を絞めた際に、殺すつもりがあったかどうかを尋ねた。
これに対し佐藤被告は、「被害者の首を絞め、意識がないことを確認した際『許しくれ、息を吹き返してくれ』という思いから首をもんだ」、「気絶させるだけで殺すつもりはなかった」と述べた。

この上で「前日まで一緒に食事をしたり、酒を飲んだりした人を殺めてしまい申し訳ないです。遺族にも申し訳ない」と謝罪の言葉を口にした。

一方、検察側の質問の中で佐藤被告は、８月１５日の朝、被害者が外出するそぶりを見せたことから「年金を全て下ろされたら金がなくなる」と感じ、転ばせて犯行に及んだことを明かした。

ここから検察側は、捜査段階における調書を交えて質問を続けた。

それによると佐藤被告は、被害者の首をもんだ理由について、捜査段階では「首を絞めた痕跡を消そうとした」と供述していたという。

検察側が、法廷での発言との食い違いを指摘すると佐藤被告は「覚えていない」と返答。
しかし、再び同じ質問に話が及ぶと「そうしたかもしれないが、気がついたとしてもすぐには動けないだろうと思った」と小さな声で述べた。

また、手で首を絞めて被害者の意識を失わせてから、さらにタオルで首を絞めた理由を聞かれると、佐藤被告は「意識を取り戻して警察に通報されたら困ると思った」と返答。

当初は殺意がなかったとしながらも、意識を取り戻されないように再び首を絞めて殺害した矛盾点を指摘されると、佐藤被告は「パニックになっていた」などと語った。

さらに、暴行の詳細については「１０回以上殴ったと思う」、気絶させるために首を絞める力を弱めることをしたかどうかを問われると「しなかったと思う」、「人を殺した経験がなかったから力の加減はわからない」とも述べた。

この裁判員裁判は７月１９日も被告人質問が行われ、７月２９日に判決が言い渡される。

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