水中にいるヨコヅナクマムシ=国枝武和・東京大准教授提供
体長1ミリに満たず8本の脚でゆっくり歩く動物「クマムシ」。乾燥や極度の高温・低温、高圧、強い放射線など過酷な環境の中を生き抜くことができ、「最強生物」とも呼ばれます。東京大と千葉工業大の研究チームが、クマムシの遺伝子を操作できるゲノム編集技術を開発しました。この技術を活用し、乾燥などへの耐性に関わる仕組みの解明を目指します。ワクチンなどを常温で乾燥保存する技術の開発につながるかもしれません。 クマムシは、普段はコケにたまった水などにすんでいますが、周りが乾燥すると、自らも脱水して縮まり生命活動を一時的に止める「乾眠(かんみん)」をします。乾眠状態では、極限環境に耐える驚異的な強さを発揮します。この状態になっても、水に浸したら10~20分で元に戻ります。 強さに寄与すると考えられるクマムシ固有の遺伝子やタンパク質は複数見つかっています。しかし、クマムシの遺伝子を改変する技術がなく、生きたクマムシの中でそれらの遺伝子やタンパク質の働きを調べることができませんでした。ヨコヅナクマムシにゲノム編集を起こす液体を注入する様子=西郷永希子さん撮影
そこで、チームは、生物の遺伝情報を自在に書き換えることができるゲノム編集を、クマムシの一種・ヨコヅナクマムシに使えるようにしました。生まれてからさまざまなタイミングで昆虫向けのゲノム編集技術を試し、最適な条件を見いだしたのです。通常の飼育では、寿命は2カ月ほどです。研究では、生後7~10日たったクマムシの体内にゲノム編集を起こす液体を注入したところ、狙った遺伝子を改変した子どもが得られました。 ヨコヅナクマムシは、メスだけが存在して交尾をせずに卵を産んで増えます。親の生殖腺内の卵細胞で、狙った遺伝子を壊したり、新しい遺伝子を取り込んだりするゲノム編集が起こり、子どもに伝わったと考えられます。 チーム代表の国枝武和・東京大准教授(極限生物学)は「クマムシのゲノム編集は10年前から世界のクマムシ研究者が欲しかった技術。この技術を使って、まずは乾燥に耐える仕組みを解明したい。解明できれば、ワクチンはもちろん、魚の干物に水をかけたら生き返って泳ぎ出すことも原理的にできるはず。生き物とは何かという根源に迫りたい」と話します。(増井のぞみ)
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