静岡県立静岡がんセンター(静岡県長泉町)は13日、腸閉塞(へいそく)の手術で麻酔をした際に吐いたものが肺に入ったことが原因で県東部の70代男性患者が亡くなる医療事故が起きたと発表した。医療事故調査委員会が調べた結果、麻酔方法や嘔吐(おうと)物の確認などに問題があったという。同センターは遺族に謝罪し、慰謝料など4千万円を支払うことで和解した。
センターによると、この患者は2022年9月、腹痛や吐き気を訴えて受診し、癒着性の腸閉塞と診断されて緊急入院した。S状結腸がんと食道がんの手術歴があり、治療による改善がみられなかったため、同22日に腸閉塞の手術をしたという。
手術で麻酔をかける際、腸閉塞による逆流で嘔吐しやすい状態だったが、マスクを用いて空気を送り込む陽圧換気をする通常の麻酔方法を選択した。この方法は嘔吐を招くおそれがあるという。
患者はすぐに嘔吐したため、吸引チューブで吸引したが、嘔吐物が気管支内や肺に入ったことを十分に確認しないまま手術し、術後から酸素が血液に十分取り込まれない状況に陥った。内視鏡で気管支や肺を確認すると嘔吐物とみられる液体が多量にあり、気管支や肺からの吸引や集中治療室での治療を続けたが、翌23日に誤嚥(ごえん)性肺炎による急性呼吸窮迫症候群で亡くなった。
同センターは医療事故調査制度に基づいて同年11月に外部委員2人を含む医療事故調査委員会を設置し、原因などを調べた。その結果、手術前の麻酔科の会議で麻酔方法を議論せずに麻酔医個人の判断にゆだねられた▽麻酔方法は嘔吐による誤嚥をさけるために迅速導入気管挿管などを検討する余地があった▽嘔吐直後に気管支を内視鏡で確認して吸引すべきだった――と指摘した。
同センターは23年3月、遺族に調査結果を報告し、謝罪したという。その後、慰謝料などについて交渉し、解決金4千万円で今年3月に和解した。解決金は県議会6月定例会に提出する。
同センターは指摘に基づいて、再発防止策として、腸閉塞など特殊な手術は麻酔科の会議で検討する▽逆流のおそれがある患者の腸閉塞手術で迅速導入気管挿管などを用いる▽麻酔をした際の嘔吐は気管支の内視鏡で誤嚥を確認する、などを院内に徹底したという。
記者会見した小野裕之病院長は患者の冥福を祈り、遺族に謝罪したうえで「医療の安全について全職員に周知し、こうした事故を起こさないようにやっていかなければならない」と話した。(大海英史)
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