米大リーグ・ドジャースの大谷翔平選手が全国の小学校に6万個を贈って話題になった野球グラブ。その価格は上昇中だ。そんな問題に応えようと、古いグラブに手を入れた「再生グラブ」を販売する店が大田区にある。価格は新品のほぼ半額。技術を駆使し、使い込んだグラブの修理やリメークにも対応している。

再生グラブについて話す米沢谷友広さん=大田区で

◆外側だけなら新品同様のものも

 店に入ると、左の棚に100個以上の再生グラブが並ぶ。数は右の棚にある新品と変わらない。外側だけなら新品同様のものもあるが、手に取って内側を見るとボールをつかむ部分が黒くなっており、中古品と分かる。硬式用の新品が6万円のモデルだと、再生品は2万7800円。約半額に設定しているという。

修理、リメ-クされたグラブ=大田区で

 店は「野球グローブ再生工房Re-Birth(リバース)」。JR蒲田駅と京急蒲田駅のほぼ中間にある。代表の米沢谷(よねざわや)友広さん(42)が2021年1月に開いた。

◆ネット発…細かな要望を聞くため対面の店舗へ

 米沢谷さんは通信販売などを手がける大手IT企業で、野球用品の商品企画にかかわっていた。独立した後、20年2月から買い取ったり、寄付を受けたりしたグラブを作り直して販売する事業を始めた。インターネットを窓口に傷んだグラブを預かり、修理やリメークをして送り返していた。  「お客さんから『インターネットだと細かな要望が伝えにくい』と指摘を多く受け、対面して話し合える実店舗を開いた」。パーツをつなぐひもを取り替えたり、受球面のしわを取り除いたり、オイルを塗布したり。一つ一つのグラブの状態に合った手入れを施し、この4年間で再生したグラブは1万個以上になる。世田谷区と多摩市にも店を出し、インターネットでの事業も続けている。

◆背景に価格上昇 9年で1.4倍

 再生品のニーズが高い背景にはグラブの価格が上昇していることがある。総務省の小売物価統計調査によると、今年4月の大人用軟式(中級品)の全国平均は1万4984円だった。9年前の15年4月は1万428円だったから、1.4倍だ。材料の牛革や輸送費などが上がった影響とみられる。価格の上昇はこれから野球を始めたい人には悩ましい問題になっている。  この日、杉並区の山下明日香さんは、硬式野球クラブに入部した中学1年の次男陽向(ひなた)さんのグラブの相談で来店した。「息子はまだポジションが決まっていないので新品は買えない。これまで軟式野球で捕手をしていたが、使っていたミットを硬式用に再生できないか」

◆最高位の「グラブマスター」が相談に応じてくれる

 要望に応えるには高い技術が求められる。山下さんの話を聞いていたのは、同店のグラブマスター大木賢(さとし)さん(27)。修理や再生を手がける職人で、四つ設けた技術階級のうち最高位の「プラチナ」だ。陽向さんのミットの傷んだ革を取り換えるほか、別の革を貼り合わせたり、ミシンで縫い合わせることで「再生が可能」と答えた。

グラブを修理するグラブマスターの大木賢さん

 実は、米沢谷さんは秋田県代表として夏の甲子園大会に出場した代の秋田商業高校のメンバー。「『野球はお金がかかる』とためらっている人に再生グラブは一助になるのではないか。愛着あるグラブを使い続けたいという選手の気持ちにも応えていきたい」と話す。    ◇  蒲田店は大田区蒲田5の26の8。他に二子玉川店(世田谷区玉川3の13の4)、多摩永山店(多摩市永山1の1の7)がある。定休日や営業時間は店舗によって異なる。オンラインショップは店名で検索。  問い合わせは、電03(6281)8783。土日祝日を除く正午〜午後8時に対応。 文・桜井章夫/写真・市川和宏 ◆紙面へのご意見、ご要望は「t-hatsu@tokyo-np.co.jp」へメールでお願いします。


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