電子ギフト券を悪用した特殊詐欺が急増しており、警察庁などは米アップルやコンビニエンスストアに対策の強化を要請する。電子ギフト券が絡む詐欺被害は1〜3月に5億円を超え過去最悪のペースで、「アップルギフトカード」の悪用が9割を占めた。アップルに不審な取引の防止措置、コンビニ業界には会計時の注意喚起を求める。
コンビニなどで販売されている電子ギフト券は購入するとIDが得られ、発行元プラットフォーマーの電子商取引(EC)などで使える。
普及が進む一方、詐欺への悪用も増えている。電子ギフト券が使われた詐欺の被害額は2023年に前年比2倍以上の約21億5千万円となり過去最多だった。24年1〜3月の被害額は約5億5千万円(暫定値)で23年同期を上回る。うち9割超がアップルギフトカードの悪用だった。
パソコンでインターネットを閲覧中に、突然ウイルス感染したかのような嘘の画面を表示させたり、警告音を発生させたりして復旧費を要求する「サポート詐欺」で詐取金を払い込ませるケースが目立つ。
アップルギフトカードの悪用が多いのは、人気が高い「iPhone」といった製品を購入するためとみられる。犯罪グループは製品を転売しマネーロンダリング(資金洗浄)している疑いが強い。警察庁などはアップルに抑止策の強化を求める方針だ。
電子ギフト券では過去には「Amazonギフト券」の悪用も目立った。複数の関係者によるとアマゾン側が対策を強化し、同ギフト券を悪用した特殊詐欺は大幅に減少したという。
一方、警察庁が23年1月〜24年3月の被害3万5千件(未遂含む)を分析したところ、被害者のうち91%がコンビニで購入していた。コンビニ各社は詐欺への警戒を求める声かけを推進しているが、店舗によって対応に差がある。
コンビニ店頭での声かけなどで被害を阻止できたのは、全体のうち1万1千件と約31%だった。
対策の実効性をより高めるため、同庁はレジで詐欺への注意を促す画像の表示や音声案内といった対応を求める。店員が客とやりとりする機会をつくるため、ギフト券をレジ裏で管理し、購入希望者に手渡すといった対応も要請する。
アップルやコンビニ業界との連携策は月内に開催される犯罪対策閣僚会議でも示される見通し。警察幹部は「声かけといったソフト面だけでなく、ハード面の対策強化を関連業界に呼びかけ被害防止につなげたい」と強調する。
特殊詐欺、目立つ非対面型 摘発逃れる狙いか
警察庁によると、2023年の特殊詐欺の認知件数は前年比8%増の1万9038件と直近10年では最多となり、被害額も同22%増の452億6千万円だった。
被害を押し上げる要因となったのが、パソコンのサポート詐欺などの架空料金請求詐欺だ。認知件数は5198件と同77%増え、被害額も140億4千万円と同37%増だった。詐取金の交付形態では、電子ギフト券を含む電子マネー型が6割強を占めた。
電子ギフト券を利用したサポート詐欺は、犯行グループ側が被害者らと会う必要がなく、詐取金を受け取る「受け子」や「出し子」も不要で摘発リスクが低い。新型コロナウイルス禍によるテレワークの普及も被害が広がった背景にあるとみられる。
サポート詐欺のシステム開発や電話対応などには外国人のメンバーも関わっているとみられ、詐欺グループは東南アジアなど海外に拠点を設ける動きが広がる。
詐欺グループの国際化と被害の拡大を受け、警察は情報収集や捜査体制の転換を急ぐ。各国当局との連携に加え、4月には各都道府県警が連携して捜査に当たる「連合捜査班」を新たに設けた。東京や大阪など大都市圏の7都府県警に計約500人の部隊を置き、各地の警察から捜査嘱託を受けて初動から摘発まで捜査の全体を担う。
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