◆海外からの帰国者から感染、問い合わせが増加
アラブ首長国連邦(UAE)からの帰国者から飛行機の同乗者らに、はしかの感染が広がったことが報じられた3月。ナビタスクリニック新宿(東京)には、ワクチン接種の問い合わせが1日5~10件程度相次いだ。ただ、ワクチンは注文しても入荷は順番待ち。3月半ばに頼んだ時は約2週間後、5個の注文に対し3個しか納品されず、4月中旬に注文した分については今も届いていないという。はしかワクチンの供給に影響が出ている状況を語るナビタスクリニック新宿の浜木珠恵院長=東京都新宿区で
国内の感染者はコロナ禍の2020~22年は各10人以下だったが、水際対策が緩和された昨年は28人に増えた。今年は5月22日現在で22人が確認された。 厚生労働省は3月、ワクチン需要が高まっているとして、各自治体や医療界に通知を出した。幼児期に2回公費で行われる定期予防接種用に供給を優先し、備蓄目的などで必要以上に注文しないよう求めた。◆国産メーカー3社のうち1社で数値が足らず
なぜ流通に影響が出ているのか。同省によると、国が認めるはしか対応のワクチンは国内3メーカーで作られているが、うち1社で1月、ワクチンの効果を示す値が国規格を下回ったとして、一部の自主回収や使用期限短縮の対応が取られた。このため、他の2メーカーの製品を含め、医療機関などへの出荷量の調整が行われている。 ただ、同省の担当者は「使用期限は短くなるが(自主回収したメーカーが)出荷を前倒しするなど、ワクチンの量自体は不足していない。各メーカーによると、在庫や生産状況から定期接種を賄う供給量にも問題はない」と話す。しかし、供給が安定するめどは立っていないという。 そもそも、はしかは感染力が強く、手洗いやマスクでは防ぎきれない。免疫がない人が感染すると、ほぼ確実に発症するといわれ、脳炎などを引き起こす場合も。ワクチン接種が最も有効な予防策で、1回接種で95%、2回接種で99%以上の人が免疫を獲得できるとされる。しかし、日本で定期接種が2回になったのは06年度。定期接種が1回だった人や接種の機会がなかった世代もいる。◆海外性も含め、希望者がすぐ打てる体制を
ナビタスクリニック新宿も現状、定期接種以外の希望者に打つワクチンはないため、日本では未承認だが海外では広く普及する外国製のワクチンを輸入し、希望する人に接種できる態勢を整えている。浜木珠恵院長は「国が2回接種を推奨しているのに、希望者に打てないのは本末転倒。臨時措置として外国製を確保するなど流通を広げる策を取ってほしい」と求める。 昭和大の二木芳人名誉教授(感染症学)は「海外から持ち込まれるリスクは高まっていると思うが、ワクチン接種率の向上で土着のはしかが消えている日本で、感染が爆発的に広がることはないだろう。感染リスクの高い海外に行くなど緊急を要する場合を除き、接種を慌てる必要はない」と説く。「ワクチンは多少海外からの輸入に頼ってもいいと思う」としつつ、「紛争などで供給が止まるリスクもある。国内メーカーに生産力は十分あるので、国が責任を持ってすぐに増産できる体制をつくるべきだ」と語る。 他方、NPO法人医療ガバナンス研究所の上昌広理事長は「はしか流行時に、十分なワクチンを速やかに確保できるかが重要。国は海外製も承認し、希望する人がすぐに打てる体制を整えるべきだ」と述べた。 鄭重声明:本文の著作権は原作者に帰属します。記事の転載は情報の伝達のみを目的としており、投資の助言を構成するものではありません。もし侵害行為があれば、すぐにご連絡ください。修正または削除いたします。ありがとうございます。