日本各地でも観測されたオーロラ。多くの人が魅了されたが、安穏としていられない状況もある。オーロラをもたらす現象「太陽フレア」は、通信や電力供給に悪影響を及ぼすという。来年がピークと言われるこの現象、政府は対策を立てているようだが、果たして十分か。(西田直晃)

◆オーロラは美しかったが…

 「真っ暗で夜空には何も見えない。でも、実は赤紫色に染まっていた」

石川県珠洲市長橋町で撮影したオーロラとみられる現象。手前は地震で隆起した海岸(長時間露光)=石川県珠洲市長橋町で

 11日夜から12日未明にかけ、能登半島地震の被災地でもある石川県珠洲市でオーロラを撮影した北陸中日新聞の男性カメラマン(26)はそう語った。30秒間の露光撮影で、海岸の奥に幻想的な光景が浮かび上がったという。オーロラは北海道や東北などの広範囲でも確認された。  オーロラ出現の原因は、太陽の表面で起きる大規模爆発「太陽フレア」だ。国立研究開発法人「情報通信研究機構」(東京)によると、爆発時に放出される電気を帯びたガス(プラズマ)が地球の大気に含まれる酸素や窒素などと衝突し、発光することでオーロラになる。このプラズマが地磁気を大きく乱したため、観測領域が拡大した。

◆GPS異常や通信障害の恐れ

 フレアが引き起こすのはオーロラに限らない。プラズマと同様、放出される強力な電磁波や高エネルギー粒子は、人工衛星や衛星利用測位システム(GPS)の異常、電流の乱れ、通信障害などを招く。管制塔と無線がつながらない航空機が航路変更を迫られたり、送電施設の事故で停電が起きたりする恐れがある。

スマホは通じる?(イメージ写真)

 機構によると、14日までに連続で起きた太陽フレアに伴い、国内の広範囲で通信障害が発生した。大学などの研究機関の観測では、太陽フレアは11年周期で活発になり、次のピークは2025年と試算されるが、機構の津川卓也宇宙環境研究室長は「最盛期には2、3年の幅がある。年次を限定せず、継続した警戒が必要だ」と話す。

◆「国にできるのはアラームを鳴らす程度」

 国は太陽フレアの影響を「文明進化型の災害」と位置付け、総務省は22年に被害想定や対策をまとめた報告書を公表した。「100年に1回またはそれ以下の頻度」で起こる最悪のシナリオでは、電磁波の妨害で通信・放送が2週間ほど断続的に途絶え、携帯電話のサービスが一部停止するほか、広域停電、航空機や船舶の運航見合わせが発生。GPSの精度に数十メートルの誤差が生じ、ドローンの衝突事故が誘発されるという。

フライトは大丈夫?(イメージ写真)

 「現状では、太陽フレアが起きても完全には被害状況を把握できない。国にできるのはアラームを鳴らす程度」と説明するのは名古屋大の池内了名誉教授(宇宙物理学)。電磁波などが地球に届くまでの時間を活用し、想定される影響を「宇宙天気予報」として機構が発信しているが、池内氏は「起きてみないと分からないのが実情。太陽フレアそのものを事前に察知するのも難しい」と語る。

◆復旧に「数年かかるかも」

 同志社大の柴田一成特別客員教授(宇宙天気)も「被害想定の具体的な検討が十分ではなく、企業や大学との共同研究が進まない。成果がすぐに出る研究ではないが、不足する人員や予算を拡充するべきだ」と警告する。「個人レベルなら基本的な対策は地震と同じ。携帯電話が使えない事態を想定するのが大事だ。コロナ禍と同様、経済活動が停滞し、元に戻すのに数年間を要する場合も想定される。平時の今のうちに政治家や企業のトップは理解を深めてほしい」 

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