13日、総理大臣官邸で開かれた「GX=グリーントランスフォーメーション実行会議」には、岸田総理大臣をはじめ、齋藤経済産業大臣や経団連の十倉会長などが出席しました。

この中で、脱炭素とエネルギーの安定供給、それに経済成長を同時に実現させるための新たな国家戦略を取りまとめる方針が確認されました。

この中では、2040年に向けた新たな政府目標を設けたうえで政策の方向性を盛り込むほか、二酸化炭素の排出量に応じて企業などがコストを負担する「排出量取引」が2026年度から本格的に始まるのにあわせて、排出量の多い企業の参加の義務化などを具体的に検討していくとしています。

また、総額20兆円規模で発行するGX経済移行債を効果的に活用するため、再生可能エネルギーや原子力発電といった脱炭素電源が充実した地域に産業を集積させることや、次世代技術の大型プロジェクトへの集中的な支援なども議論していくことにしています。

新たな国家戦略案は、年内の取りまとめを目指す方針です。

岸田首相「脱炭素への現実的なルート示したい」

岸田総理大臣は「産業構造、産業立地、技術革新などといった経済社会全体の大変革と脱炭素への取り組みを一体的に検討し、2040年を見据えたGX国家戦略として統合していく中で、官民が共有する脱炭素への現実的なルートを示したい」と述べました。

経団連 十倉会長「排出量取引 義務化自体は必要」

GX実行会議のあと経団連の十倉会長は記者団の取材に応じ、排出量取引への企業などの参加の義務化が検討されることについて、「実質今参加している企業で、5割、6割の排出量がカバーされていると思うが、100%もれなくということではないので、義務化自体は必要だと思う。もちろん全部が参加できないので、参加できないところは炭素税などのやり方もあるし、大手は排出量取引でやるというのがいちばんいいと思う」と述べ、義務化への理解を示しました。

「排出量取引」参加義務化の方向で検討へ

脱炭素社会の実現という政府の目標達成に向けた手段の1つが、企業などが二酸化炭素の排出量の削減分を売買する「排出量取引」です。

現在は、試験的に始まっていて、700余りの企業や団体が自主的に参加し、国内の二酸化炭素の排出量全体の5割余りを占めています。

参加企業は、二酸化炭素の削減目標の達成状況がわかる今年度から、国の目標を上回って削減できた分を去年10月に開設された「カーボン・クレジット市場」で株式や債券のように売却できるようになります。

一方で、目標に届かなかった場合は、ほかの企業の削減分や、国が排出削減を認定して発行している「Jークレジット」を購入することで不足した分を補えば、目標を達成したとみなされます。

削減できた企業などは脱炭素への取り組みを投資家などにアピールでき、購入する側もみずから削減できない分を取り引きによって補えるため、売り手と買い手双方にとってメリットがあります。

一方、来年度までは参加は企業の自主性に委ねられていますが、13日のGX実行会議では、公平性などの観点から本格的な運用が始まる2026年度からは、排出量の多い企業などを対象に参加を義務化する方向で検討していくことになりました。

参加が義務づけられる年間の排出量の規模をどうするかなど、詳細な制度設計は今後、詰めていくことにしていて、制度の実効性をいかに高めていくかが問われることになります。

新たな国家戦略策定の背景

政府が新たな国家戦略を策定する背景には、日本を取り巻くエネルギー情勢の大きな変化があります。

日本は現状、エネルギーの8割以上を原油や石炭などの化石燃料に依存しているうえ、原油のほとんどを輸入する中東では、イスラエル・パレスチナ情勢が緊迫化し、原油の国際価格にも影響を及ぼしています。

また、輸入に依存しているため、円安の局面では価格の上昇を通じて国民生活に大きな影響を与えるだけに、2050年に温室効果ガスの排出量を実質ゼロにする「カーボンニュートラル」を目指すうえでは、化石燃料に依存しないエネルギーの導入拡大が課題となっています。

さらに、これまでおよそ20年間、減少傾向にあった国内の電力需要がAIの普及拡大に伴い大量の電力を消費する「データセンター」などの整備が進むことで、増加に転じる可能性があります。

そうしたことも再生可能エネルギーや原子力、それに水素やアンモニアなど、脱炭素エネルギーの供給拡大が欠かせない要因となっています。

一方で、こうした投資は長期にわたり、企業にとってリスクが見通しにくいことから、政府は2040年を視野に入れた戦略を示すことで、投資を促したい考えです。

また、政府は、脱炭素社会の実現に向けて総額20兆円規模の新たな国債、GX経済移行債を通じて、民間の投資を後押しすることにしています。

新たな戦略では、政府の支援を効果的にするため、データセンターなど電力を大量に使用する産業を脱炭素エネルギーが充実している地域に集積させたり、水素やアンモニアの供給拠点を輸入拠点の港湾などを中心に整備したりするなど、今後の産業立地の在り方も検討していくとしています。

鄭重声明:本文の著作権は原作者に帰属します。記事の転載は情報の伝達のみを目的としており、投資の助言を構成するものではありません。もし侵害行為があれば、すぐにご連絡ください。修正または削除いたします。ありがとうございます。