全国で民生委員1万3000人が欠員
単身高齢者が増加 民生委員の重要性指摘する声も
一人暮らしの高齢男性「何でも相談でき 気持ちも楽に」
民生委員「一度、なるとずっと、が重荷に」
デジタル機器の導入で担い手不足の解消へ
民生委員は、任期が3年の非常勤の地方公務員で、児童委員もかね、1人暮らしの高齢者の見守りや子育て世帯の支援などに無報酬であたっています。一方、担い手が不足していて、全国の定数およそ24万人に対し、去年3月時点で1万3000人の欠員が生じていて、定数に対する「充足率」は全国で94.5%、東京都で88.5%などとなっています。こうした中、東京・港区などの一部の自治体から、担い手不足解消のため民生委員を選ぶ際の「18歳以上の日本国民で、市区町村に3か月以上住んでいる」という要件の緩和を求める声が上がり、これについて国が検討することになりました。
具体的には、別の自治体から通勤して来る人や近隣に引っ越した人といった地域の実情に詳しい人であれば認めるかどうかなどを、現場の意見を踏まえて検討するということです。民生委員は大正時代に始まった前の制度から100年以上の歴史があり、見直しには法改正が必要になるほか、一部では「地域住民の立場で支え合うという成り立ちや趣旨に合わない」として慎重な意見もあり、制度のあり方そのものが議論になる見通しです。厚生労働省は来月にも専門家や民生委員の団体でつくる検討会で議論を始め、今年度中に結論を出す方針です。
民生委員は民生委員法にもとづいて厚生労働大臣から委嘱される非常勤の特別職の地方公務員で、ボランティアで活動しています。1人暮らしの高齢者や子ども、ひとり親や障害者の世帯などを対象に、見守りや相談支援、熱中症予防・振り込め詐欺への注意の呼びかけのほか、災害時に備えた要援護者の把握などニーズは多岐にわたります。単身の高齢者が増えるなか、地域をよく知る民生委員だからこそ社会的に孤立した状態にある世帯にも支援の手が伸ばせるとして、改めて、役割の重要性を指摘する声も上がっています。
一方、担い手不足に関連し、民生委員を選ぶ際に課題となったことについて国の補助を受けた調査チームが自治体にアンケートを行ったところ、▽地域が高齢化して適任者を探しにくい、▽役割・業務内容が負担だ、▽業務量が多く負担だ、▽時間的余裕のない人が多い、▽高齢者の就労率が高くなり、適任者を探しにくいといった内容が挙げられたということです。都内の自治体によりますと、欠員が出て民生委員がいない地域が広がっていて、別の地域の民生委員がカバーするケースや、大規模なマンションの増加で1人で2000を超える世帯を担当するケースもあるということです。今回の見直しの議論について、各地の民生委員などでつくる全国民生委員児童委員連合会は「担い手不足は全国的な課題で解消に向けた議論自体は歓迎すべきことだが、地域で一緒に生活しているからこそ顔の見える関係ができ、相談しやすい環境が生まれる。その部分は民生委員の皆さんもこれまで大事にしてきた理念で他の地域の人が民生委員になるのは地域住民の立場で支え合うという成り立ちや制度の趣旨にあわず、理解も得られにくいと感じる。拙速に結論を急ぐのではなく、まずは担い手不足の解消に向けた全体的な方策を議論すべきだ」としています。
東京都では62ある市区町村のうち、およそ9割にあたる55の市区町村で民生委員が定数に達していません。このうち葛飾区では、「充足率」は89.7%で、都の平均より高いものの、全国平均を下回っています。
葛飾区の新小岩北地区の担当で地区の民生委員でつくる協議会の副会長を務める一倉惠利子さん(57)は、10年余り前から民生委員を続けていて、今はおよそ500世帯を受け持っています。10日、高齢者が暮らす2世帯を回り、このうち1人暮らしの75歳の男性からは足のリハビリが順調なことや、食事を自分で作って食べられていることなどを聞き取っていました。男性は、「何でも相談でき、気持ちもずいぶん楽になります。分からないことや自分にできないことも教えてもらえてうれしいです」と話していました。
介護する母親と一緒に暮らす63歳の女性からは、車いすを押して外出する際、住んでいるマンションにスロープがないところがあり苦労しているという話を聞き取っていました。女性は、「行政に話しに行く前にワンクッション置いて話せるのでとても心強いです。少し話を聞いてもらえるだけで心がすーっと軽くなります」と話していました。
一倉さんは、聞き取った内容を毎回記録しているほか、深刻な悩みを聞いたり、高齢者の様子に異変を感じたりした場合は、すぐに区役所に連絡をとるということです。活動について一倉さんは、次のように話しました。
一倉惠利子さん「買い物に行くついでにあのおじいちゃんお散歩しているなとか、あのおばあちゃん久しぶりに見かけたなとか、そういう風に見ることもできますし、近所の方も誰々のところに新聞がたまってるんだけどとかすぐ教えて下さったりします。相談を受け、それが解決することによって感謝してもらえることが一番のやりがいです」
また、担い手不足は一倉さんが活動する地区でも起きていて、29人の定数に対し民生委員は2人足りず、葛飾区全体でも19地区のうち、17地区で欠員が出ています。新小岩北地区では、都営団地などを受け持つ民生委員が不在となっていて、近くの民生委員が代わりに引き受けているということです。
一倉惠利子さん「一人一人の負担が大きくなるので、欠員がないに越したことはないと思います。次のなり手がいないことで、一度、民生委員になるとずっと続けなければならず、これも民生委員になるかどうかを決めるうえで重荷になっていると感じます。民生委員はPTAや町会の役員など決まったルートからしか見つからないのが現状で、なり手の探し方をいま一度考え、仲間がもっと楽に仕事ができるよう、変えられるところは変えていきたいです」
担い手不足の解消に向け、石川県野々市市ではデジタル機器を導入することで負担を軽減し、日々の仕事と民生委員の活動の両立を図りやすい仕組みを作っています。野々市市によりますと、市内ではおよそ100人が民生委員として活動していて、4年半ほど前からすべての人にタブレット端末を貸与しています。
導入にあたっては、タブレット端末や連絡用アプリの使い方を大学生から教えてもらう機会を設け、機器の使用になじみのない高齢の民生委員が取り残されないようにしたほか、学生には民生委員の活動を知ってもらったということです。機器を導入した結果、活動の報告や課題を共有する定例会の参加のほか、研修の受講をオンラインでできるようになり、負担が減ったという声が寄せられたということです。現在は、民生委員のおよそ6割が日々の仕事と並行して活動にあたっているということです。
地域福祉に詳しい文京学院大学の中島修教授は、民生委員の現状について次のように話しています。
「孤独や孤立が社会的な課題となるなか、住民の身近な相談相手になり福祉サービスとの橋渡し役になる民生委員の必要性は増しているが、都市部や過疎地域に民生委員を担える人が十分にいないケースが出てきている」
担い手が不足している理由については、これまで仕事をやめてから民生委員になる人が多かったものの、近年は仕事をしている高齢者が増えてきたことなどを挙げています。担い手の確保に向けては、民生委員の定例会を平日の夜や週末に行ったり、オンラインに切り替えたりして働きながら活動に取り組める環境を作ることや、地域福祉に携わる民生委員の活動の魅力を周知することが必要だと指摘しました。また、地域の住民に限るという要件を緩和するよう求める声が上がっていることについて次のように話しました。
文京学院大学 中島修教授「一緒に暮らしている住民がサポートすることは地域福祉の観点からも非常に重要だ。一方で、いまの運用のなかで、特例を認めるという検討もあっていいと思う。そうすることで選び方がもっと多様になる。民生委員に役割が集中しないようにしていくこと、それによって負担を感じる部分が少しでも和らぐようにしていくことが大事だ」
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