みなさんは、現在の日本の教育システムは平等だと思いますか?
「ペーパーテスト一発での受験システムは平等だ」という人もいれば、「いや、地域格差や、経済格差もあるだろう。教育投資ができる家庭の子どもではないと、成績は伸びにくい」と考える人もいるでしょう。
現在の日本の教育格差がどのような状況になっているのか、私は東大生100人にアンケートを実施しました。今回はその結果と、そこから見えてきた現状を、みなさんにもシェアしたいと思います。
東京近郊の出身者が多い
まず、地域格差の現状をみてみましょう。今回実施したアンケートでは、東大生の出身地域は、比較的首都圏が多い傾向が見て取れました。
東京出身者が100人中の27人、神奈川出身者が13人。合計40人が関東近郊の首都圏出身者です。
今回のアンケートの母数自体は多くありませんが、ほかで実施されているアンケートとも矛盾しない結果だったので、おそらく一定の信憑性はあるのではないかと思います。
このアンケート結果でわかった、4割が東京や神奈川など首都圏近郊地域である、という点は見逃せません。
なぜ、東京や神奈川などの首都圏出身者が多いのでしょうか。基本的には、都会で育ったほうが受験には有利になります。なぜなら、優れた塾や予備校などの教育サービスにアクセスしやすくなるからです。
例えば、大手予備校グループである駿台予備校に注目してみると、東京や大阪にはそれぞれ7校の校舎があることがわかります。一方で、関東・東海・関西以外の地域には、ほとんど校舎がありません。札幌、仙台、広島、福岡に、それぞれ1校ずつあるだけです。
私は以前、香川県から東京大学に合格した学生に話を聞く機会がありました。彼との会話で1つ、印象に残っている言葉があります。それは、「予備校の授業を受けるために大阪まで行き、ホテルに泊まって、自宅がある香川まで帰った」という話でした。
私は東京の出身です。東京にはさまざまな予備校があり、渋谷、新宿、池袋まで出れば、誰でも手厚い教育サービスを受けることができます。塾に通う交通費も、東京近郊に住んでいれば、せいぜい片道300~400円程度あれば足ります。私にとって、教育サービスは、「いつもすぐそこにあるもの」でした。
交通費と宿泊費を捻出して塾通い
一方で、香川県に住む彼にとって、教育サービスは「すぐそこにあるもの」ではありません。
大手予備校である駿台の校舎は四国にはなく、河合塾もマナビスという映像授業主体の予備校が県内に1つあるのみ。休みを使って特別講義を受けたいときは、高い交通費と、時には宿泊費を出して、大阪などの都会に行くしかありません。彼にとって、地元から高いレベルの教育サービスにアクセスすることは、大変困難を伴うものでした。
また、沖縄から東大に合格した別の学生に話を聞いたこともありました。彼は、塾に行かずに東大に合格した、大変優秀な学生です。しかし、塾に通わなかった理由は、「通いたかったけれども、近くにまともな塾がないから」でした。
通いたいと望んでも、難関校への合格実績が多数ある塾が近所にないパターンもある。四国ならともかく、沖縄から本州に渡って塾に通うのは、金銭面でも体力面でも、大きな困難を伴います。
地方から東京大学に合格する学生の少なさは、教育投資に対する意識の低さもあるかもしれませんが、塾の少なさなど、その投資先が限られていることも原因としてあるでしょう。
次に、教育投資について調べてみました。われわれが推計したデータによると、東大に受かった子どもたちに対する、教育投資の平均金額は約875万円でした。
詳しい計算式は『東大合格はいくらで買えるか?』の中で書いているので、そちらをご確認いただきたいのですが、この内訳は、「小学校約316万円、中学校約243万円、高校約316万円」となっています。
小学校と高校が同じ額になっていますが、これは中高一貫校に通っていたと語る人が多いからです。
『コスパで考える学歴攻略法』(藤沢数希著)では、2022年の東大入学者3000人のうち、半分を超える1500人以上が、36の名門高校から進学していることが指摘されています。全国5000校の高校のうち、36校が東大合格者の半分を輩出しているわけです。
このうち、中高一貫は32校。東大受験にとって、中学受験が大事なのかがわかると思います。今回のアンケートでも、約7割の東大生は小学生のときから塾に通っており、中学受験をしたと回答しています。
この金額に加えて、生活のためのお金(食費や生活費)、学校の入学金(私立の場合は年間100万円を超える場合もある)や、修学旅行のためのお金(最近は海外に行く学校も多く、50万を超える出費になる場合もある)、大学受験のための受験費用もかかります。
どれぐらいの年収で賄えるのか
さて、この金額はどれくらいの年収であれば賄えるものなのでしょうか?
中学受験をする子どもは、小学校4年生くらいから塾に通い始めるケースが多いようなので、10歳から18歳までの8年間で900万円を投資することになります。1年あたり110万程度、月間で9万~10万円程度を「追加で」教育関連にかけるイメージです。
毎月これだけの金額を生活費から捻出するとなると、大変な努力が必要です。牛肉や果物類を買うのを控えたり、外食に行かないようにしたり。携帯電話は三大キャリアから、格安SIMへの乗り換えをしたり。または賃貸物件に住んでいる人なら住んでいる場所のグレードを下げるというのも選択肢でしょう。現状の家賃から3~5万減らすレベルとなると、部屋の大きさ、都心からの距離、最寄り駅からの距離などを犠牲にしなくてはならないでしょう。かなり大変ですね。
しかし逆を言えば、これらの「不便」に耐えることができれば、9万から10万の教育投資は可能になります。もともとの暮らしぶりからは、大分落ち着いた暮らしとなり、金銭的には確かにきつい生活になりますが、不可能ではないラインだとも考えられます。
ただし、この金額が“平均値である”ことには注意が必要です。小学校から私立に通わせる家庭は、たいていの場合、中学校以降も教育投資に厚く資金を投入する傾向にあります。そのため、2000万~3000万円の教育投資を受けて、東京大学に合格した人もいます。
一方で、まったくお金をかけずに東京大学に合格する人もいます。例えば、小学校から中学校、高校とすべて公立校を選択し、塾にも通わないで東京大学に合格するような人もいるのです。
義務教育である小学校と中学校は学費が無料なので、制服代や給食費などの関連費がかかると考えると、合計で100万円ほど。高校からは学費がかかりますが、都立高校の場合月々9900円、年額でも11万8800円です。
上記のような人たちが東大合格までにかかった費用は、単純に計算しても150万円ほど。150万円と聞くと、金額が大きく聞こえますが、実際にはこの金額を小学校入学からの12年間で割るため、多少の変動はあっても、1年あたり12.5万円。1カ月に1万円ずつ教育投資をしていけば、足りる計算になります。
週3バイト・浪人して東大合格
『東大合格はいくらで買えるか? 』(星海社新書)書影をクリックするとアマゾンのサイトにジャンプしますちなみに私は、年収300万円代の家庭出身で、週3回バイトをしながら浪人して東大に合格しました。1人っ子ですが、もし兄弟がいたら、東大には合格できていなかったかもしれません。
いかがでしょうか?教育格差は、みなさんが考えているよりも深刻でしたか。それともみなさんが思っているよりも平等でしたか。
私の考えを述べさせていただくと、教育格差があるなかでも、一般入試は有用な試験だと感じます。
昨今、推薦入試の割合が大きく増えていますが、推薦入試は経験を重視する入試形態です。海外では経験をお金で買い、教育格差が広がっている事例もあるようです。不平等な部分もある一般入試ではありますが、それでも僕のように、週3回バイトをしながら浪人して東大に合格する人間が出てくる入試形態は、平等であると言えるのではないでしょうか。
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