米国における物流に対する考え方
1900年代の米国のマーケティング思想のなかで初めて「物流(当時、物的流通。Physical Distribution)」という言葉がでてきたといわれています。その後、1910年代に、企業経営活動のひとつである流通活動の構成要素として物的流通が重要だといわれ始めました。
物的流通とは、いままでは、販売だけが重視されていましたが、販売だけでなく、物の保管や移動も考えないといけないという考え方です。
かつて、日本でも経営の神様として尊敬され、有名なピーター・ドラッカーが、物流を「経済の暗黒大陸」「ビジネスでの未開拓領域」「最も軽視され最も約束されるビジネス領域」「企業がいまなお効率的な活用法を考えるエリア」だと名付けたのは有名です。
ドラッカーは1962年に雑誌『フォーチュン』で書いた記事「The economy’s dark continent」で、米国の消費者が払う1ドルのうち半分の50セントは物流コストだとしています。
しかし、当時はまだ、物流は製品を移動するだけの機能としてしか考えられておらず、物流コストを正確に把握することは難しいとも指摘しています。
また、ドラッカーの記事以降、ビジネスロジスティクスやディストリビューション(流通)について研究されるようになりました。あるロジスティクス研究の教授は、ドラッカーが、この研究領域を作ったといっているくらいです。
戦争の勝敗をも左右するロジスティクス
第二次世界大戦は、物流(兵站)の役割の重要性を世の中に広めました。それまでの戦争は、戦場での兵力や装備(兵器)が重視されていましたが、第二次世界大戦では、武器弾薬だけでなく、食料品や趣味嗜好品などを、戦場までいかに届けるかが、勝敗を左右しました。
日本軍は、この兵站を軽視したために、多くの命を失い、戦争に負けるにまで至ったのです。また、海外からの物資を運ぶ運搬船の警護を怠ったため、運搬船がほぼ全滅し、日本国内では、物資不足に喘いだという歴史の事実もあります。
中国の歴史に、「泣いて馬謖を斬る」という有名な言葉があります。これは、有名な参謀である諸葛亮(孔明)が、兵站(ロジスティクス)を無視した戦いを仕掛けた、かわいい部下の馬謖を斬ったという話です。
馬謖は、「あの山には決して登るな」という諸葛亮の指示を無視し、その山に登り、陣を張り、敵に兵站を絶たれて、苦境に立たされました。そのような指揮をした馬謖を、諸葛亮が斬ったのです。
兵站が切られると、食料品が途絶え、兵隊の士気も下がります。そして、大敗を喫してしまうのです。諸葛亮は、兵站(ロジスティクス)を重視した軍師でした。
日本において物流の概念が広まったのは、1960年半ばといわれています。
江戸時代より水運で物を輸送していた日本は、1950年代頃までは陸路は未発達でした。道路も未舗装でガタガタだったため、物を運ぶ際、日数もかかり、物の破損も多く起こっていました。
1950年代に、日本政府は、アメリカに視察団を送り、インフラ整備、輸送・保管機能の重要性を学び、いまでいう物流インフラの拡充の必要性に気づきました。
1970年くらいから、会社名を「〇〇物流」とする会社が増えてきたのと一致します。私の父親が光輝物流を創業したのは、1973年でした。
高度経済成長期には、大量生産で、大ロットの物流が主流で、菅原文太さん主演の映画『トラック野郎』で見られるように、寝る間を惜しんで、トラックを運転するトラックドライバーは、高年収で、かっこいいといわれていました。
広まる「サプライチェーン」という考え方
1980年代後半の日本は量から質の時代に転換し、現代につながる多品種小ロット生産の時代になりました。その結果、多頻度小口配送になり、同時に、売上全体に占める物流費比率が上がり、企業経営を圧迫し始めました。
この時期に、企業内物流は、「個別最適」でなく「全体最適」が必要だといわれ始めました。
その後、1990年代には、世界各国との貿易も活発になり、全体コストの削減がより求められるようになりました。
その結果、原材料の供給元のサプライヤーからメーカー、流通、販売業者までの自社を含む全過程を一気通貫で最も効率よく管理する「サプライチェーンマネジメント(SCM)」という概念および経営手法が大手メーカーを中心に広がり、従来の月次の計画よりも短い週次の計画を立案し、調達・生産・販売を、スムーズにムダなく行う努力をしてきました。
このように、1960年代にドラッカーの指摘したビジネスの未開拓領域である物流にこそ経営資源を活用するチャンスが眠っていて、企業戦略に欠かせないものであることが、証明されてきています。
「暗黒大陸」と呼ばれた物流は、今後、ますます企業成長の鍵として新たな可能性を秘めています。日本や世界の優良企業は、すでに物流を戦略的にとらえ、機能させています。
物流は「コストセンター」ではない
現在、日本や世界の優良企業は、物流を「プロフィットセンター」としてとらえています。「プロフィットセンター」とは、利益とコストを集計し、利益を生み出す部門をいいます。
それに対となるのが「コストセンター」であり、利益は生み出さず、コストが集計される部門です。つまり、優良企業は、物流をコストではなく、利益を追求する部門とみなし、競争優位を築いています。
このように話すと、当然だと考える人もいますが、物流をコストセンターとしてとらえている、あるいはプロフィットセンターに移行したいがどうすればよいかわからないと悩む人も多く、よく相談を受けます。
物流を取り巻く環境は急激に変化しています。コロナ禍によるEC物流の拡大、日本における人口減少、人手不足、自然災害、そして多様化する消費者ニーズによる物流サービスの高度化など、その要因は枚挙にいとまがありません。
物流の重要性は増し、企業の経営活動における物流の位置付けも従来の「コストセンター」だけでなく、同時に「プロフィットセンター」としての位置付けも確立しないといけない時代になりました。
では、プロフィットセンターのポジションを確立するためには、どうすればよいのでしょうか?
たとえば、アマゾンでは、当日配送サービスを提供しており、確実にエンドユーザーに届けるための物流構築を完成させ、他社との差別化をしています。ユーザーは欲しい商品がすぐに手に入るためアマゾンをリピート利用します。
これは1回の売上ではなく、LTV(顧客生涯価値ある顧客が自社と取引を開始してから終了するまでの期間にどれだけの利益をもたらしてくれるかを表す指標)やリピート率、顧客満足度を重視し企業の長期利益を考えたもので、まさにプロフィットセンターといえるでしょう。
(出所:『顧客をつかむ戦略物流 なぜあの企業が選ばれ、利益を上げているのか?』)※外部配信先では図表を全部閲覧できない場合があります。その際は東洋経済オンライン内でお読みください
物流から組み立てるセブン-イレブンの出店攻勢
セブン-イレブンは、出店攻勢をかける前に、物流拠点や弁当工場などの供給施設を作ります。
『顧客をつかむ戦略物流 なぜあの企業が選ばれ、利益を上げているのか?』(日本実業出版社)。書影をクリックするとAmazonのサイトにジャンプします通常であれば、コストのかかる施設は、出店が一定範囲で達成されたあとに開設しますが、その反対です。スムーズで欠品のない店作りを優先しているのです。
こうした展開は、物流部門だけでは実現できません。企業戦略に物流を取り入れ、他部署との連携など全体最適を考えるからこそ実現できることです。
物流を、単体の部署や機能の部分最適だけで考える時代は終わりを迎えています。他部門とも密につながり、さらには、ビジネスモデルを成り立たせることの重要性が高まっているのです。
品質や顧客満足度の向上、多品種少量の高速回転での製造・消費など、物流の役割が多岐にわたるいま、生産性向上を重視するコストセンターの強化に加えて、会社の競争力を高めるプロフィットセンター化も同時に達成しないといけません。
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