有終の美――。
そんな形容がふさわしい貫禄の演奏を、26日にさいたま市のソニックシティで開幕する全日本合唱コンクール全国大会で聞けそうだ。
伝統校が学校統合に
東北代表の岩手県立不来方(こずかた)高校は17大会連続30回目の出場となる。そのうち金賞に輝いたのは23大会で、15大会継続中だ。文部科学大臣賞など全国1位に相当する特別賞も8度受賞している。
来春に学校統合があり「不来方」の名前での出場は今大会が最後になる。
「プレッシャーもあるだろうし、集中力に欠けるところがあった」
指導する佐藤由梨教諭は9月にあった東北支部大会の演奏後、本調子ではない部員たちを気遣った。それでも全国大会で演奏する東北代表となった。
10月初めに訪ねると、不来方は自由曲の「今こそ主よ、僕を去らせたまわん」(作曲ペルト)の練習にも力を入れていた。
雲の間から光が差し込みだすような場面を表現する和音の構成、場面の変化、アクセントなど、細かいところを最終調整していた。
部長の松草奏重さん(3年)は、母と四つ上の姉が不来方高校音楽部OGだ。幼いころから母や姉と一緒に不来方の音楽を耳にしてきた。
「背筋がぞわぞわ。心の底まで届くような合唱。自分も部員になって、音楽に思いをしっかり込めて聞いてもらいたかった」と入部したきっかけを話した。
母と姉の思いも感じながら、不来方最後のコンクールでどう奏でるのか。
心を魅了する合唱の力 みんなで学ぶ
松草さんは「最後でも賞を狙う演奏ではなく、これまでの部活で学んだことをしっかり曲に込めた演奏をしたい」と練習に集中していた。
音楽部OBで岩手県立高田高校の音楽教諭、山本修平さんは高校時代に「合唱は自己満足じゃだめ。聞いてくれる人が喜び、心を動かすもの」と教わったという。
山本さんが入学したのは東日本大震災直後の2011年春。入学式で聞いた音楽部のアカペラ校歌の美しさに驚き、さらに被災地支援活動をしている様子も知って入部した。
当時は土日になると、沿岸の被災地へバスで向かい、先輩たちと慰問合唱を続けた。人の心を動かす合唱の力のようなものを感じ、音楽部で学ぶのが楽しかったという。
長年、音楽部を指導してきたのは村松玲子さん。現在は県合唱連盟理事長を務める。村松さんについて、松草さんと山本さんは「運動部のノリと違う厳しさ。音楽への取り組み方はハンパない」「先生が音楽を楽しみ、生徒と一つになってキラキラした感じ」と慕う。
村松さんは「新しい曲に生徒たちと取り組むたびに悩み、自分は勉強不足だと感じていた」と語った。
全国大会での数々の高評価は、生徒と一緒に音楽を追求し続けた時間そのものだろう。
「♪共に歩みつつ夢の途中――」
不来方が生まれ変わる新しい学校の校歌の一節だ。作曲者は山本さん。「上へ行く音程を多用して、ここで学ぶ生徒たちが未来へ向かう様子を描きました」という。(上田雅文)
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