コロナ禍で激減した「飲みニケーション」がビジネスの現場で復活しているが、若者たちには不満があるようだ(写真:Fast&Slow/PIXTA)「優しく接していたら、成長できないと不安を持たれる」
「成長を願って厳しくしたら、パワハラと言われる」ゆるくてもダメ、ブラックはもちろんダメな時代には、どのようなマネジメントが必要なのか。このたび、経営コンサルタントとして200社以上の経営者・マネジャーを支援した実績を持つ横山信弘氏が、部下を成長させつつ、良好な関係を保つ「ちょうどよいマネジメント」を解説した『若者に辞められると困るので、強く言えません:マネジャーの心の負担を減らす11のルール』を出版した。本記事では、若者が「飲みニケーション」を嫌う3つの理由と、今後マネジャーが意識するべき点について、書籍の内容に沿って解説する。

「飲みニケーション」を嫌う3つの理由

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新型コロナウイルスの影響で激減した「飲みニケーション」。このコミュニケーションのやり方がビジネスの現場において復活している。これを読んでいる方の中にも、同僚やお客様と飲みに行く機会を増やしている人も多いだろう。

そのため、まず大前提としてお伝えしたいのは、飲み会がまた増えているということは、社会の中で「飲みニケーション」が今なおその価値を認められているということである。しかし、それは「飲みニケーション」の全肯定を意味しない。経営コンサルタントとして現場で接する若者たちから、不満の声もよく耳にしている。

その理由を大別すると3つだ。

(1)コスパ/タイパが悪い
(2)エンゲージメントが落ちる
(3)プライベートと仕事を分けたい

まず「(1)コスパ/タイパが悪い」について解説する。

楽しむためならともかく、一緒に働いている人と「親交を深める/関係を築く」のに「飲みニケーション」はコスパ/タイパが悪すぎるという意見だ。より具体的な意見として、次のようなものがあった。

「2時間の飲み会よりも、15分の打ち合わせとか、対話を8回やったほうが圧倒的に効果が高い」

「単純接触効果って言うじゃないですか。心理学の本に書いてあります」

つまり、飲み会の目的が関係構築だったり、職場の雰囲気をよくすることであれば、数千円・数時間を使って飲み会をするよりも「他にもっと効果的な方法がある」と考えているのである。

お酒で認知能力、状況判断力が落ちたらどうなるか?

次に「(2)エンゲージメントが落ちる」についてだ。個人的な意見だが、とても気持ちがわかる。

エンゲージメントとは、組織に対する愛着心のことを意味する。昭和の時代であれば、重視されていたのは忠誠心(ロイヤルティー)であった。だから上司から「飲みに行くぞ」と言われたら、「わかりました」「ありがとうございます」と二つ返事で応じるのが、忠誠心の高さを示す証しだった。

しかし、今は時代が異なる。近年、着実に飲めない若者は増えているし、健康意識の高まりから、飲めるがあえて飲まない・少量しか飲まない「ソバーキュリアス」を好む人も増えている。何を隠そう、私もその1人だ。

酔いたくないというだけでなく、酔っ払っている人を見るのも好きではないという人も多い。シラフとのギャップに嫌悪感を覚えるからだ。お酒を飲むことで、認知能力、状況判断力などは確実に落ちる。お酒に強く、ふだんと変わらない人ならともかく、バリバリ仕事をする先輩、頼りになる上司がお酒の席で見せる別の顔に「冷める」という若者も多い。なぜなら、お酒を飲まない(飲めるが飲みたくない)という若者は、お酒によって認知能力、状況判断力が落ちてないゆえに、冷静に先輩や上司の言動を観察できてしまうからだ。

だから「飲み会」に参加すればするほど、職場に対するエンゲージメントが落ちてしまうのである。

最後に「(3)プライベートと仕事を分けたい」について。

これが一番ピンとくる人もいるかもしれない。要するに、飲み会は仕事の延長と感じるため、参加が任意であれば、自分のプライベートに時間を使いたいという考え方だ。

これは何も「家に帰ってだらだらYouTubeやNetflixを見たい」という非生産的なものだけではなく、「スキルアップのために英語の勉強をしたい」とか「家庭の時間を大切にしたい」などのもっともな理由がある若者もいた。そうした時間を削ってまで、飲み会に参加したくはないということだろう。

上司がコミュニケーションで意識すべき2つのポイント

コミュニケーションを飲み会ばかりにたよっていると、先述の若者たちからは、好ましく思われない。もちろん、これは若者に限らず「飲みニケーション」が苦手な人も増えている。かくいう私(54歳)もそうだ。

とはいえ、ランチョンテクニックは、ビジネスシーンにおいて相変わらず効果はある。だから、お酒さえ抜けば、うまく活用できる(※ランチョンテクニックとは、心理学者のグレゴリー・ラズランが研究し有名となった技。飲食をともにすることで相手と交渉したり、関係を築く心理テクニック)。

では、世の中の上司は、どうすればいいのか。次の2つを意識していくべきだろう。

(1)お酒は好きな人とだけ飲む(お酒を楽しむことが目的のケース)
(2)お酒抜きで食事やお茶をしながら会話する(親交を深めることが目的のケース)

原理原則は「相手の立場に立って考える」である。お酒が入れば誰でも仲良し――という画一的な発想は、もう通じない。だから「飲み会」は、行きたい人が行けばいいのだ。部下と関係を作りたい、ざっくばらんに話がしたいというのなら、お酒抜きで「場」を作ればいい。

前述したとおり「ランチョンテクニック」は効果がある。殺風景な会議室で話すより、美味しい食事やコーヒーを飲みながら会話する機会は積極的に作っていこう。長い時間も必要はない。30分でかまわないのだ。「飲みニケーション」は確かに役立つが、相手に合わせて「飲まずニケーション」と使い分けていくのが、今の時代には必要だろう。

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