(漫画:筆者作成)自己啓発本に書かれていることが「万人に効く薬」だと考えていませんか。著書に『多分そいつ、今ごろパフェとか食ってるよ。』などがある漫画家・イラストレーター・グラフィックデザイナーのJamさんが、その危うさについて自身の経験も踏まえて解説します。

雑学や名言・格言が多くて面白いが…

(漫画:筆者作成)

「本棚が自己啓発本だらけ」「ついつい何冊も買い続けてしまう」

そうした人たちは、なぜ自己啓発本を何冊も買い続けてしまうのでしょうか。その理由を考えてみました。

まず、作家のファンである場合や、単にそのジャンルが好きだという人もいると思います。私もマイブームで何冊も読んでいた時期があります。俗にいう自己啓発本とは、「人生の成功や、能力の向上のための手段を知り、自己啓発を目的とする内容の本」なので、一冊目を読むまではハードルが高く感じたのですが、いざ読んでみたら、会話のつなぎになるような雑学や、名言や格言がたくさん紹介されていて、面白いと思いました。

私も自己啓発本のジャンルに該当する本を何冊か書いていますが、自著では夏目漱石や寺山修司の名言を紹介したり、ちょっとした雑学を交えたりして書くことがあります。今まで興味がなかったジャンルや知らなかった言葉を知ることで、次に読む本を選ぶ参考にもなります。

本来の自己啓発本の使い方とは異なるかもしれませんが、漫画や小説を読むのと同じように、娯楽の1つとして自己啓発のジャンルの本をたくさん読む人もいると思いました。

もう1つが、本来の目的である「自己啓発本で能力を向上したり、人生を変えたりしたい人」です。「なぜそんなに何冊も必要なの?」と不思議がられるのは、おそらくこちらの人ではないでしょうか。

自己啓発本の内容が人生に役に立つ人というのは、本を「師」ではなく「道具」としても使える人だと思います。人生は個々により能力も状況も背景も違いますから、どんなにすばらしい「師」の生き方を参考にしても、それが自分にあっているとは限りません。また、道具はあれば便利ですが、地道な努力や試行錯誤なしでは成功はありえません。

自己啓発本が人生の役に立つ人は、本を「道具」として使い、努力や行動をするから、目標に着実に近づいていけるし、目標を達成してしまえば、何冊も似たような本を買って読む必要がないのです。

即効性は「エナジードリンク」のようなもの

逆に、読んだだけで「経験した」つもりになってしまう人や、自己啓発本に書かれていることが「万人に効く薬」だと考えている人は、何冊買っても物足りなくて、買い続けてしまうのだと思います。

特に、一度でも「即効性」を感じてしまうと危ういです。例えるなら、読んですぐ「モチベーションが上がる」状態です。新しい知識に触れた瞬間は、誰でも未知の感覚を体験します。そういった意識の変化はエナジードリンクのようなものです。

自己啓発本に限らず、初めて見るジャンルの映画や、初めて食べる料理などでも同じことが起こります。どの場合でも大事なのは、「すべての人が自分と同じように感じるわけではない」と、妄信的にならないことです。甘党イチオシのスイーツを食べても特別においしいと感じない人もいるように、「必ず誰にでも同じ結果が出る方法」はないのです。

自己啓発本に書いてある方法というのは、誰かが地道に努力や試行錯誤をして、たどり着いた「方法の1つ」です。本との出合いで人生が変わった人は、その出合いの後で実際に行動して、努力や行動をした人です。本を1冊読んだだけで直後に人生観が変わって、今までとは別の自分になったり、努力もなしに能力が上がったりするなら、それは魔法です。そういった効果を現実に求めてしまうのは、神頼みに近く、危ういと思うのです。

自己啓発本というだけでついつい買ってしまう人は、少し立ち止まって、「瞬間」ではなく、その本が「継続」して自分に与えた影響を考えてみてください。それを読んで何を感じたか、その後で何をしたか、それがどんな「結果」につながったか。人生のバイブルとなるような本との出合いは、大切な人との出会いにも似て、すばらしいものです。

名前も覚えていないような知り合いが100人いるのと、本当に心を開ける親友が1人いるのと、どちらが人生にとって有意義でしょうか? 冷静に考えてみてください。

聞き上手な人の「本当のすごさ」

(漫画:筆者作成)

世の中には「とても聞き上手な人」と「自分のことばかりしゃべってしまう人」がいます。聞き上手な人に対して自分のことばかりしゃべってしまう人は、自己主張が激しいとか、自分が話題の中心にいたいとか、性格が原因とされることが多いのですが、私はそればかりではないと思うんです。

「聞き上手な人」と「自分のことばかりしゃべってしまう人」の違いとは、どこにあるのでしょうか。

「聞き上手」の人は、基本的に相手の言葉を尊重する人が多いです。多少ネガティブな相談をしても、やんわりと聞き流してくれたり、肯定的に受け入れてくれたり、聞くときも笑顔や真摯な姿勢であったりと、話しやすい雰囲気をつくるのがうまくて、相談する人は安心して心の内を話すことができます。

だから、また相談したいと思うし、人望や信頼を得ることができます。

それに対して、「自分のことばかりしゃべってしまう人」は、自分への同調を求める傾向があります。ポジティブな話題であっても、自分と違う意見には耳を貸さなかったり、どうにかして会話を自分の思い通りに進めようとしたり……。

そういった雰囲気は伝わってくるので、相談する人は警戒してしまい、大事なことは相談されなかったり、信頼できないと思われたりすることが多いです。

こうして比べると、原因は性格的なものだけのように感じますが、それぞれの決定的な差は、コミュニケーション能力の差だと思います。

聞き上手な人は「適度な相づち」がうまい

例えば、これは「聞き上手な人」の間違った認識なのですが、相手の話を聞くだけが聞き上手ではないんです。一方的に相手にばかりしゃべらせていたら、相手は自分だけがずっと話しているように感じるし、話を聞いてもらえていないように感じて、不安になってしまいます。また、積極的に「どうしたの?」と聞いてくる人も聞き上手ではありません。質問が増えれば、相手は追い詰められたような気持ちになります。

本当に聞き上手な人とは、相談をしやすい雰囲気づくりがうまくて、相手の話す内容を理解したうえで、適度な相づちを打つことができる人です。受け身のようでいて、とてもコミュニケーション能力が高い人なのです。

つまり、「自分ばかりしゃべってしまう人」は、しゃべることはできるけれど、話の内容を理解することや、会話のキャッチボールが苦手なのです。相手の話を理解できないと、会話がずれてしまう、あるいは話せるのが自分のことばかりになってしまいます。そうすると、相手の意見を尊重できないように思われます。

また、相づちを打つタイミングがわからないから、変なところで会話を中断してしまい、相手は話を聞いてもらえなかったように感じます。そういったことがたくさん重なって、「あの人は自分の話ばかりする」と、誤解されてしまうのです。

わがままだとか、自尊心が高いのが原因だと言われたら、悲しくなるし、頑張っても直せないことのように思えますが、人とのコミュニケーションが苦手なだけなら、少しずつ直していける気がしませんか? 相手の話が理解できないときは、素直に伝えてみてはどうでしょう?

会話のキャッチボールができないと焦ってしまうけれど、「何でもいいから話さねば……」と無理に話そうとせず、相手が話し終わるまで真摯な姿勢で聞く。それだけでも、好感度はだいぶ上がると思います。

聞き上手な人の特徴を一度に全部真似するのは難しいけれど、少しずつでも取り入れていけば、今よりも「聞き上手な人」になれると思います。

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