秋田県に日本初のシニアeスポーツチームがあるのをご存知だろうか? その名を「マタギスナイパーズ」という。
平均年齢67歳のeスポーツチーム「マタギスナイパーズ」
2021年9月に発足し、メンバーは現在11名、平均年齢は67歳。
eスポーツと聞くと20~30代が中心というイメージが強い中、そのプレー動画が拡散されると「うまい」とたちまち話題となった。
本記事は『エンジニアtype』(運営:キャリアデザインセンター)からの提供記事です。元記事はこちら知識やスキルの習得とたゆまぬ訓練の継続が必要になるeスポーツ。
なぜマタギスナイパーズのメンバーは、年齢に関わらず学び、自己研鑽を続けることができるのか。今回はメンバーの3人に話を聞いた。
(写真:エンジニアtype編集部)Mark25(Mark nijugo)1955年11月24日生まれ。金融系機関にて安全管理の仕事に従事した後、65歳で定年退職。もともとパソコンに触れることが好きだったこともあり、妻の勧めでマタギスナイパーズに加入(写真:エンジニアtype編集部)ひろBoo(Hirobu)1959年4月15日生まれ。金融関連機関で支店長を務めた後、64歳で退職。退職後の過ごし方を検討した結果、マタギスナイパーズに加入(写真:エンジニアtype編集部)NAGI(Nagi)1959年10月2日生まれ。結婚を機に仕事を退職し、以降は主婦業に専念。育児が落ち着いてからはパートや派遣社員として勤務。60歳を目前に秋田に移住し、マタギスナイパーズに加入未経験からeスポーツの世界へ
ーーはじめに、なぜマタギスナイパーズへの参加を決めたのか教えてください。
mark25:定年退職して時間ができたので、何か夢中になれることがしたかったんです。
私は65歳で定年を迎えるまでは、安全管理の仕事をしていました。退職後は特にやることもなくて、家でぼーっとしていたら妻に「何かしないとどんどん年をとるわよ」と言われて。
その時に、シニアeスポーツチームがメンバー募集をしていると教えてもらったんです。
もともとパソコンをいじるのは好きだったので、好きなことに一生懸命取り組んでみたいと思い、応募しました。
ひろBoo:私もmark25さんと同じく、退職がきっかけです。もともと金融機関の支店に勤めていたんですが、64歳で退職し、1カ月間ただ寝るだけの生活をしていました。
そうしたら体力がガクッと落ちてしまったんですよ。
歩くだけでも疲れるようになってきたので「何かしよう」と思い、以前見かけて気になっていたマタギスナイパーズのメンバーに応募しました。
「日本で最初のシニアeスポーツチームを作る」というチャレンジ精神がかっこいいな、と思ったんです。
NAGI:私は59歳の時に秋田に移住しまして、余生は趣味に生きていきたいと思っていたところ、夫にマタギスナイパーズの存在を教えてもらいました。62歳の時です。
もともとゲームをしながら夫の帰りを待つぐらいゲームが大好きだったので、思い切って応募してみました。
ーーNAGIさんはもともとゲームがお好きだったんですね。皆さん、ゲームの経験はどのぐらいあったのですか?
NAGI:私はファミコンのスーパマリオブラザーズに始まり、スーファミ、プレステ、DS……大体のゲーム機はいじりましたね。やったゲームの種類もさまざまで、「いろいろ」としか答えようがないです(笑)
ひろBoo:私は大学生のときにインベーダーゲームで遊んだのが始まりです。全然強くなくて、友達にもボロ負けしていたくらい。
社会人になってからは、『ドラゴンクエストシリーズ』や『ファイナルファンタジーシリーズ』などのRPGにハマって、夜中までやっていました。
mark25:私は子どもと一緒にゲームで遊んだことは少しありましたが、やり込んだ経験はなかったんです。ましてや、パソコンで遊ぶゲームなんて初めてでした。
NAGI:私も、キーボードを使って操作するゲームの経験はマタギスナイパーズに入るまでありませんでしたよ。
mark25:メンバーのほとんど全員が、何も分からない状態でしたよね。
仲間と教え合い壁を乗り越えた
ーーマタギスナイパーズがプレーしている『VALORANT』のようなFPS*をプレイするためには知識やスキルが必要ですよね。どうやって学んでいったのですか?
ひろBoo:1年近くトレーニングセンターに通って、平日は毎日監督の授業を受けました。
プレイ中に「今ここにいるよ」「あそこに誰がいるよ」と仲間に伝えられるように、マップやエージェントの名前を覚えなければいけないのですが、これが本当に大変で……。
最初の1年間は、学んだことを書き留めたノートを喫茶店で見直してからトレーニングセンターに来ていました。
*FPS:ファーストパーソン・シューティングの略。自身が操作するキャラクターの視点でプレーする、一人称視点のシューティングゲームmark25:私もノートは取りましたが、それだけでは覚えられなかったので仲間と一緒に実践しながら慣れていきました。
『VALORANT』には8個のマップと25人のエージェントがあるのでなかなか大変で、正直、今も完璧に覚えているわけではありません。ですが、仲間と教え合うことで少しずつ覚えていきました。
NAGI:私は家に1人でいる時間が長いので、プレイ動画を1日中流しっぱなしにして、気になったところを後で見返しながら勉強していました。
これまでプレーしてきたゲームには大抵の場合公式の攻略本があったので、それを読みながら進めてきたので、今回もそうしたかったのですが、コーチに聞いたら「攻略本はないですよ」って(笑)
今であれば分かることなのですが、こういったゲームは毎回状況が変わるから決まった攻略法がないんですね。
それを理解するのに少し時間がかかりましたが、決まりきったことが起こらないからこそ新鮮で面白いという側面もある。おかげで、勝てた時の充実感や達成感も大きいなと感じています。
「速さ」はダメでも「頭」では勝てる
ーー皆さんにとってeスポーツは初めての挑戦ですよね。だからこそうまくいかないこともあったと思います。どうやってモチベーションを保ってきましたか?
NAGI:煮詰まったときは一旦ゲームから離れることにしています。飲み歩いたり観光に行ったり、楽しいことをすると頭がリフレッシュされますからね。
それに結局ゲームが好きなので、少し離れるとまたやりたくなる。その繰り返しです。
ひろBoo:私もモチベーションが下がりそうになったら、一度距離を置きます。1~2日寝て、その間に「どうやったらできるかな?」と頭を整理するんです。
あとは仲間がたくさんいるので、躓いていることを相談してみたり。話すと「みんな同じことで悩んでるんだな」と思えて気が楽になります。
mark25:私はお二人とは逆で、1回離れると戻ってくるのが大変になってしまうタイプで。
なので、行き詰ったときはメインでやっているゲームからは離れつつも、ゲームそのものからは離れないようにしています。
ゲームの中で撃たれて死ぬ夢を見ることもありますが(笑)、それも壁を乗り越える過程の1つ。好きなことなので、壁にぶつかるのも楽しいんですよね。
ーー最初のうちは対戦してもなかなか勝てないですよね。落ち込んでしまうことはありませんか?
NAGI:やっぱり若い人とプレイしたときに、力の差を感じることは多いです。どうしても指先の動きは若い人に比べると鈍いので、速さでは劣る部分があると思います。
でもキャラクターの立ち回りなど、頭で補える部分もあるので、諦めたくないんです。
そもそもゲームの世界では、みんなキャラクターの1人にすぎません。実体ではない状態で戦っているのですから、年齢は全く気にならないですね。
限りある人生「好きなことをしたい」
ーー年齢にかかわらず、新しい挑戦をしたり常にスキルを磨き続けたりすることは容易ではないものです。みなさんのモチベーションの源泉を教えてください。
mark25:どこに価値を置くかでモチベーションの保ち方も変わってきますよね。お金を稼ぎたいのか、時間をコントロールしたいのか。
私の場合は「好きなことをしたい」というのが最大の目標で、それにかなっているから、多少辛いことがあっても続けられています。
私は仕事を好き嫌いで選ぶことはできなかったことから、残りの時間は好きなことをやって過ごしたいという気持ちが強いんです。
ひろBoo:シニアになると、どうしても人生の残りは少なくなりますからね。「何をやって過ごしても限りがある」のであれば、楽しいことをやって終わった方が面白いかなと。
挫けながらも立ち上がり続けられるのは、格好つけて言うと「他人には見えない歩みでも、やっているということが自分の中で誇りとなっているから」だと思います。
NAGI:日本ではマタギスナイパーズが初めてのシニアeスポーツチームですが、スウェーデンには私たちよりも年齢層が高い「シルバースナイパーズ」というチームがあるそうなんです。
自分より年上の方が同じ世界にいることは、私にとって大きなモチベーションになっています。
もし将来マスターズの世界大会が開かれることがあったら、絶対にエントリーしたいので、その時を目指して練習し続けたいですね。
規則正しい生活を心がけ健康的に
ーー皆さんやる気に満ち溢れていて素晴らしいです。マタギスナイパーズに入ってから、生活はどのように変わりましたか?
NAGI:メディアに取り上げていただくことによって「注目されるからには実力が伴わないといけない」という気持ちが芽生えてきました。
毎日プレイ時間をできるだけ確保するために、家事を効率的に済ませるようになりましたね。今は1日8時間の練習時間を確保できています。
mark25:私も生活が規則正しくなりました。午前中は1時間の自主練、午後は4時間の授業、夜は3時間の配信。これが今のルーティーンです。
時間割が固まっているのはいいですね。「なんだか会社にいた頃とあまり変わらないな」と思う時もありますが(笑)
ひろBoo:私も朝起きて、散歩に行って、自主練して、トレセンで授業に出て、夜8時ごろから仲間とオンラインで練習して……と生活スタイルが整って健康的になりました。
オンラインでの練習が終わるのは夜の10時過ぎなので、その頃にはもう目がショボショボで、疲れているのでぐっすり眠れるのもいいですね。
刺激を受けてよみがえった反骨精神
ーー熱中することができたからこそ、日々の生活にハリが出たり健康的になったりと良い変化があったのですね。
ひろBoo:あと、精神面でも刺激を受けることが多いです。私たちのチームの監督はすごく若くて、初めてお会いしたときは20代でした。
いろいろとありがたい指摘をしてくださるんですけど、ときどきイラッとすることがあって(笑)。でも、それがいいんですよ。
会社で働いていると、年齢が上がるにつれて誰からも厳しいことを言われなくなっていきますよね。だから、忘れていた反骨精神や成長意欲を思い出させてもらえるのは本当にありがたい。
そのおかげで、刺激的で楽しい毎日を過ごせています。
ーーぜひこれからもその反骨精神でさらなる高みを目指してほしいです!
mark25:そのためには、まずはゲーム内のランクを上げなきゃならないんですよ。まだ下から数えた方が早いからね(笑)
ひろBoo:本当にその通り。ランクを上げるのは大変だし、維持するのも大変ですよね。
mark25:とにかく上に上がるためには、練習を続けることが大切なので、大それたことは考えません。練習して、勝つ。ただそれだけです!
(写真:エンジニアtype編集部)【チーム情報】マタギスナイパーズ2019年よりeスポーツに本格参入した日本初のシニアチーム。「孫にも一目置かれる存在」 を目指し、 世代横断型の地域コミュニティの育成に貢献している。
公式サイト:https://matagi-snps.com/ X:@MATAGI_Snipers YouTube:MATAGI SNIPERS
取材・文/一本麻衣
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