特殊といわれる中学受験の算数は、後々の「数学力」に生きるのでしょうか?(写真:Princess Anmitsu/PIXTA)中学受験ブームが過熱する中、あえて小学校のうちから高校受験でトップ公立高校や早慶付属校を見据えて勉強を進めていくという勢力が近年台頭しています。本稿では『中学受験はやめなさい 高校受験のすすめ』より一部抜粋・再構成のうえ、中学受験は避けて高校受験するメリットをご紹介します。

「中学受験算数」というきわめて独特な分野

よく言われている中学受験の弊害として、算数の問題が数学とあまりリンクしていないクイズのような難問になってしまっており、数学的思考力に良い影響を与えないのではないかという論点があります。

中学受験の算数は一般的な公立小学校で習う簡単な算数とは異なり、中学以降で学んでいく数学とも性質が異なる「中学受験算数」というきわめて独特な分野として確立されています。

その中でも代表的な中学受験の算数の分野に「つるかめ算」と言われているものがあります。これは「足が2本のつると、足が4本のかめが合わせて15匹います。足の数は合わせて42本です。つるとかめはそれぞれ何匹いるでしょう」といった問題です。

中学範囲の連立方程式を学んだあとであれば、つるの数をx、かめの数をyと置き、「x+y=15」「2x+4y=42」と2つの方程式を用意することで、加減法や代入法を用いてx=9、y=6と導き出すことができます。

しかし小学校範囲では中学範囲の方程式を教えないことになっているので、xやyといった文字を使わない解法が採用されています。例えば次のように考えます。

「つるの数を15匹、かめの数を0匹と仮定すると、足の数は15×2=30本となり、合わせて42本という条件に対して12本足りません。つるとかめを1匹ずつ交換していくと、1匹交換するごとに足は4−2=2本ずつ増えていくので、12本増やすには12÷2=6匹交換する必要があります。最初につるは15匹、かめは0匹と仮定していたので、つるは15−6=9匹、かめは0+6=6匹が正解になります」

他にも面積図や表を使って考えていく方法や、方程式のxやyの代わりに「△」や「□」といった記号を用いて解く方法など、中学範囲の連立方程式を理解している人にとっては遠回りと思えるような解法が様々あります。

これは、文科省の学習指導要領により方程式は中学から習う内容となっているため、小学生を対象とした中学受験では出題できないという事情があります。

頭の体操になったり、順を追って物事を整理していく力は付きそうですが、この解き方をひたすら演習するくらいなら、中学範囲の数学を少しでも先取っていった方が後々の「数学力」に生きてくる気もします(ただ、就活における「SPI」などの数的分野で出題される問題が、こちらの「中学受験算数」と酷似しているため、中学受験の経験者はここでは面目躍如することになります。6年後の大学受験数学にはあまり結びつかないかもしれませんが、10年後の就職試験の際にちょっと役立つことはありそうです)。

中学受験組は「英語」で苦労する

中学受験組で大学受験に苦労する人には、英語の勉強をおろそかにしたという共通点があります。これは中学受験組の最大の弱点と言っても過言ではないでしょう。

中学受験では英語が受験科目にないため、中学受験に専念するためには英語を勉強する余裕がなくなります。幼少期から英会話教室に通っていたような家庭でも、中学受験対策を理由に教室を諦め、中学受験対策塾にシフトするようになると聞きます。

語学習得のためには幼少期からその言語に触れておくのがいいのは定説ですが、中学受験に挑むために英語の勉強をストップする家庭も少なくありません(ただ、近年は中学入試でも英語を導入するところも出てきています)。

また高校受験では英語が受験科目になるため、高校受験対策を経験した人はその段階で英語力が強化されますが、中学受験組は高校受験を経験しないため、英語の対策がどうしてもおろそかになりがちです。

優秀な中高一貫校に入った人より、そこそこの公立高校に入った人の方が英語力が高いという話もよく聞きますが、たしかに高校受験を突破するために本気で英語を勉強する経験は英語力向上に大きな影響を与えるでしょう。

ちなみに開成高校や筑波大附属駒場高校、日比谷高校といった最難関クラスの学校に合格する高校受験組の英語力は、すでに英検2級〜準1級クラスであり、日東駒専(にっとうこません/日本、東洋、駒沢、専修大学)〜GMARCH(ジーマーチ/学習院、明治、青山学院、立教、中央、法政)の大学受験生並の英語力を身につけているとも言われています。中学卒業時点でこれだけの下地があれば、3年後の大学受験ではかなり有利に働くでしょう。

大学受験で敗北する最難関中学生徒の「深海魚」

ということで、中学受験のために小学生の間に英語を学習せず、その後も受験としての英語学習をおろそかにしてしまった中高一貫の生徒は、大学受験で重要科目となる英語に苦しめられることになります。

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実際、御三家や筑駒、灘といった最難関中学の生徒の下位1割は、GMARCHや地方国公立も厳しい学力となっており(6年間勉強していないのだから当然ですが)、彼らは「深海魚」と呼ばれています。彼らは12歳時点では全国トップクラスの算数や国語の力があったので、その貯金で数学や国語はそこそこできることも多いのですが、やはり英語はどうにもなりません。

中学入試でも触れず、最重要受験科目である英語をサボり倒してきた彼らは、小学校時代に缶蹴りや鬼ごっこに明け暮れていた、公立のちょっとできる生徒たちに大学受験で敗北することになるのです。

大学受験やその後の語学を生かした就職などを見据えた場合、中学受験に充てる労力で英語を先取り学習したり、英会話スクールに通うなどした方が効率が良いのかもしれません。

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