改善はどのように生まれるのか
仕事の改善は、過去に行った活動を客観的に吟味し、どうすればもっとよくなるかとじっくりと深く考えることで生まれる。
『最後は言い方』(書影をクリックすると、アマゾンのサイトにジャンプします。紙版はこちら、電子版はこちら。楽天サイトの紙版はこちら、電子版はこちら)仕事を思考(青ワーク)と実行(赤ワーク)に分けるとすれば、改善は青ワークの目的の要だ。青ワークはそもそも、赤ワークを改善するために行うものだ。
仕事において、考えること(青ワーク)だけを独立して行っても意味がない。意味を持つのは、実際の作業(赤ワーク)が何らかの形でよくなる場合だけだ。
赤ワークの改善の対象は、効率、作業の重要性、強靭さと柔軟さ、敏捷性など多岐にわたる。
改善には、偏見のない探究心と好奇心を持つことが、チーム全員に要求される。学習、創造、イノベーションのカギとなるのが、熟考と内省だ。
ただし、熟考するだけでは十分ではない。だから青ワークは「熟考」ではなく「改善」の時間なのだ。
改善にとりかかるには、頭をリラックスさせて時計の重圧を排除する必要がある。
時計を支配して中断を呼びかけるようになってからでないと、改善は行えない。時間に追われ、締切の重圧を抱えたままでは、改善に必要とされる思考ができない。
口を出したい誘惑に負けてはいけない
改善の際は、自分の限界に挑んで、あらゆる角度からさまざまな視点に立って考えることが求められる。
では、改善はいつ行えばいいのか?
まずは、改善に着手してはいけないタイミングについて説明しよう。チームが献身的に生産やプロジェクトに取り組んでいるときは、赤ワークの真っ最中なので、改善に適さない。
リーダーとして、チームが赤ワークに取り組むのを見ているうちに、改善できる点があると気づいたとしよう。
そうすると、すぐに作業に割って入って口を出し、彼らの「役に立とう」としたくなる。彼らの注意を引きつけて、自分の提案や意見を述べたくなる。
いまそうしなければ、チームは間違った方向に進み続ける、などと考え始めるのだ。
だが、この誘惑に負けてはいけない。
そんなことをすれば、作業の方向性が変わり、無駄が生まれる。作業への過剰な干渉となり、チーム内に不安が生じる恐れもある。
そうではなく、その「いいアイデア」は(ほかの人のアイデアと一緒に)記録しておき、「中断」の時間がきたら、青ワークで検討するようにしよう。
これができるようになるには、秩序と自制が必要になる。
改善は、作業(赤ワーク)を予定どおりに終えたあとで実施しよう。私が艦長だった潜水艦では、改善の時間のことを「批判の時間」と呼んでいた。
その時間はどうしても批判されているような気持ちになるので、厳しい時間になることが多かった。
ただし、乗員の行動が批判されるとはいえ、ルーティンとして改善の時間を設けることに慣れてくると、赤ワークがうまくいった、いかなかったに関係なく、乗員たちは批判を有効に生かせるようになった。
「継続的な改善」という表現は、改善の生じ方を正確に描写していないと私は思っている。改善は何度も生まれるものであり、積み重ねていくものだ。
改善のプロセスは、斜面を上がるというより階段を登るイメージが近い。
改善(青ワーク)の時間は、テストや実験(赤ワーク)で現実を知り、結果を観察したあとに置くことにしよう。
生産者から改善者にシフトしよう
私は「継続的な改善」を求めるが故に、自分のチームの邪魔をしたことがある。あなたにも同じ経験があるかもしれない。
『米海軍で屈指の潜水艦艦長による「最強組織」の作り方』(書影をクリックすると、アマゾンのサイトにジャンプします。紙版はこちら、電子版はこちら。楽天サイトの紙版はこちら、電子版はこちら)そうした態度をとる人は、「いいアイデアを囁く妖精」と呼ばれる。メンバーが作業しているところに不意に現れて、詳しい理由も説明せずに改善を提案するからだ。
私が新しいアイデアをチームに話したところで、彼らは私のようにはワクワクせず、私のアイデアと当初の計画のあいだで板挟みになっていたようだった。
思いついたアイデアや意見はすべて、次の青ワークの時間までとっておくこと。
やり終えた赤ワークについて労い、反省するなかで、ほかのアイデアとともにチームで一緒に検討し、どのアイデアを取り入れるかをみなに決めてもらうといい。
赤ワークにとりかかる時点で、改善を行う時間をスケジュールに組み込むようにすれば、思いついたアイデアを、発表に適したタイミングまでとっておく秩序が生まれる。
次の青ワークの時間を事前に計画するという発想は「時計を支配」することの一環であり、その時間がくるまでの作業に責任感を持って取り組むためのものである。
改善は昔から行われてきたが、昔といまでは大きく変わった。
産業革命時代は、階級によって青ワーカー(上司)と赤ワーカー(部下)に分かれ、改善の責任は青ワーカーが担っていた。
青ワーカーが赤ワーカーを観察し、判断を下すのだ。赤ワーカーは自己評価を求められなかったので、内省による心理的な混乱は生じなかった。
いまは、上司、部下にかかわらず、誰もが赤ワークと青ワークの両方を行う必要がある。誰もが赤ワーカーと青ワーカーの両方になるのだ。
それを実現するには、生産者という役割から脱し、改善者として客観的な目で生産を振り返ることのできる能力が必要となる。
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