「ピカチュウ」の部分アップ。中央上の黒点は指上突起。手前の花のように開いているのは二次鰓(えら)と呼ぶ呼吸器官=和歌山県串本町で、三村政司撮影

 この連載の読者の方から、「ウミウシは取り上げないの?」と何度かご質問をいただきました。確かに80回を超える連載の中、ウミウシを紹介したのは1度だけ。ウミウシよりも出会える機会が少なく、撮影も困難な海生哺乳類「海獣」は10回以上も登場しているというのに。

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 白状します。私はウミウシに関心が低く、詳しくないのです。「海の宝石」と呼ばれ、色鮮やかで種類もさまざまなウミウシにはファンがとても多い。冬になると「ウミウシダイブ」と名づけてひたすらウミウシを探すダイビングツアーが開催されることもあります。ウミウシだけの図鑑すら刊行されています。でも大まかにいえば、ウミウシは殻が失われたり小さくなったりした巻き貝の仲間。私に言わせりゃ、「派手なナメクジ」です。英語でも「Sea Slug」、まさに海のナメクジ。

 ただ、ダイバーの酒席などでうっかりそんなことを口にしようものなら、美しいウミウシを愛してやまないダイバーたちから総攻撃を受けてしまいます。「だったらナメクジもかわいがれよ」と小声で反論しても「好き者」たちの情熱にはかなわず、一杯おごらされる羽目になってしまうのです。

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 大半のウミウシは体長が数センチほど。日本近海では秋から春の間の水温が低いときに現れます。動作もゆっくりでじっくり観察できます。「Slug」には、「のろのろした者」という意味もあるとのこと。水中撮影の初心者などにはぴったりの被写体です。国内だけで1000種類以上、全世界では5000~6000種類が確認され、コケなどを食べる草食型の他、ウミウシを食べたり体液を吸ったりする肉食型もいます。

 名前も多種多様です。シンデレラ(シンデレラウミウシ)だったり、ヒツジ(リーフシープ)だったり、ショール(スパニッシュショール)やビロード(ゴマフビロードウミウシ)をまとっていたり、竜宮城の生き物(リュウグウウミウシ)だったりします。ウミウシ好きによるだろうネーミングのセンスには、全くもって感心させられます。異世界や異星を舞台にしたライトノベルや漫画、アニメに出てくるような美しく不思議で幻想的な世界に浸っているに違いありません。

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 その代表がこの「ウデフリツノザヤウミウシ」でしょう。ゲームやアニメの「ポケットモンスター」のキャラクターにそっくりなため、誰もが「ピカチュウウミウシ」という愛称で呼んでいます。むしろ、このピカチュウがきっかけでウミウシブームが始まったといっても過言ではありません。

 一見、藻類のように見える外肛(がいこう)動物「フサコケムシ」を探せば、全長2~3センチのピカチュウやその仲間がしがみつき、むしゃむしゃと食べている様子を見られることがあります。また、ウデではなく指状突起を伸ばしてふりふりしながら、海底をぐねぐねとはう姿を見かけることもあります。電気を放ちはしないけれど、不思議な魅力のある生き物であることは認めざるをえません。(和歌山県串本町で撮影)【三村政司】

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