ネコがニャーと鳴くのは人に対してだけだが、何を言わんとしているのかを理解するのは難しい。(PHOTOGRAPH BY MARTIN POOLE, DIGITALVISION / GETTY IMAGES)

「ネコにはボキャブラリーがあります。そして、注意を払っていれば、飼いネコをより理解できるようになります」と言うのは、飼いネコのニーズを理解する「最高のツールの提供」を目指したAI(人工知能)アプリ「にゃんトーク(MeowTalk Cat Translator)」の生みの親であるセルゲイ・ドレイジン氏だ。にゃんトークは無料アプリで、飼いネコの鳴き声を録音すると、「イライラしてる(I'm annoyed)」「餌ちょうだい!(Feed me!)」など、短いせりふに翻訳してくれる(編注:一部サービスは有料)。

翻訳の精度を評価できるようになっており、それによってコンピューターモデルが改良されていく。2020年11月のリリース以来、2000万回以上ダウンロードされており、ドレイジン氏によれば、現在までに10億以上の鳴き声を分析した。

「私たちはこの銀河で最も多くのニャーをため込んでいます」と米国ワシントン州ベルビューのソフトウェアエンジニアリング企業アクベロンでコンピューターサイエンティストとして働くドレイジン氏は笑う。

にゃんトーク以外にも、飼いネコとのコミュニケーションを助ける技術が次々と開発されている。「FluentPet」は、飼いネコがボタンを押してニーズを伝えるための製品だ。例えば、飼いネコを訓練すれば、ボタンを押して「遊ぼう」と伝えることができるようになる。

フランスのパリ・ナンテール大学でネコの行動とコミュニケーションを研究するシャーロット・ドゥ・ムゾン氏は、こうした製品の精度を信頼しているわけではないが、飼いネコとの関係を深めることは常に目指すべきことだと確信している。

「(にゃんトーク)アプリで遊べば、飼いネコにもっと注意を向けるようになるかもしれません」

ネコは飼い主のために鳴く

イエネコはネコ同士でコミュニケーションをとるとき、五感のすべてを駆使する。

尿や皮脂のにおいはネコの健康状態、性別、交尾を受け入れる態勢にあるかどうかを伝える。ボディーランゲージは気分だ。毛が逆立ち、背中が弓なりになっているのは恐怖の表情。耳が前を向き、尾を振っているのは満足感や警戒心の表れだ。

一方、ネコ同士の音声によるコミュニケーションはほとんどの場合、縄張りを主張したり、争いを解決したりするための威嚇やうなり声に限られる。

特に、おとなのネコ同士が「ニャー」と鳴き声を交わすことはない。鳴き声は人のためのものだ。

「これらの音はとても実用的な目的を果たすために進化してきたため、決して複雑ではありません」と米国ミシガン州にあるオークランド大学の心理学者ジェニファー・ボンク氏は話す。「彼らが私たちの合図を読み取るほど、私たちは彼らの合図を読み取るのが得意ではないのかもしれません」

ドゥ・ムゾン氏らは2023年の研究で、多くの飼い主は、飼いネコがいつ不機嫌になるかを知らないことを発見した。例えば、多くの場合、ネコは気分が良いときに喉をゴロゴロ鳴らすが、不快なときや痛みがあるときも同じように喉を鳴らす。

ネコの意図を90%の精度で分類できる

ドレイジン氏が同僚のマーク・ボーイズ氏と新しいアプリのヒントになるデータを探していたとき、2019年の研究に出会った。ネコの鳴き声には共通の特徴があるという内容だった。

研究チームはこの事実を発見した後、おとなのネコ21匹の鳴き声を分析するコンピュータープログラムを作成した。餌を待つ、ブラッシングされる、慣れない環境に置かれるという3つのシナリオを用意し、そのときの鳴き声を録音して使った。

ネコたちはそれぞれのシナリオで、コンピュータープログラムで分類可能な特定の鳴き声を発した。

そこで、ボーイズ氏とドレイジン氏は録音された何万もの鳴き声を使用し、人工知能(AI)搭載のコンピューターモデルを開発した。

これがうまくいった。2021年の研究で、にゃんトークはネコの意図を90%の精度で分類できるという結果が出た。

鳴き声が理解できないのは問題ではない

それでも、ドレイジン氏とボーイズ氏は、AIプログラムは完璧ではないと強調している。研究者のボンク氏とドゥ・ムゾン氏も同意見だ。

ボンク氏とドゥ・ムゾン氏もにゃんトークをダウンロードしたが、結果はさまざまだった。アプリはドゥ・ムゾン氏の飼いネコの鳴き声を「好き」と翻訳したが、ドゥ・ムゾン氏は正確ではないと感じた。

「多くの情報が欠けているんです」とドゥ・ムゾン氏は言う。「そのとき、飼いネコは食器のそばに座り、餌をねだっていました」

ボンク氏はFluentPetについても懐疑的だ。ネコは飼い主に何を伝えたいかを自覚しているため、ボタンを押させることは物事を複雑にすると指摘している。

ある程度の推測は避けられないものの、ネコの合図やボディーランゲージに注意を払うだけでも大きな助けになるとボンク氏は考えている。

ドゥ・ムゾン氏によれば、実際、ネコの姿が見え、声も聞こえる状況では、飼い主の方がネコの気持ちをはるかにうまく解釈できるという。

結局のところ、飼いネコの鳴き声が理解できないときは必ずあり、それで問題はない。「コミュニケーションとは、ネコと飼い主の共同学習なのです」とドゥ・ムゾン氏は語る。

文=Carrie Arnold/訳=米井香織(ナショナル ジオグラフィック日本版サイトで2024年11月12日公開)

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