獣脚類の歯が語る白亜紀の物語 Fausto García-Menéndez-Unsplash
<英国南部の採石場で発見された恐竜の歯化石が、1億3500万年前の白亜紀の肉食恐竜の多様性を明らかにした>
英国南部で、採石作業員として働いていた男性が恐竜の歯の化石を複数発見した。調べたところ、およそ1億3500万年前という先史時代に、同地域にはさまざまな種類の肉食恐竜が生息していたことが明らかになり、研究者らは胸を躍らせている。
古生物学者チームが、獣脚類(後ろ足で二足歩行する肉食恐竜)の歯の化石5点を調査したところ、それぞれ異なる恐竜群に属していることが明らかになった。それらの恐竜群は、ティラノサウルス科やスピノサウルス科のほか、ヴェロキラプトルなどを含むドロマエオサウルス科だ。獣脚類は、二足歩行で、大半は肉食の恐竜だが、実にさまざまなグループで構成されている。たとえば、巨大捕食者の「ティラノサウルス・レックス(Tレックス)」から、現代の鳥類の祖先である小型種まで幅広い。
古生物学ジャーナル『Papers in Palaeontology』で発表された最新研究の対象となった歯の化石は、イングランド南東部の町、ベクスヒル=オン=シーで見つかった。正確には、その郊外にあるレンガ工場「アッシュダウン・ブリックワークス」の中にある、ペヴェンジー・ピットと呼ばれる採石場だ。
これらの歯の化石のうち4つは現在、博物館で保存されている。発見したのは、同工場内の採石場で採石作業員として働いていたデイヴ・ブロックハーストだ。彼は、先史時代に生息していたさまざまな動物の化石標本を、30年近くにわたって大量に収集してきた。ここで獣脚類の化石が見つかるのは非常に珍しいそうで、ブロックハーストがこれまで発見した獣脚類の標本はおよそ10点に過ぎない。研究者らによると、同地域にあるこの年代の堆積物においてティラノサウルス科の化石が確認されたのは、今回の最新研究が初めてだという。
英サウサンプトン大学の客員研究員で、研究論文の筆頭著者であるクリストファー・バーカーは、本誌に対してこう述べた。「この地域にあるこの時代の堆積物で獣脚類が見つかるのは珍しいため、これらの標本は貴重であり、科学的に重要な意味をもつ。われわれは、どの種が存在していたのかを解明して生態系構造を再構築し、英国内のよく知られた他地域のものと比較したいと考えた」
古生物学者チームが今回の研究で調査したのは、前期白亜紀(およそ1億4500万年前から1億50万年前)にさかのぼる化石の歯だ。これらの標本がどのタイプの獣脚類のものかを特定するために、古生物学者チームは分析を行なった。
バーカーは次のように述べた。「今回の主な研究結果は3つある。英国における白亜紀のあまりよく知られていない時期に生息していた肉食恐竜の種類について理解が深まったこと。これらの肉食恐竜が、スピノサウルス科、ドロマエオサウルス科、ティラノサウルス科に属することが示されたこと。英国のこの地域や時代でティラノサウルス科が見つかったことがこれまでなかったことから、今回の発見がエキサイティングなものであること」
バーカーはこう続けた。「これらの標本は、英国で生息していた獣脚類の多様さを理解する上で意義深いものだ。それと同時に、この時代に世界で生息していた恐竜が一般的に希少であることを考えると、重要でもある。今回の研究は、英国の恐竜動物群(恐竜フォーナ)が時間とともにどう進化していったのかを理解することも助けるものだ」
ティラノサウルス科は獣脚類の一群で、強靭な頭骨と強力なあご、短い前肢で有名だ。この科は、後期白亜紀(およそ1億50万年前から6600万年前)には、進化を遂げてTレックスのような巨大な捕食者となり、頂点に君臨するようになった。しかし、それより前の後期ジュラ紀(およそ1億6300万年前から1億4500万年前)と前期白亜紀にも、小型種が存在していた。
一方、スピノサウルス科は、ワニのような細長い吻部と、背中にある「帆」のような突起という特徴を持った獣脚類だ。生息していたのは前期白亜紀と後期白亜紀で、半水生の生活に適応したタイプもいた
ドロマエオサウルス科(ヴェロキラプトルやデイノニクスなど)は、敏捷な小型の肉食恐竜で、後肢には鉤爪がついており、歯が鋭く、羽毛が生えていたと見られる。
恐竜の歯は、骨よりも長く保存されているケースが多い。そのため、恐竜の歯の化石はしばしば、研究者が先史時代における生態系の多様性を再構築しようとする際の重要な証拠となる。
ベクスヒル=オン=シーで確認されたティラノサウルス科は、この科の代表格であるTレックスと比べると、3分の1程度の大きさだったとみられる。研究者によれば、狩りの対象は小型恐竜や爬虫類だったようだ。
「私たちは何十年も前から、ここで生息していた獣脚類を解明したいと思っていた。そのため、今回の研究結果にはとても興奮している」。論文共著者のダレン・ナイシュはプレスリリースでそう述べた。
「イングランド南部には、白亜紀に恐竜が生息していた証拠が飛び抜けて多く存在している。この一帯に残るさまざまな堆積物の層は、地質年代という点でも、含まれている化石という点でも、世界的に見て独特だ」とナイシュは述べている。
サウサンプトン大学で研究指導教員(スーパーバイザー)は、本誌の取材に対してこう述べた。「世界で初めて科学的に描写された恐竜が、メガロサウルスと名付けられたのは1824年のことだ。それから200年も経つが、いまだに新しい恐竜が見つかっている」
「新種が平均して週に1つ見つかるというペースは落ちていないようだ。実際、今回のような新種がコレクションに加わることで、恐竜の多様性が私たちの予想を上回っていることが明らかになっている」とゴズリングは述べた。
(翻訳:ガリレオ)
【参考文献】
Barker, C. T., Handford, L., Naish, D., Wills, S., Hendrickx, C., Hadland, P., Brockhurst, D., Gostling, N. J. (2024). Theropod dinosaur diversity of the lower English Wealden: analysis of a tooth-based fauna from the Wadhurst Clay Formation (Lower Cretaceous: Valanginian) via phylogenetic, discriminant and machine learning methods. Papers in Palaeontology.
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