リグノサットの模型を手にした土井。増え続ける人工衛星が残していくごみが緊急の課題に IRENE WANGーREUTERS
<日本発の「環境に優しい」衛星プロジェクト。地球も宇宙もエコでサステナブルに開発していく時代に>
持続可能な宇宙開発を目指し、世界初の木造人工衛星が宇宙に飛び立った。11月初めに米フロリダ州のケネディ宇宙センターからスペースXの無人ロケットで打ち上げられた「LignoSat(リグノサット)」は、間もなく国際宇宙ステーション(ISS)から宇宙空間に放出される。
一辺わずか10センチの立方体の超小型衛星は、外装パネルに主にホオノキ(マグノリア)材を用い、接着剤やネジを使わない日本の伝統的な木工技法で組み立てられている。
京都大学の科学者を中心とするプロジェクトは、宇宙の重大な環境問題に取り組んでいる。従来の人工衛星の寿命は5年ほど。最後に燃え尽きる際に発生する宇宙ごみの影響が深刻化している。
「宇宙空間へのアクセス、探査、利用を続けるなら取り組まなければならない課題だ。素材を変えてある程度は改善できるかもしれないが、超高層大気をごみ箱にしていることの根本的な解決にはならない」と、ブリティッシュ・コロンビア大学(カナダ)物理・天文学部のアーロン・ボリー准教授は本誌に語る。
従来の人工衛星は大気圏に再突入する際に燃え尽き、そのとき放出する金属粒子がオゾン層を破壊する恐れがある。昨年の研究でこれらの粒子、特に酸化アルミニウムが、無視できない環境リスクをもたらすことが分かった。
「金属製ではない衛星が主流になるべきだ」と、宇宙飛行士で京都大学大学院総合生存学館特定教授の土井隆雄は5月の記者会見で述べている。
NASAのメーガン・エベレットISSプログラム副チーフサイエンティストも次のように語る。
「宇宙で木が使えるのかと思う人もいるだろうが、今回の調査で、木造の衛星が従来の衛星より環境に優しく持続可能であることを証明できるのではないかと、研究者たちは期待している」
万能の解決策ではない
地球を周回する人工衛星の数は指数関数的に増え続けている。衛星追跡サイトのオービティング・ナウによると、稼働中・非稼働を合わせて現在約1万1000基が地球を周回している。今後10年間で10万基を超える見込みだ。
宇宙産業の大手開発者は大規模な衛星群の展開を計画している。スペースXの衛星通信網スターリンクだけでも約3万5000基を打ち上げる予定で、アマゾン、ワンウェブ、中国空間技術研究院も野心的な計画を立てている。
リグノサットは従来のアルミニウム構造や電子部品も採用しているが、木製の外装パネルは、より持続可能な衛星設計に向けた大きな一歩だ。ただし、ボリーは次のように指摘する。
「木造の人工衛星も再突入時には熱で融解し、電子機器や金属などと共に物質を超高層大気に堆積させるだろう。木造は万能薬ではなく、望まない影響を引き起こす可能性もある」
リグノサットは6カ月間の地球周回中に、宇宙という極限環境で木材がどのように機能するかについて貴重なデータを収集する。このプロジェクトの成功が、環境に優しい次世代の人工衛星への道を開くかもしれない。
【参考文献】
Murphy, D. M., Abou-Ghanem, M., Cziczo, D. J., Froyd, K. D., Jacquot, J., Lawler, M. J., Maloney, C., Plane, J. M. C., Ross, M. N., Schill, G. P., & Shen, X. (2023). Metals from spacecraft reentry in stratospheric aerosol particles. Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America, 120(43), e2313374120.
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