隕石衝突が引き起こした栄養分流入が原始生命体の生育に貢献した ROMOLO TAVANI/ISTOCK

<太古の地球に衝突した恐竜絶滅時の200倍の隕石、その意外な影響が新たな研究で判明>

およそ32億6000万年前、巨大な隕石が地球に衝突した。その大きさは、恐竜の絶滅につながった隕石の最大200倍。この「S2」と呼ばれる隕石の衝突が残した地質学的痕跡から、初期の地球の姿を解明しようと、科学者チームが研究を進めている。

初期地球地質学者で、ハーバード大学地球惑星科学部助教のナディア・ドラボンが率いる研究チームは、南アフリカにある世界最古級の地質構造「バーバートン緑色岩帯」で採取した岩石を分析。先頃、米国科学アカデミー紀要(PNAS)で発表した研究は、S2が地球に衝突した日の出来事を、これまでで最も詳しい形で明らかにしている。


直径がエベレスト(チョモランマ)の標高の4倍以上あったS2の衝突は巨大津波を引き起こし、海水が混じり合い、陸地の岩石片などが沿岸地帯に流れ込んだ。衝突で生じた熱で海洋表層は沸騰し、大気温度が上昇。地球は厚いちりの雲に包まれ、光合成作用が一時的に停止した。

だが、この大惨事は予想外の展開をもたらした。バクテリアが驚異的な回復力を発揮し、急速によみがえったのだ。

「津波が襲い、海が沸き立ち、空が暗くなっても、初期の生命は立ち直りが早かった」と、ドラボンは本誌に語る。「数年後から数十年後、通常状態に戻った途端に回復しただけでなく、力強く成長した」

「隕石=絶滅」ではない

研究チームの分析によれば、S2の衝突後、鉄やリンをエネルギー源とする単細胞生物の数が急増したという。

隕石の衝撃は深海をかき回し、浅水域に鉄分を送り込んだと考えられる。一方、リンは隕石自体と、陸で加速する風化や浸食によってもたらされた。この栄養分の流入は、地球の初期生命の在り方を理解する上で重要なカギだ。


「代謝に鉄を利用するのは、その他の多くの元素より、エネルギー源として好都合だ。鉄を得られるようになり、鉄代謝が優位になったのだろう」と、ドラボンは話す。

大量絶滅を連想しがちな隕石の衝突が、原始生命体の生育や多様化に重要な役割を果たした──そんな可能性を示唆するドラボンらの研究は、隕石衝突と生命の進化の関係をめぐる従来の認識に疑問を投げかける。S2の衝突が地球表層環境に与えた影響と、初期生命における変化を直接的に関連付けた今回の研究は、太古の地球の理解につながる新たな道を開いている。

「当時の地球には巨大隕石が頻繁に衝突していたのだから、これは重要な点だ」と、ドラボンは指摘する。「隕石の衝突は大惨事と見なされることが多い。その最たる例が、恐竜の絶滅だ。だが私たちの研究が示すように、隕石衝突はある程度、初期の生命の進化に幸いしたのかもしれない」

ドラボンのチームは、バーバートン緑色岩帯で調査を続ける予定だ。この場所には、S2を含めて少なくとも8件の隕石衝突の証拠が残る。今後の研究では、硫黄細菌など、ほかの微生物の隕石衝突への反応を探るつもりだ。

「地球史の初期に起きたS2以外の隕石の衝突では、環境的変化がどれほど一般的だったのかも調べている」と、ドラボンは言う。「隕石衝突の影響は衝撃の規模や衝撃物の種類、衝突当時の環境と生命の状態が決め手になる」

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