カメラで撮影するオーロラは色鮮やかな光のスペクタクルだが ROSS HARRIEDーNURPHOTOーGETTY IMAGESーSLATE
<せっかく訪れたチャンスなのに実物は期待と大違い......写真のように鮮やかには見えない理由ととらわれない楽しみ方>
アラスカやアイスランド、北極圏まで行かなくても、オーロラ観賞ができる絶好のスポットの1つが、米ミネソタ州だ。気象学者の筆者は10年ほど前にミネソタへ引っ越してきたとき、すごいオーロラが見られると期待していた。
なにしろ、米本土48州の最北端はミネソタ州に位置している。地元女子サッカーチームの名称は「ミネソタ・オーロラ」だし、州内唯一の国立公園にはオーロラ観察専用エリアもある。緑のエイリアン色の光が夜空を彩る驚異を、何度も目にできるはずだ──。
大間違いだった。最初の2~3年に見かけたのは、地平線上にある灰色がかった緑の染みのようなものだけ。それでも、条件に恵まれた夜なら、はるかに素晴らしい光景が見られると思っていたが、そうはいかなかった。
最近、オーロラがよく話題になっている気がするのは、気のせいではない。太陽の活動が非常に活発になる「極大期」に入り、オーロラが頻発している。10月10日夜から11日未明には、各地で低緯度オーロラが出現し、米南部テキサス州やメキシコ中部のマサトランでも見ることができた。
今年5月10日の夜もそうだった。私は州内最大都市圏のツインシティーズ(ミネアポリス・セントポール都市圏)から車で1時間ほどの湿地帯で、友人一家と待ち合わせた。
素敵な夜だった。夜空を覆うオーロラが何時間も頭上に渦巻き、南の空が最も見応えがあった。NASAによれば、この500年間で最高級のオーロラ現象で、カリブ海地域でも観測できたという。
とはいえその夜も、人工光から遠く離れた場所だったのに、オーロラは緑っぽい灰色の染みにすぎなかった。普段よりずっと多かっただけだ。
じかに見るオーロラは、写真とは全く異なる。私はあの湿地帯で、息をのむ体験をするどころか、ずっと写真を撮っていた。何が起きているか、確かめたかったからだ。今では知っている。肉眼でのオーロラ観賞はこの程度がせいぜいだ、と。
これまでに見たオーロラの画像や動画は、著しく誤解を招くものばかりだ。約11年周期で変動する太陽活動の1周期分をミネソタで暮らし、何百回もオーロラを見ようとしてきたが、現実が期待に少しでも応えたことは一度もない。
オンラインでは、オーロラ愛好家のインフルエンサーが「目で見たまま」とうたう動画や画像を紹介している。だが肉眼で見る光景が、カメラで捉える鮮やかな光のスペクタクルにかなうことはない。
理由は単純だ。カメラは人間の目に見えない光の波長を捕捉し、肉眼がリアルタイムで認識不可能な色彩を大幅に強調する。私が使用するスマホ「グーグルピクセル」は、オーロラを撮影しようとするとデフォルトで夜景モードになり、肉眼では見分けられない色を多重露光で写し出す。
目の光受容器である視細胞の1つ、桿体(かんたい)細胞のおかげで、人間は暗い場所で周囲を見分けることができるが、色はほぼ判別できなくなる。色が見えるのは、比較的明るいときだけだ。ものすごくはっきりしたオーロラは例外的存在だが、その場合でも人間の目にはそれほど鮮やかに見えない。
画像で見るオーロラは緑やマゼンタ色や赤なのに、それが見えない自分は間違っているのかと思うのはもっともだ。だが、間違ってはいない。
太陽の極大期は現在、ピークに差しかかっている。強力な太陽フレアの発生や大規模なコロナガス噴出が次に起きるのは、おそらく2030年代半ばだ。だからこそ、がっかりするのは分かっているのに、今のうちにオーロラを見ようと頑張ってしまう。
私が多重露光なしで撮影したオーロラは、予想どおり大したことがなかった。これがフィンランドなら、もっとすごいのだろうか? 緑っぽい色以外の色が肉眼でも見える可能性はあるが、それでもカメラで捕捉可能な色と比べれば、彩度は劣るだろう。
あの地平線上にかすかに見える薄灰色の染みは、地球の方向へ秒速数百キロで噴き出された太陽のかけらが地球の大気圏に飛び込み、大学院レベルの物理学の概念を伴う仕組みによって光を放出する結果だ──そう理解するのは、知的な意味で興味深い。
だが同時に、イモムシや毛虫がチョウになり、自宅の安物の望遠鏡で木星に渦巻く雲を見られるのもすごいことだ。この世界は驚異と魅惑に満ちている。自然界で愛する現象を、好きに楽しめばいい。
夜空の染みを愛しているなら、それでも結構。だがこれは特殊な興味の対象で、誰もが生きているうちに見るべき何かではない。ほかの人々の美しい画像を羨むことなく、あまり大したことはなかったと偉そうな感想を持っても、いいではないか。
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