仏アキュレート(Akur8)は機械学習を活用した保険料設定プラットフォームを手掛ける=同社サイトから
日本経済新聞社は、スタートアップ企業やそれに投資するベンチャーキャピタルなどの動向を調査・分析する米CBインサイツ(ニューヨーク)と業務提携しています。同社の発行するスタートアップ企業やテクノロジーに関するリポートを日本語に翻訳し、日経電子版に週2回掲載しています。

CBインサイツはこのほど、世界で最も有望なインシュアテックスタートアップ50社を発表した。2024年で3回目となる。

今回の50社の概要は以下の通りだ。

テックベンダー(開発会社)23社保険会社と仲介会社(ブローカー)27社が選ばれた。

50社の調達総額は計56億ドル(約8071億円)で、このうち24年に入ってからの調達額は10億ドルだ(24年8月19日時点)。

アーリーステージ(初期)企業が4割を占めた。山火事リスクから生成AIを活用した業務フローの自動化まで、様々な分野をカバーしている。

・アジア、オセアニア、欧州、北米などから10数カ国の企業が選ばれた

・スイス・リー、東京海上日動火災保険などの業界大手を含め、20年以降に500社以上とビジネス関係を結んでいる

資金調達活動、業界での提携状況、チーム力、投資家の質、特許活動、従業員数、独自の商業的成熟度や健全性スコアなどCBインサイツのデータに基づき、50社を選んだ。スタートアップ各社が提出したアナリスト分析も参考にした。

24年の有望インシュアテック50社

24年の有望インシュアテック50社のハイライト

資金調達と企業価値

50社の24年8月19日時点でのエクイティ(株式)による資金調達件数(公表ベース、以下同)は約210件、調達総額は56億ドルだった。調達総額が最も多いのは米ネクスト・インシュランス(Next Insurance)の11億ドルで、2位は米コーリション(Coalition)の7億7000万ドルだった。

調達総額上位10社(24年8月19日時点)

24年の時点で、今年の成功企業は38件の公開株式取引を通じて10億ドルを調達している。以下の5件だけで24年の調達額全体の半分以上を占めている。

・米アルタナAI(Altana AI):シリーズC、調達額2億ドル

・アイスアイ(ICEYE、フィンランド):シリーズD、9300万ドル

・英ビテッセ(Vitesse):シリーズC、9300万ドル

・米カバー・ジーニアス(Cover Genius):シリーズE、8000万ドル

・英ハイパーエクスポネンシャル(Hyperexponential):シリーズB、7300万ドル

アルタナAIは24年7月のシリーズCラウンドで企業価値が10億ドルに達し、ユニコーン(企業価値10億ドル以上の未上場企業)の地位に達した。50社のうち、米アクセレラント(Accelerant)、コーリション、ネクスト・インシュランスもユニコーンだ。

ステージの内訳

24年の有望50社のうち、4割はアーリーステージ(主にシードまたはシリーズA)企業だ。アーリーステージ企業は他のステージの企業よりも急成長を遂げており、過去1年の従業員数の伸びの中央値は45%と、他の全てのステージの企業の中央値を23ポイント上回っている。

50社のうち、ミッドステージ(中期、シリーズBまたはC)の割合は46%、レートステージ(後期、主にシリーズD以降)は14%だ。

トップ投資家

コーポレートベンチャーキャピタル(CVC)を含むベンチャーキャピタル(VC)のうち、24年の有望50社への出資件数が最も多いのは米MS&ADベンチャーズだった。アクセレラント、米アンゼン(Anzen)、ネクスト・インシュランス、米ワグモ(Wagmo)の保険会社4社に加え、テックベンダーの英アーティフィシャル・ラボ(Artificial Labs)の計5社に出資している。

2位は米フェリシス、米ゼネラル・カタリスト、米ネーションワイド・ベンチャーズ、カナダのポーテージがそれぞれ4社で並んだ。

24年の出資件数が最も多いのはポーテージだ。米カバーツリー(Cover Tree)、米フェイ(Faye)、ギリシャのエラス・ダイレクト(Hellas Direct)の3社に出資している。

50社への出資件数が最も多いVC上位5社(24年8月19日時点) 出所:CBインサイツ

地理的分布

24年の有望50社の拠点は10数カ国に及ぶ。

このうちの半数以上(30社)が米国に拠点を置いている。米大都市圏ではニューヨークとシリコンバレーがそれぞれ10社で最も多く、ボストンが4社、アトランタが2社で続いている。

2番目に多い国は英国の8社で、内訳はロンドンが6社、バーミンガム近郊が2社だ。

従業員数の伸び

24年の有望インシュアテック50社の従業員数は計7700人を超える。ネクスト・インシュランス、コーリション、アイスアイ、カバー・ジーニアスの4社で約3分の1を占めている。

50社の従業員は23年7月〜24年7月に1400人以上増えた。米シックスフォールド(Sixfold)は同期間に従業員数を3倍以上に増やした(267%増)。

50社の従業員1人当たりのエクイティ調達額の中央値は60万ドルだった。アルタナAIとネクスト・インシュランスがそれぞれ160万ドルで最も多かった。

従業員1人当たり調達額上位10社

企業の健全性

健全性と成長力を示すCBインサイツ独自のモザイクスコア(1000点満点)が24年8月26日時点で700点以上だったのは、50社中41社だった。全業界の全ての未上場企業のモザイクスコアと比較すると、この41社は上位3%に入る。

50社のうち、モザイクスコアが最も高いのはネクスト・インシュランス(898点)で、2位はコーリション(881点)だった。

テックベンダーの大半がAIを提供

有望50社に入ったテックベンダーのほとんどはAI製品を提供しており、保険業界全体におけるAI(と生成AI)導入の勢いに合致している。引受保険会社向けのリスクランキングや、アジャスター向けの保険金請求の優先順位付けなど、優先順位の決定に活用されることが多い。

50社のビジネス関係もAIの活用を伴うことが多い。最近の業界大手との主な例は以下の通りだ。

・オーストラリアのリアスク(Reask)と仏アクサ・クライメート:24年3月

・仏アキュレート(Akur8)と東京海上ホールディングス傘下の米TMHCC:24年4月

・米インディコ・データ(Indico Data)と英コンベックス(Convex):24年6月

ビジネス関係分析。TMHCCは保険モデルを効率化するため、アキュレートの機械学習を活用した保険料設定プラットフォームを導入

MGAを手掛ける保険テックが増加

MGAは1社以上の保険会社から権限を与えられ、保険販売などの各種業務を担う仲介会社だ。MGAは今回の有望50社のうち、かなりの割合を占めている。保険業界全体でMGAのビジネスモデルへの機運が高まっていることを反映している。

特に商業カテゴリーのインシュアテックの大半は、企業向けに賠償保険を提供するMGAだ。一部の大手保険各社はMGAに戦略投資している。

・米アメリカンファミリー生命保険(アフラック)は24年4月、CVC(アメリカン・ファミリー・ベンチャーズ)を通じて米レッジブルック(Ledgebrook)のシリーズA(調達額2400万ドル)を主導した。

・米アーク・キャピタル・グループは24年1月、米レインボー(Rainbow)のシードラウンド(1200万ドル)に参加した。

・ヒスコックスは24年3月、米コーテリー・インシュランス(Coterie Insurance)のシリーズBでリード投資家を務めた。

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