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見立ての発想を伝える展覧会
この夏、田中さんは新しい展覧会を開催しました。見立てに使った道具の形・色・動きなど、作品づくりの着眼点ごとに分類・展示し、作品を通して、田中さんの発想のプロセスを伝えることが大きなテーマです。
(田中さん)
たとえば風景として山を表現したいって考えるとするじゃないですか。山を簡単なイラストに描くと三角形ってことになるわけですね。ということは、世の中にある三角形のものを見つければ、何でも山に見立てることができるというわけなんですよね。
(田中さん)
ここではサンドイッチなんですけど、たとえばほかの例でいうと、おにぎりが山になっていたり。スイカで三角形のヨットを表現したり。ひとつの三角とか四角だけとっても、いろいろ知ることができるんじゃないかと思います。
(大川)
こっちは、ウエディングドレス?
(田中さん)
これもサンドイッチの山で説明したものと似てるんですけど、スカートもイラストで簡略化すると三角形なわけですよね。ソフトクリームも三角形に近い形をしているので、けっこう、山に見立てられるものはスカートにも見立てられることが多いんですよね。以前、ソフトクリームの中腹に登山家の人形を置いて、雪山みたいに表現したんですけど、ソフトクリームの雪山ができるんだったら、これもスカートにできるというので作ったものになりますかね。
(大川)
形が同じだったら、こっちにも使えるな、こっちにも使えるなって広がっていくわけですか。
(田中さん)
そうですね。白くて三角形のものだと、さっきのサンドイッチもけっこう当てはまるので、サンドイッチの形をうまく調節すれば、こういうウエディングドレスみたいにも見立てられそうだなとかね。まだやってないんですけど、なんとなく予想はつくといいますか、そういうことを考えてますかね。
(大川)
田中さんの頭の中を公開するような展示内容ですね。
(田中さん)
そうです、そうです。それをいかに分かりやすく伝えるかということに重きを置いて作っているので。よく皆さんに、「どうやって考えてるんですか?」って聞かれるんですよね。それを短い時間で伝えることができなくて。ひとつの方法としてこれがあるけど、でも、もっとこういう方法もあるし…みたいになって話が長くなっちゃってですね。じっくりと皆さんにその方法というのを知ってもらう機会がほしいなということで考えたのが、この展覧会ですかね。
見立ては代わりを見つけて補う力
(大川)
ただ、この展覧会を見た人たちがみんな、実際に見立ての作品を作るというわけではないですよね。私たちが見立ての思考を知る意味は何だと考えていますか。
(田中さん)
作品にするっていうことだけ考えると関係ないと思うかもしれないですけど、基本的に、見立ては、誰にでも共通する想像力といいますか、発想の能力なのかなと思うんですね。たとえば、予算がないからこうしようとか、晩ごはんのおかずに、この材料がないから代わりにこれを使おうとか、「代わりに」ってよくやるじゃないですか。子どもの“ごっこ遊び”も「○○がないから、その代わりにこれを持ってこよう」みたいな。それがまさに見立てなわけですよね。
見立てという、いろいろ代わりを見つけるということができるようになると、ひとつの道じゃなくて、別の道もあるとか、ひとつだめになっても、代わりにこうしたらいいんじゃないかみたいなことが見つけられるようになると思うので、それが頭の中でどんどん分かってくると、展覧会を見た人の頭が刺激されて柔らかくなっていくといいなみたいに思いますね。自分のいまの現状の暮らしにどう落とし込めるかを考えてほしいっていうのがありますかね。皆さんに見立て作家になってほしいというよりは、あなたの暮らしに、こういう発想をどう取り入れられますか?見立てとして入れられますか?みたいな部分を考えてほしいので。
(大川)
私たちの暮らしの中にも、代わりを見つける、つまり、見立てというのはあふれている?
(田中さん)
あると思います。たくさんあると思いますよ。たとえば、コロナ禍で飲食店が休業したときに宅配サービスがはやったじゃないですか。営業できないんだったら、じかに届けりゃいいじゃないって。その後もみんな宅配サービスを使うようになりましたしね。オンライン会議もそうだと思うんです。じかに会って仕事できないんだったら、テレビ越しでもいいじゃないみたいな感じで。
(大川)
会議をしてるという点では同じだなっていう。
(田中さん)
そうそう、同じなんですよ。別に自慢じゃないですけど、僕はコロナ禍より前から鹿児島住まいなので、ずっと東京とオンラインで仕事してたんですよ。だから、そういう意味では、「いまさら」と思いましたけど。
(大川)(笑)
(田中さん)
でも、結局、「距離があるならオンラインでいいじゃん」と実感するって、そうならないと皆さん気づかないといいますか。本当に会えなくならないと、オンラインでもいいよねってならないじゃないですか、外からのバイアスといいますかね。だから、何かが欠けたときに、そうやって新しい工夫が生まれるっていうのは、まさにああいう状況に見立てが通じるものもあると思いますけどね。
「もうできないから、あきらめよう」みたいに考えると、そこは思考が停止してしまっているわけですよね。でも、「これがこうできないとしても、別の方向から考えれば、なんとかなるんじゃないの」みたいに考えられるかどうかしだいだと思うので。そういう考えができるようになったほうが、人生が自分の思いどおりにいくといいますか。楽しくなるといいますかね。そこを大きくとらえると、進路でも何でもそうだと思うんですよね。ほかの方法を自分で考え出して、自分が納得する道を探し出すというか。それを続けられるかどうかだと思うんですけどね。
(大川)
ものを見立てる力というのは、人生を豊かにするものでしょうか。
(田中さん)
大げさにいうと、そうあってほしいというか、そこまで広げて考えてもらえるとうれしいなというのは、ありますけどね。日本語で言ってる「見立て」の奥深さがあるわけですよね。診断を「医者の見立てでは」って言うし、服を着せるときも「服を見立てる」って言いますからね。それは、結局、いいものを選んだりとか、代わりのもの・そこにちょうどピッタリのものを当てがうみたいな、ものを選ぶ力ということですから。その方法がもっと身につけば、本当に便利になると思いますけどね。ちょっとでもよりよく生きるためには、見立てがあったほうが、生き方が変わるというふうには思ってますけどね。
世界中が共感できる見立ての考え方
日々の暮らしにも生かせる「見立て」。世界中が共感できると田中さんは考えています。
作品には、オリンピック、クリスマスといった誰もが知る文化やイベント、地球温暖化、環境保護など、世界共通の話題も積極的に取り入れています。
(田中さん)
どの国の人にでも伝わるように作るには、万国共通して通じるものを探すっていうのがいちばん大事になると思います。違う文化の人と話すときのネタにすると、距離が縮まりますし。たとえば、ファストフードのポテトとかはけっこうどの国でも同じだと、実際、自分が海外に行って思った部分もあったので、そういうのを作品にしたりとかね。
(大川)
マスクを使った作品もありましたよね。
(田中さん)
そうですね。コロナ前はマスクが当たり前じゃなかったんですよ。僕が花粉症の時期に、マスクをパラシュートに見立てた作品を投稿したんですけど、海外の人にはあんまりピンときてなかったみたいで、マスクさえ分からないみたいな。「これ、何なの?」みたいな感じで言われたりとかして。でも、急にコロナ禍で世界中がマスクというものに着目したといいますか、皆さんが着けるようになって、毎日見ているからこそ、マスクをモチーフに使ったときに、いろんな国から取材がきたりとかしてですね。そういう反響があったことを考えると、矛盾していておもしろいんですけど、コロナでみんな距離はとらないといけないですけど、心は同じ方向を向いてるなということを思ったりとかして。共通点ですよね、そこもね。そういう共通点を見つけるのがおもしろいなっていうのはありますね。
(大川)
世界的にも、この見立てっていう概念、考え方は受け入れられていきますかね。
(田中さん)
基本的には、どの国でもある考えではあるんです。目標としては、“Mitate(見立て)”ってことばを使わせたいんですよ、外国の人に。“Emoji(絵文字)”みたいな感じで。
(大川)
“Kawaii(かわいい)”とか。
(田中さん)
そうそう、表せないじゃないですか、ほかのことばで。だから、“Mitate”っていうふうに言わせたら勝ちかなっていう気はするので、それまではもっとやらないといけないな。
ほかの国だと、「見立て」っていうことばに含まれる、広い意味のことばってあまりないんですよね。英語だと、「似ている」みたいな感じで「look like」とか、「similar」とか、あと、「metaphor=隠喩」みたいな感じで、バラバラな単語ではあるんですけど、それらがすべて含まれてるじゃないですか、「見立て」って。「工夫する」とかも全部含まれるので。そういう意味で、いいことばだと思うんですよね。だから、もっといろんな国の人に“Mitate”って言わせたいなっていう。「これは“Mitate”としか言えないよね」みたいなになるといいなと思うので。だから、無理して僕は海外でも“Mitate”って言ってるんですよね。たまに「何なの?」って言われるんですけど。それが最終目標かもしれないですよね、“Mitate”っていうことばを使わせる。
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