長大は、道路や橋梁分野を中心に実績が豊富な建設コンサルタント会社だ。公共インフラに関する知見を生かした新事業開発の一環として、19年ごろに水上都市の検討を開始。空気を包んだ巨大な膜状のモジュールをつなぎ合わせて水面に浮かべる構造形式などの開発を進めてきた。浮体構造は洋上風力発電施設にも活用できるとみて実証実験に取り組んでいる。
同社の持ち株会社である人・夢・技術グループの永冶泰司社長は、「浮体構造物は、気候変動(による海面上昇など)の影響が大きい日本で有用な技術だと確信している」と話す。
一方、国内では浮体構造の技術や基準が確立されていない上、河川や港湾などの水上を建造物で占用する法制度も整っていない。寺田倉庫(東京・品川)などが都内の天王洲運河で整備した水上施設の事例では、浮体部分を船舶として扱っている。
フレックスベースは、04年ごろからオランダを中心に複数の水上施設の建造を実現してきた。長大はフレックスベースのノウハウを活用し、国内での実証や浮体構造の事業化を推進する。セミナーやワークショップを開催して、水上都市の実現に向けて社会の機運を高める取り組みも進める。
長大事業戦略推進統括部の菊地英一事業部長は、「水辺を活用したまちづくりの一環として、自治体と連携しながら検討していきたい」と話す。まずはドローンの離着陸場など人が滞在しない水上施設で実績をつくり、徐々に活用範囲を広めていく考えだ。
「50年の耐久期間はある」
フレックスベースが開発した浮体構造は、鉄筋コンクリート製の躯体(くたい)の内側にEPSを充填して浮力を持たせたものだ。EPSは軽いため、国内では軟弱地盤上の盛り土の代用として多く使われている。
同社のヤン・ウィレム・ロエル最高技術責任者(CTO)は、「オランダの施工例では、これまで15年間も問題なく潮水に浮かんでいる。50年の耐久期間はあると考えている」と話す。
水上都市は、地球温暖化に伴う海面上昇や人口増加による土地不足を背景として、世界的に注目度が高まっている。例えば国際連合の人間居住計画(国連ハビタット)は22年、韓国の釜山市などと共同で世界初となる「浮体式都市」の構想デザインを公表した。
ヤンCTOは、「水上施設を設置する環境は、オランダと日本であまり変わらないと思う。大きく異なるのは、日本では水上で暮らすという考え方がない点だ。そのため沈むのではないかと心配するかもしれないが、EPS形式の浮体構造は沈まないので安心してほしい」と自信を見せる。
(日経クロステック/日経コンストラクション 夏目貴之)
[日経クロステック 2024年7月30日付の記事を再構成]
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